【第6章】第10話:最初の任務と、予算の承認
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新たな配下「戦雷の侍女」を召喚し、役割を与えたフォージ。
今回は彼女たちに、旅館経営のための重要な「最初の任務」を言い渡します。
「お兄様、行ってまいりますわ! 秘密基地のための材料、山ほど集めてきますね!」
「ああ。頼んだぞ、ルナ。道中気をつけてな」
満面の笑みで大きく手を振るルナを見送り、彼女の姿が温泉街の路地に消えた。
ルナがレイドへと向かったこのタイミングこそが、新たなスタッフたちへ細かな業務指示を出す最適な時間だ。
俺は居住まいを正し、静かに待機していた五人の侍女たちに向き直った。
彼女たちは先ほどの再錬によって、フリルと電磁装甲が融合したような、この世界には存在しない独特な「戦雷の侍女」の制服を身に纏っている。
「奏、さっそく最初の任務を頼みたい」
俺の言葉に、総支配人代行である奏が一歩前に出た。
「……御意。マスター・フォージ。調査の対象と範囲をご指示ください」
「ああ。我々はここに旅館を建てるが、このクサーツヴェップ・アリーマの市場調査をしてきてほしい。王族御用達の高級宿から、市民に愛されている大衆宿まで、一通り見て回りたいんだ」
エンジニアとしての競合分析。それが今回の最優先タスクだ。
さらに、俺は彼女たちの制服に視線を落とした。
「全員統一の指示だが、やりすぎは禁物だ。俺たちは目立ちすぎず行動するターンだからな。まずは予算《経費》を使って、街に馴染むよう各々着飾り、身なりを整えるのを優先しよう」
「……はい。適度な擬態ですね」
財務担当の律が、少しだけ目を瞬かせた。
「そうだ。俺たちの元の装備のままでは目立ちすぎる。かといって、高級宝石などで声をかけられないほど着飾ると、情報収集の成功率が下がる。『思わず声をかけたくなるぐらい』の親しみやすさに調整してくれ。その絶妙なラインを狙うための衣装代なら、いくらでも予算を出す」
俺の言葉に、五人の瞳に、これまでの「命令絶対遵守」とは異なる知的な光が宿った。
「服が主役ではなく、君たちが主役だ。綺麗系、清楚系……方向性は個人の得意分野に任せる。君たちが主役として輝くことが、最高の調査結果に繋がると信じている」
「承知いたしました。……ではマスター、聞き込みのための社交費や飲食代の予算は、いかほどお渡ししましょうか?」
律の真面目な問いかけに、俺は思わず口角を上げた。
「社交費や飲食代? ……それを君たちに払わせるような事態になっている時点で、情報収集としてはダメだろう」
「え……?」
「気前よく奢らせて、気持ちよく喋らせてこい、ということだ。こちらから出す予算は、あくまで常識的な範囲の『お返し代』程度に留めておけ」
俺の意図を完全に理解した瞬間、侍女たちはハッと息を呑み、そして頼もしく優雅な笑みを浮かべた。
「……マスター。その意図、深く刻みました。私たちの本質を損なわず、かつ『隙』を演じてターゲットの懐に潜り込む……。各々の特性を最大化するスタイルを構築してまいります」
奏が深く一礼すると、五人は必要最小限の経費を手に、弾んだ足取りで準備へと向かっていった。
――数十分後。
買い出しと着替えを終えた彼女たちが、再び俺の前に整列した。
奏は質の良いシルクのブラウスで「若き実業家」風に。響は柔らかなパステルカラーのワンピースで親しみやすい「清楚系」に。律は洗練されたパンツスーツと眼鏡で「知的」に。紬は落ち着いた紺のドレスで「シック」に。栞は少し影のある「ミステリアスな旅人」風に。
それぞれの個性が爆発した見事なスタイリングに、俺は思わず息を呑んだ。
「……これは壮観だな。各々によく似合っている。さっきまでと違って、俺が声をかけたくなるぐらいだ。みんな自信を持って行ってきてくれ」
「……っ。ありがとうございます、マスター!」
俺の率直な賞賛に、侍女たちの頬が微かに上気する。
彼女たちは優雅に一礼し、クサーツヴェップ・アリーマの宵闇へと散っていった。
(……神様たち。正直、俺がドキドキして声をかけるところでしたよ)
『ガッハッハッハ! 正直で良いぞフォージ! 強い女が着飾る様は、戦場に咲く華だからな!』
『……ふむ。視覚情報の最適化が対象の精神に干渉し、情報開示を促す。極めて高度なソーシャル・ハックじゃ。主の動揺もまた、彼女たちの完成度を証明するデータと言えよう』
脳内での神々の賛辞を背に、俺は手元の端末……拠点の管理インターフェースを操作し、次の工程の準備に入った。
旅館経営の土台作りと情報収集。その最初の任務が、静かに幕を開けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
情報収集に向かう侍女たちへ、PMならではの鋭い指示が飛びました。
「奢らせて喋らせろ」というスパイ顔負けの合理的なロジックに、侍女たちも生き生きとしています。
個性を活かした見事な衣装に身を包んだ彼女たちは、果たして街でどんな情報を持ち帰るのでしょうか?
次回、いよいよ拠点予定地である「死の土地」の取得とデバッグが始まります!
引き続きお楽しみください!




