エピローグ 社畜を辞めて村人になる予定だったはずだったんだが。
「だからー、また会えるっていったじゃないですか」
台所から聞こえてくるのは、アルカの声。
あの時アルカは俺の代わりにエンゲルスの犠牲になった……はずだった。
はずだったが、そこはさすが「勇者の一味」ということで、最寄りの教会……つまり、この「サイーゴの村」の教会で復活を果たし、俺の家で飯を作っているという状況である。
「骸龍も倒したし、私も生きてるし。
それに骸龍を倒したことでスギーさんのスキルポイントが相殺されて元に戻ったんでしょう? だからこうして村で暮らすことができる。何よりじゃないですか!」
それは何よりなんだけど、なんだろう、この釈然としない気持ち。
あの時アルカに対して感じた思いとか。柄にもない怒りとか。
俺は一連の出来事を思い出して、枕を抱きかかえながら転げまわる日々が続いていた。
「まあまあ、そう気になさんなって。人生楽ありゃ苦もあり。その逆もまた然りってやつですよ」
うるせえなんだこいつの上から目線。
そんな風に思っていると……。
俺の家の扉が唐突にあいた。
現れたのは……マロンだった。
だからいい加減人の部屋に入る時は、ノックをする習慣をつけてくれ、と俺がぼやき始める前にマロンが叫びだした。
「スギーさん! やりましたね!」
「やったって、……今度はなんだ。エンゲルスを倒す以外のことはここ最近してないぞ」
そうなのだ。
なんだかんだ、アルカが来て飯を作ってくれたりする以外、俺は「ここはサイーゴの村ですよ」と旅人に説明をするモブキャラAの役割を忠実に果たしていた。もちろん、土日も完全に休み。あと半年働けば有休がもらえるというから、長期で休んでどこか旅へと出てみようかと目論んでいる俺でもある。
「異動の辞令が出ました!」
「はあああ? せっかくこの村に馴染んできたところだったんだぞ」
お気に入りの釣りポイントも見つけたしな。
「『スギーさんは勇者……ましてや魔王さえも脅かす力を持ってしまった』というのが理由みたいですね! やっちゃいましたね!」
「そんな明るく言われても!」
「次に行く町はもう決まってます。
囚人の町アルカトラズ。そこでスギーさんは看守の仕事をやってもらいます」
聞くからにストレスのたまりそうな仕事だった。
「嫌だ、俺は断る!」
「でもスギーさんの契約書に『転勤可』と書いてましたよね」
「……そ、それでも絶対に嫌だ!」
「スギーさん……私と離れるのが嫌なんだよね!」
と、よこからアルカが紛れ込んでくる。
「飯炊き炊飯女は別にどうでもいいが、自ら死地に赴くようなことはしたくない」
「大丈夫です! 看守になれば、救済措置としてもっと様々なスキルが解放されます。
そうすればきっとスギーさんなら魔王にも挑めますよ!」
「俺は別に最強を目指してないし、魔王に挑戦する気もない!」
そしてそんな風に、相変わらず社会というのは理不尽だ。
ま、異動先で俺の福利厚生が守られるのなら、それはそれでいいかもしれないけどさ……。
社畜を抜け出すために村人になったはずだった。
終わり。
通して読んでくださりありがとうございました。
第二章も構想はありますが、いったんここで終了させたいと思います。
次回作もお付き合いください。どうぞよろしくお願いいたします。