おまけ6
「一通り装備は整ったかな、索敵しますねー」
『お願いしまーす』
降下してしばらく物資を漁ったのち、索敵キャラだけが使えるマップの仕掛けを作動させると、広域レーダーに敵を示す赤い点がいくつか。当然チーム単位になる三つの点が集まって移動していて、数秒間見えるその点の動きから周囲のチームがどこを狙っているのかを予測する。
「E方向、建国記念日からワンパ(1パーティ)来そう」
『え、なに?』
「(マップにピンを差し)俺たちはカレー色じゃないソフトクリームみたいな建物でドッキリ仕掛けましょう」
『ブフっ、ちょ』
[カレー色のソフトクリームは排泄物なんよ]
[あー、そういうヤツ]
[え、全部言い換えるつもり?]
そう。死ねだの殺すだの汚い言葉はオモロイ言葉に変えればいいだけのこと。ついでにゲーム用語全部。ただしアドリブは難易度ヘルモードかも。
「(ピンを差し)発見、ムチウチロデオ、半眼証明写真、続編コケたピエン」
『なにそれひとりしか分かんないよ』
『え、ひとり分かるの?』
[分かるか]
[キャラ名すら変えるの?]
[三つともある意味地獄じゃねーか]
まだ隠れ潜むこちらに気付かず、射線管理の出来ていない無防備な敵を狙撃。
「っし、続編コケたプペ……、続編コケたピエン脱いだ。俺は右から回ります。お二人はここで告って下さい」
『ちょ、ま、プペって、あ、無理』
『告るってなんで?』
[言い間違えたフリして正解やめい]
[なんて無駄に高等テクニック]
[告る、撃つか。あっちのリスナーは喜びそう]
「陸上バタフライ(ダウン状態)おつかれー、続編コケたピエン全裸で逮捕(棺桶)、そっちに二人行きました、位置見せますよー、はいチーズっ」
[監督が落ちぶれたみたい]
[半眼で撮られちゃうw]
アビリティ発動で二つの敵影が障害物を無視して画面に映った。これを見た二人の味方がいつ誰を狙うか、予測しやすい。二人は半眼証明写真に射撃。ぶっちゃけ下手。あまり当たらなかった。でもそっちはそれで構わない。半眼証明写真は二方向から撃たれて遮蔽に隠れた。撃たれなかったもうひとり、ムチウチロデオがアメリカンクモ男みたいにワイヤーを発射して二人との距離を一気に縮めようとする挙動が見えたから、俺はそいつが宙に飛ぶ直前の硬直時間に狙撃一発で防御力をゴッソリ削った。キャンセルも出来ず二人の前に瀕死のエサが飛び込む形。ザマァ。
「ムチウチロデオ、ゴムパッチン、もうひとりは俺が足止め、そっち二人で挟んでワーオ」
『分かるけど分からないって』
『大丈夫、二対一勝てる』
これは勝って欲しい。これがウォールハックの上手な使い方であり、一般的に弱いと言われる理由でもある。俺は味方を活かす立ち回りをする。味方がいつ誰を攻撃するかが分かれば、タイミングを合わせられる。ひとりが体力満タンの敵を倒せるキルタイムの最速理論値はざっとコンマ八秒。三人同時に攻撃できたら最速コンマ三秒以下で倒せる。敵からすると、照準を動かそうとかトリガーを引こうとか脳が命令して指が実際に動くまでに倒される。フォーカスが基本とされる理由。三対三はどちらが勝つか五分五分だけど、三対一は確実に勝つし、ノーダメージで勝つ可能性も高い。それを三回繰り返せば、データ上は三対三でも勝率は五分五分どころではない。
今の場合はフォーカスではなく次の展開を見越した立ち回りをした。半眼証明写真を俺も攻撃すれば倒せたけど、二人に突っ込む体力満タンのムチウチロデオのほうが怖い。距離が開いて俺のフォローが間に合わずにダウンさせられるかも。とまぁこんな使い方をすれば相当強いのに何故弱いと言われるのか。
他人は、プロすら含めてこれがほぼ出来ない。簡単に例えると、3on3のバスケ、誰にもパスせずドリブルとシュートしかしないプレイヤー、どう思う? このゲームのプレイヤーの多くがそういうタイプ。自分だけで戦ってチームプレーが分からない。流石に世界トップは凄いけど、今強いと言われる人の多くは全体のレベルが低くて強く見えるだけ。ドキュメンタリーかなにかで見た覚えがある黎明期のJリーグみたい。助っ人外国人ばかりが無双してた。サッカーのようにゲームの世界も数十年後は強くなるのかな。
「半眼証明写真脱いだ、白目ワープ、日付間違えたハロウィンに逃亡。ほっときまーす」
『え、追わないの?』
「ログ見とくといいよ」
勝ってダウンした敵を無視して聞いてきた仲間に答える。逃げたひとりはすぐに別パ、別のパーティに倒されて、これで三人全滅判定でウゴウゴしていたムチウチロデオも棺桶に変わった。
[おー、その判断カシコさんだ]
[次の敵がくる方向に逃がした、マ?]
「福袋(棺桶)漁ったら俺たちも左回り、小さいオッサン専用プール経由で日付間違えたハロウィンに行きましょ。ホラ、告ったから別パが寄ってきてる。ギョギョの利のチャンス」
[ギョギョって返り討ちされそー]
[銃声を他所でさせてヘイトコントロール? ガチにスゲぇ]
[日付間違えたハロウィンも地獄だな]
普段の俺はなるべく戦闘を避けるけど、今日は変換したゲーム用語をしゃべるために積極的にキルムーブする。それにさっきの索敵で確信した。野良さんのせいでこれ、有名配信者あるある、大量のプレイヤーが襲ってくる。好き勝手出来ないソロのパーティはこないけど、フルパはたくさんきそう。情報番組の街角お天気コーナーに映りたいモブの心理なのか、チーターもいそうだしゴースティングと合法チーミングはある前提で対処する。合法チーミングは、どのパーティも俺たちを優先して狙うから結果として談合しているのと同じという意味。
これを打破するには待ちは不利。三対六とか無理ゲーになる。他のチーム同士がぶつかるルートを選択して移動しつつ、つぶせるチームから速やかに処理する。
「やってるやってる。えーと、日付間違えたハロウィンにくノ一オジサン、インフルエンザー、転生したら握手だった券」
『プッ』
[ハロウィンじゃない日にくノ一オジサンは勇者や]
[インフルエンザーはただの病人なんよ]
[物語始まらないヤツ]
「敬老の日方面から晩飯ソムリエ、ガングロビービーエーがレゲエ高専一階扉前、ウルトラキャミソールだけが海岸事故物件に展開中こっち見てるから注意、くノ一オジサンが透明トンネル繋いで失敗して帰った、次にアビ使える二二秒後に多分もう一回単独でトライするから俺たちも便乗する」
『無理ー、誰が誰?』
『いや元の名でも無理。リリー、この野良さん超上級者の指揮官だ、見つける速度と報告量エグい』
[敬ってないネーミング]
[それアドリブ? まじで?]
[上級者はそう。こんなふざけた内容で気付くあっちもスゴい]
おや、いつの間にか同接が凄いことに。俺もプレイヤー名からは配信者バレしないようにしてるのに見つかっちゃったか。
「仕掛けは爆弾でも投げるか。そうだなぁ、昔々、ダークサイドデーモンコアが生え始めたころ、若かりし日の俺は誰にも打ち明けられない悩みを抱えた。なんでお前だけ天パなん? 雁字搦めのヤンデレブリーフを振りほどいて自由の女神トランクスに宗旨変えしつつも普遍のインナーという世間の荒波に揉まれた末なら当然の帰結だけど生まれたてやん? 上はサラサラストレートなエンゼルヘアーのこの俺の、本当の半身か? 悶々と過ごしたある夜、風呂場にて、俺は、俺ってやつぁ、悪魔の囁きを確かに聞いたんだ。シャンプー、リンス、コンディショナー、上だけに使うその他大勢の側に立つのかよ? てな。……あれから随分月日が経ったもんだ。それとあと四秒。下は変化あったのかって? そんなヤワなヤツじゃねぇのさ。むしろ数年前から天使がウェーブしてきたってことは俺たちの本体は悪魔のほうだ神というか髪よ、用法用量をお守り下さいエロイムエッサイム!」
『く、ププ、もう、なに』
『待って、指が震えて』
くノ一オジサンのアビリティのエフェクトに合わせて出現位置を予測してナパームグレネードを連続で投げた。相手がゴースティング、つまり俺の話を聞いていてハメようとする場合に備えたプランもあったけど無罪らしい。
[爆弾発言かよ]
[お前ホント小ネタを無限に持ってるよな]
「ガングロビービーエーと晩飯ソムリエが詰めてるレゲエ高専壁にくノ一オジサンのアビ、だよねー。海岸事故物件から射線が通らず張り付ける場所はそこくらいだもんねー。透明トンネルの出口が燃えててくノ一オジサンタップダンス、さらにガングロビービーエーのてのひらドリルを壁越しに味わっちゃって、そこから逃げるならこっちに顔出すから駆け込み乗車にご注意下さいー。っし、くノ一オジサン全裸、俺たちは火が消えると同時にこの裏手から入るよ、晩飯ソムリエのメシはまだかいなオンザステージが怖いから先にスペシャル使っちゃおう無敵なつもりのモノクロポエムっ、十八秒移動速度アップのうちに建物内を消毒するよついてきて」
と言いつつひとりで建物に突入。どうせ混乱してるでしょ。俺もなに言ってるか自信ない。
「メシはまだかいなきたけど残念でした無効ですー。ガングロビービーエー全裸、晩飯ソムリエ脱ぎかけ、そっちに行ったはいチーズ、現行犯逮捕任せまーす」
『も、もうやめて』
『コヒュー、コヒュー(バンバンっ)』
削られたから回復しつつマップを注視。俺のアビリティは二人に敵の位置を教えて二対一で先制できる環境を整えて確実に勝たせるのと、周囲に別パが近付いていないか確認する意味がある。
「インフルエンザーと転生したら握手だった券が接近、けど悪手だね。有利ポジの高台ブートキャンセルを降りたら告りまくりだよ脱げ脱げ転生したら握手だった券、あ、空見てインフルエンザー飛んだぁーーーー、逃がすかぁー、っし、逮捕ナイスぅー」
『あぁ゙ぁ゙、チヌ、チヌぅ』
『ヒッ、ヒッ、ヒーッ』
転生したら握手だった券はあっさり倒せた。その瞬間感情が流れてきた。コイツゴースティングしてたけど俺をハメる知性がなかっただけか。モニターの向こうで笑い転げて過呼吸起こして操作できなくなっとるやん。人の足引っ張るとかしょーもないと気付いて、足を洗ってウチの配信きてまともなリスナーになれ。
「ウルトラキャミソールは逃げたか、勤労感謝の日方面だから俺たちもはぐれメンタル目指しましょ。別パセンサーにしてやる。炭鉱のカナリアでもいい、震えて待ってろ、そーでーがー無い、フンフンフンフフフン……、ウ・ル・ト・ラ・キャミソール!」
[鳩コメ分かった上で書きます、もう許して]
[あっち大変なことになっとる]
てな感じでサクっとチャンピオン。大勢集まって撃ち合うからダメージゾーンの収縮に飲まれてゴッソリ消えた。なにやってんだか。ファンファーレとともに野良さんに挨拶して待機画面に戻った。
「どうよ、汚い言葉を使わなくても殺し合いのゲームは出来る。息子さんに一言。これぐらい出来るようになったら胸張ってゲームしてるって誰にでも言えるしみんな笑って応援してくれるぞ? 楽しもうぜ」
翌日、野良さんたちの配信がバズったらしく、俺もプチバズってた。もうええて。




