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人を転生させて、幸せになろうと思う  作者: ふぇい
第一章 書界管理課司書室転生担当、二見 理
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第一章7 蜜より甘く

 策謀の勇者ジェイソンは転生した。


 彼を転生させるにあたり俺がこなすべき書類的業務がいくつかあったが、それらは明槻さんに教えてもらいつつえっちらおっちら終わらせた。


 転生後は相棒のチェーンソーと共に働きつつ可愛い彼女を作って幸せに暮らしたいとのことだったので、林業が盛んな街に木こりとして転生するよう手続きをとった。

 ちなみに隣の家に一歳年上の女の子がいる家族を選んであげた。幼馴染み付きの転生というわけです。


 彼の相棒であるチェーンソーを出す力はなんとそのまま。なんとまあ至れり尽くせりだ。


 少し気になって明槻さんに「至れり尽くせりですね」と聞いてみたところ、


「書界からあの部屋にたどり着いた人には相応の対応をすることになっています」


 と回答があった。


 どうも、あの部屋に来る魂は選りすぐりなのだとか。

 策謀の勇者・ジェイソンとはいえ、勇者には違いなかったということだろうか。


 後に天守さんにも「至れり尽くせりなんですね」とさりげなく聞いてみたら


「折角自意識を保ったまま転生するんだからねえ、少しは良い思いをして欲しいじゃないか。やっぱり、転生には夢がないと」


 天守さんは「それに……」と続けた。


「チェーンソーを出すだけの力なら、仮にバレてもどうとでもなるくらいのものだよ」


 確かに現代ではどこからともなくチェーンソーを出したところで、そこまで気にされないのかもしれない。


 まあ、何はともあれジェイソン君には幸せになってもらいたいものだ。


 彼の転生に幸多からんことを。



***



「おかえり、二人とも。お仕事はうまくいったかな?」


 一通りの業務を終えて明槻さんと共に事務室に戻ったところ、天守さんが小さく手を振って迎えてくれた。その手にはやはり厚めのよくわからない本が開かれた状態で乗せられている。


 ふと窓の外をみると随分太陽が低くなっていた。夕焼けまでは後もう少しといったところだろうか。

 おやつの時間と言えばそんなところである。


「ええ、ジェイソンさんはとっても良い子でしたよ。彼のおかげで私の良いところを二見さんに見せられました」


 明槻さんがたおやかにそう言った。


「それは重畳。二見クンの初仕事を明槻サンに任せて正解だった」


 明槻さんは満足だと言わんばかりに笑みを浮かべた。


「……さて、業務は一段落ついたのだろう? 席についてお茶でもしよう。初仕事の感想でも聞かせておくれよ」


 天守さんは俺と明槻さんに席に座るよう勧めると、こなれた仕草で紅茶らしきものを淹れはじめた。なんとなく楽しそうな雰囲気で、気品のある香りがする茶葉に少しずつお湯を注いでいる。

 なんか本格的だ。


 新米としてはお茶くみもこなすべきかと手伝いを名乗り出たのだが……


「気を使うことはないよ。お茶を淹れるのはワタシの趣味のようなものでね。まあ、任せておくれよ」


 そう言われてしまっては、大人しく席に着くほかなかった。まあ、もとより茶葉から紅茶など淹れたことはないのだ。素人は黙っておくべきだろう。


 天守さんが明槻さんと俺の前にティーカップを置き、自分の席へと戻る。

 聞くところによると茶葉は無難なダージリンなのだとか。


「どんな人だった?」


 天守さんのその言葉から俺たちの報告が始まった。

 主に明槻さんが報告し、俺がたまに相槌を打つ。そんな感じだ。


「なるほどねえ。どうも最近よく聞くような気がするね。もともと虐げられていた者が一度排斥された後に、どこそこで力をつけて逆襲する……みたいな話をさ」


 天守さんはそう言った後にティーカップに口をつけ、その後小さく頷いた。


「今日はこの話にしよう。主人公が復讐を成し遂げると言った話はなぜ人々の支持を集めるのか。確か……復讐は何も産まないのではなかったかな?」


 天守さんは左手で開いていた本をパタンと閉じて、心底不思議だと言わんばかりに首を振った。その目は笑っている。


「また始まりましたよ。天守さんのお話(・・)が」


 明槻さんがやれやれと言った様子で呟いた。


「また始まったとは心外だな。ワタシは二人の話が聞きたいだけさ。特に二見クン、君の考えをね」


 俺の考えと言われましても。


「地井さん辺りが好きそうな話題ですね」


 地井さんとはもう一人の先輩の名前だったと思う。現状正体不明。


 さて、なんだったか。“復讐はなぜ人々の支持を集めるのか”だったか。

 せっかく先輩から話を振られたわけだしな、できるだけ考えてみるとしよう。


「…………大義名分が必要なんじゃないでしょうか」


 意を決して俺は口を開いた。

 天守さんはすぐに俺から答えが帰って来ないと思っていたのか、少しばかり目を見開いたようだった。


「どういう意味かな、二見クン」


 俺は少しばかり頭の中で今から話すことを整理してみた。


「――人間誰しも強くなりたい、強くなった自分を自慢したいという気持ちがある……と思います」


 たぶん。


「しかし人間は良識を持ち合わせてもいます。弱者をいたぶるのは褒められない行為である、好き勝手な行為をするものは嫌われる……みたいな」


 そんな欲望に理性が折り合いをつけて人間は社会性を獲得する、みたいな。


「確かにそうかもしれない。自分は人より優れていると思いたいものだ。しかし、それを表に出すとほかの人間から排斥されるかもしれないと思っている」


 天守さんは俺の言葉にうんうんと頷いてくれた。

 ……嬉しい。


「なぜなら他人もまた“自分は人より優れている”と思いたいものだからだ。だから自分のよりも優れているという他人のアピールに対して、人は素直な気持ちでは受け止められないものなのだろう」


 天守さんはそう言って俺に視線を戻した。


「だから人が力を自慢するときには、理由が必要なんだと思います。例えば“あいつは自分を虐げてきたから手に入れた力で思い知らせてやるべきだ”といった風に」


 つまるところ、こういうことではないだろうか。


「人々は物語に自分の願いを投影します。強さを自慢して皆に認めて欲しい、そんな願いを。しかし、単純に力を自慢するだけでは反感を買うので、復讐という明確な理由をもってして力のアピールを正当化する。“あいつはひどい目にあって当然の奴だ”だから強くなった俺が懲らしめてやるぞ、と」


 少々ヒネすぎだろうか。


「二見クン。ちょっとヒネくれてるね」


 ちょっとヒネくれていました。


「ただ、面白いね。一理ある。そういう側面があることは否定しないよ」


 天守さんは愉快そうだった。


「物語の基本は復讐と宝探しなんていう言葉もある。復讐はやっぱり甘美なのだろうね。心置きなく自分の力を振るえるのだから」


 承認欲求と知識欲を刺激して欲しいと、人々は物語に求めているということだろうか。


「明槻サンはどう思う?」


 明槻さんそれまで我関せずと言った様子で何か作業をしていたが。


「復讐についてですか。そうですねえ」


 と手に持っていたペンの根本を唇のあたりにあてて、考えるようなそぶりを見せた後にこう言った。


「理不尽な目に遭っている人を見ると、人は愛を与えたくなるものです。頑張りが報われないことは悲しいことですから」


 明槻さんは目を伏せたまま言葉を続ける。


「だから頑張りが報われていなかった人が、愛を獲得していく物語に惹かれるのかもしれませんね。その手段が復讐なのは少々悲しいことですが」


「明槻サンのそれは相変わらず神の愛だ。敵わないな」


 天守さんは明槻さんの話を聞いて肩をすくめた。


 そういえば、まだ天守さんの話を聞いていないな。聞いてみるか。


「天守さんはどう思っているんですか?」


 俺たちに聞くからには、何かしら自分でも思うことがあったのではないだろうか。


「そうだね。ワタシはこう思うよ」


 天守さんは片目を瞑りいたずらっぽく笑った。


「ムカつくやつはぶっ飛ばしたいものだ。せめて物語の中ではね」




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