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人を転生させて、幸せになろうと思う  作者: ふぇい
第二章 火の大森林における実地研修戦争
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第二章2 出張(実地研修)

 まずは冷静に、今朝の出来事を思い出してみよう。




「おはようございます」


 朝、俺は通常通り出社した。


「ああ、先に向かっておいてくれ」


 俺が事務室へ入ると、天守さんはヘッドセットに眼鏡が付いたような機器を装着して誰かと通話をしているようだった。


 そして机の上にはなぜかカフェオレみたいな飲み物が三つある。よく見ると黒い粒が沈んでいるのでタピオカミルクティーだろう。色的に緑茶、黒糖、普通の紅茶って感じだろうか。


 視線を天守さんに戻すと目が合った。


「おはよう二見クン。いい朝だね」


 天守さんはヘッドセットみたいな装備を外して微笑む。


「じゃあ早速だけど出張の準備をしようか」




 天守さんは茅島さんの時同様、どこからともなく分厚い本を取り出すと事務室の壁際にある本棚にさっくりと刺した。

 やはりガコンという音がして本棚が少し沈み、扉のように右へとずれる。


 この奥には備品をしまっている木目張りの部屋があるのだ。


「さて二見クン、まずはこれに着替えてくれるかな」


 天守さんはもう準備していたと思しき、つなぎに似たフォルムの服を渡してきた。

 つなぎというには体にフィットするタイプの服のように見えるがポケットが多いのでスマートでもなく、いまいちまとまりに欠けるデザインのような気がする。


 材質はなんだろう。深緑色の生地でさわり心地はレザーっぽいがたぶん違うのだろう。

 なめらかな手触りで運動性能はかなり高そうだ。


 事務室に戻り、言われるがまま着替えを行う。


 今日は地井さんも明槻さんも不在のようだったので、備品室にいる天守さんにだけ気を付けていれば特段着替えを妨げる事情などはなかった。


 着替えが終わり、俺は全身が深緑色になった。

 終わった旨の声をかけると、奥から何やら色々と手にした天守さんがぬっと現れた。


「よし。では色々渡していこう」


 そう言って天守さんはいくつかの備品をコトコトと机に置いていく。


「まずはこちら、携帯食料”Sビーンズ”だ」


 天守さんが手にしたのはプラスチックのケースに入った錠剤のようなものだった。


「書界のある特別な豆の成分を抽出したものでね。一粒で一日分の栄養を補給できるし、多少の怪我なら治すことが出来る。一ケース三十粒入り」


 なんか最初からとんでもないものを渡してきたな。

 本当はなんか有名な塔の最上階とかでもらえるやつなんじゃないの、それ。


「ありがとうございます」


 とりあえず、着替えた服のポケットに突っ込んでおく。ファスナー付きの頑丈なやつだ。




「次はこちら、通信、しょ…………こほん。通信用の”エメラルドの指輪”だ。何かあったらこちらを使うようにしてくれ」


 天守さんが次に手渡してきたのは緑色の宝石が埋め込まれた銀色の指輪だった。

 ていうか今、なんか言い淀まなかった?


「携帯じゃダメなんですか?」


「まあほら、職務上公共の回線にはのせられないようなこともあるからね」


 今から俺は公共の回線にはのせられないような仕事をしに行くということだろうか。


 こちらは簡単な使い方を教わった後、指に嵌める。


「言い忘れてたけどソレ、二見クンが外そうと意識しない限り外れないから」


 呪いの装備みたいですね。




「最後がコレ。”万徳ナイフ”だ。書界でも売れ筋の商品でね、手持ちできるモノになら大体変形できる。ナイフとかスコップとか、鉈とかピッキングツールとかダイスとか……まあ、大体何でもね」


 最後に渡されたのは一見ただの携帯用ナイフだった。刃をしまえるタイプのやつ。


「おまけに簡易だけど体表の汚れを洗い流してくれる洗浄機能が付いていてね。それ目的で買う人もいるくらいさ」


 キャンプとかに行くときにあったら便利そうだな。


 ていうか”Sビーンズ”と”万徳ナイフ”があったら大体の場所で生きていけそうな気がする。

 お高いんじゃあないでしょうか。


 万徳ナイフも天守さんから使い方を教わってからポケットにしまった。

 使い方といっても手に持って念じるだけでしたね。




「よし。これで準備は万端だ」


 俺の姿を見た天守さんが満足そうにそう言った。


「備品ありがとうございます。あの……それで俺はこれからどこに行くんですか?」


 結構気になってきた。さっきから色々もらうのはいいんだけど、なんか危険地帯に行くような装備じゃない?


 いやまあ出張と聞いているし、そんなに心配はしてはないんだけど……なんとなく不安になってきた。


「まあまあ、お茶でも飲みながら説明するよ。ほら」


 そう言って天守さんは机の上にあったタピオカミルクティーを手渡してきた。

 席に座るよう促されたので、天守さんと共に席に座る。



 そして俺が蓋付きのタピオカを振りながら『このタピオカ黒糖だな』なんて思っていたところ、天守さんはにやりと笑ってこう口にした……と思う。


「キミには今から書界に行ってもらう。無事ゴール地点にたどり着くのが今回の目標だ。書界への出張で内容は研修というわけだね。頑張って戻ってきてくれたまえ」


 は?


「はい、説明終了」


 と言って天守さんはそのしなやかな手をこちらに手を伸ばすようにして振ってきた。


 首筋にチクリと、小さな針が刺さったような感覚がある。

 動作的におそらく、天守さんが何か投げてきたのだろう。


 なんだこれえ……………。


 そして俺の意識は暗転した。



***



 なるほど。つまりこういうことか。

 俺は装備だけ渡され、多分天守さんの手によって書界に放り込まれた。

 出張(実地研修)のために。


 ちらりと周りを伺う。

 そよぐ木々と無数の動植物の気配。

 俺が寝ていた場所は少し開けた感じになっていて空から日差しが降り注いでいる。日差しの角度からして午前中かな。


 少し離れたところに人の手が入っていると思しき道(といっても木々が鬱蒼としていないといった程度のものだが)がある。


 まあ、なんて言うんですかね。完全無欠に森の中だ。


 これ、なんて言えばいいんですかね。……パワハラ?




 身動きをしようとしたらカサリとポケットの中で音がすることに気がついた。


 こんな音がするもの、ポケットに入れてたかな?


 何かと思って取り出してみると四つ折りにされたA3くらいのサイズの紙が出てきた。

 色見的には少し黄ばんでいて年代を感じさせるのだが、紙の質感としては全く古くなっているような印象はなく、むしろ非常にしなやかかつ頑丈な感触をしている。

 

 四つ折りにされている紙を開く。

 見ると、それはおそらく地図だった。地名らしきもの、森や山、村や町などといった地形らしきものが記載されている。


 特筆すべき所として、赤い点と青い点がその地図上に浮かび上がっていた。

 赤い点には”ゴール”、青い点は”二見クン”という文字が付随しているため、俺が目指すべき地点と俺の現在位置を表していると考えて相違無いだろう。




 なるほどね。

 俺の記憶に間違いはなさそうだ。


 やはり俺はこのゴールとやらを目指さなければならないらしい。


 意味が分からん。いや分かりたくない。




 ……しかしこうなっては仕方がない。

 俺はとりあえず『ふざけんな』と叫びたい気持ちを押し殺し、今やるべきことを考えることにした。



 目標はゴール地点に到達することだが、ここはおそらく書界だ。

 これまでの経験から考えるにどんな突拍子もない危険があるか分かったものではない。


 もらった備品が本当に使えるか確認する必要もある。携帯食料”Sビーンズ”を頼りにしてやみくもに進んだら、実はコレただのビタミン剤でした!

 みたいなことになったら行き倒れ待ったなしだ。


 まずは数日この辺で安全な場所を探し、周りの環境を把握しつつ装備の様子を見る必要があるだろう。




 わかりました。

 サバイバル開始!

 



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