表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

11 影を結ぶ線


 ルシアンはブランデー入りの紅茶を飲み干し、震える指先を押さえるようにカップを置いた。

 一度深く息を吸い、拳を握りしめる。


「最後は……マイルズ・オズボーン。副指揮官補佐だった男に会った」


 エドガーは指を組み、少し身を乗り出すようにしてルシアンを見る。

 目が合うと、静かに頷き、続きを促した。


「少佐の死因を尋ねた。すると……“誰がまだ生きてるかを気にしろ”って。

 “俺たちは使い捨てだった”。

 “お前も捨てられかけただろう”。

 そして……“問題は灰羽隊グレイウィングじゃない。『上』だ。名前は言えない。本気で手を引け”って――」


 エドガーは長い黒髪を指で梳き上げ、視線を暖炉へと落とした。


灰羽隊グレイウィングは……誰かの隠れ蓑にされたんだ。“影を歩く人”によって。

 しかもその“誰か”は、口封じのために部隊ごと消す力を持っている。

 一人の暴走じゃない。軍のどこかに潜伏部隊か、それに準ずる者がいる。

 灰羽隊グレイウィングの元隊員たちが怯えているのは、その存在のせいだろう」


 暖炉の奥で、赤い火が小さく爆ぜる。


「“ヴァイナス商会”が灰羽隊グレイウィングの補給コードを使っていたということは──

 “影を歩く人”と“ヴァイナス商会”は、確実に線で繋がっている」


 エドガーの群青の瞳が、ルシアンへと返ってきた。


「そういうことだろうね」


 その目に映った火が揺れ、ルシアンの琥珀の瞳も揺れた。


「エドガー……俺はお前を巻き込んじまった……。

 本当は来るべきじゃなかった。でも……どうしようもなかった。気づいたらここに……。

 すまない。心から……すまないと思ってる」


 エドガーはふっと口元を緩めた。

 穏やかで、落ち着いた笑み。


「ルシアン。これは僕に割り当てられた案件だよ。

 君が僕を巻き込んだんじゃない。

 僕が君を巻き込んだんだ。

 だから、僕のことで君が罪悪感を持つ必要なんてないんだ」


 そう言うと、すっと立ち上がり、ルシアンの背にそっと手を置いた。


「明日の朝また裁定院で話そう。夜はね、悪い方にばかり考えてしまう」

「だが……」

「いいや。今日は終わり。休むんだ。

 ピップ用の簡易ベッドがある。ここで寝ていくかい?」


 ルシアンは深く息を吐き、首を振る。


「……いや。帰るよ。そこまで甘えられない」

「甘えてる自覚はあるんだね」


 ルシアンは片眉を上げ、エドガーを睨むように見上げる。

 エドガーは不敵に笑った。


「お前は……本当に性格が悪い」

「そうかな? 皆僕を“紳士”と言うけど?」

「“紳士”がこんな散らかった部屋に住むわけないだろ」

「元気が戻ったみたいだね。……早く帰って寝なさい」

「へいへい」


 ルシアンは立ち上がり、扉へ向かった。

 扉に手をかけたところで、一度だけ振り返る。


「助かったよ。……お前はいい相棒だ」

「ありがとう。君もね」

「おやすみ」

「うん。おやすみ」


 扉が静かに閉まる。


 外は雪。

 ガス灯の光が濡れた石畳を淡い橙に染め、ルシアンの足音だけが夜気に吸い込まれていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ