【第5章】 第2話:ギルドへの事後報告(欺瞞のデバッグ)
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ブリーフィングルームで完璧な手札(レポートと相場データ)を揃えたフォージ。
いよいよギルドのガランド支部長へ、事後報告と「大人の交渉」に挑みます。
王都サンダルの中央ギルド。
俺とルナは、ガランド支部長の執務室の重厚なソファーに腰を下ろしていた。
「――なるほど。北の廃坑の奥に、未踏破の崩落エリアがあり、そこに未知の変異種が巣食っていたと」
「ええ。提出したその『変異魔石』が、何よりの物的証拠です」
執務机越しに、ガランド支部長が俺の提出した最高級の羊皮紙と、怪しく濁った色の魔石を交互に見比べている。
その厳つい顔には、明らかな驚愕の色が浮かんでいた。
「……それにしても、驚いたぜ。俺も長いことギルドマスターをやっているが、こんなに分かりやすくて理路整然とした報告書は初めてだ。なんだ、この線の集まりは?」
「『折れ線グラフ』という、事象の推移を視覚化したものです。左が変異前のドロップ品の傾向、中央が変異種の発生時、そして右が……我々が原因個体を排除し、深層部を独自の術式で『物理的に封鎖』した後の、正常化された予測推移です」
「なんと……! 原因の排除だけでなく、二度と異常が起きないように空間そのものを封鎖して、再発防止まで徹底したというのか!」
ガランドが感嘆の声を漏らす。
横に座るルナが、「お兄様は神の御使いですから!」と誇らしげに胸を張った。
――よし。俺がダンジョンの管理権限を奪い、裏でネットワークを切り離した(私物化した)という事実は、完璧に『危険エリアの封鎖工事』という善意のベールで覆い隠された。欺瞞のデバッグ、完了だ。
「ガランド支部長。我々はプロです。依頼された初動調査にとどまらず、ギルドの安全を脅かすバグ……いや、異常事態があれば、根本から解決するのが我々の流儀ですから」
「……恐れ入った。お前さんたちを見込んだ俺の目に狂いはなかったぜ。これで王都北方の安全は保たれた。調査の前金として渡した銀貨三十枚に加え、危険排除と封鎖の特別報酬として……金貨三枚(約三十万円)を出そう」
金貨三枚。
駆け出しの冒険者(Bランク)に出す額としては破格のボーナスだ。だが、俺たちのビジネスはここからが本番である。
「ありがとうございます。……さて、支部長。もう一つ、商談があります」
「商談、だと?」
「ええ。廃坑の浅い階層で回収した大量の通常ドロップ品と、先ほどの『変異魔石』を含めた研究サンプルの買い取りについてです」
俺がそう言うと同時、視界の隅にゼノンが投影した『AR(拡張現実)の適正相場リスト』が緑色に発光した。王都の現在の流通相場と、異常個体の付加価値が完璧に数値化されている。
「通常ドロップ品の総量はこれだけあります。そして変異魔石は、王立の魔術院などに研究素材として卸せば、ギルドにとってもかなりの利益になるはずです。どうでしょう? これら一式をギルドで買い取っていただけませんか」
「……ほう。ギルドを通さず、直接商人に売った方が高く売れるかもしれないぜ?」
ガランドが、試すような、商人の目つきに変わる。
俺は余裕の笑みを浮かべて首を振った。
「目先の小銭より、信頼できるパートナーとの継続的な取引(Win-Win)の方が重要です。ギルドにもしっかり利益を出していただきたい。ただ……我々も命を懸けて持ち帰った品です。無理のない範囲で、少しだけ買い取り価格に『色』をつけていただけませんか?」
「……カッカッカ! 言うじゃねえか!」
ガランドは豪快に笑い飛ばし、羊皮紙を机に置いた。
「いいだろう。この分かりやすい報告書の手間賃と、今後の王都防衛の期待も込めて……全部まとめて金貨十枚で買い取ってやる! どうだ!」
俺はARの相場リストをチラリと確認した。
通常相場での合計額が金貨七枚。ガランドはそこに金貨三枚分の『色』を乗せてくれたことになる。ギルド側の転売利益を確保しつつ、俺たちに最大の敬意を払ってくれた、完璧な落とし所だ。
「……素晴らしい提示額です。取引成立ですね」
「ああ! これからも頼りにしてるぜ、フォージ、ルナ!」
こうして俺たちは、特別報酬と売却益を合わせ、総額【金貨十三枚】という大金を手にしてギルドを後にした。
だが、最強の武器『星鉄』を買うための目標額【金貨百枚(約一千万円)】には、まだ遠く及ばない。俺のプロジェクトマネージャーとしての資金繰り(リソース管理)は、まだ始まったばかりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ゼノンと作り上げたグラフ付きの報告書と相場データという「手札」を使い、ガランド支部長と見事なWin-Winの交渉を成立させました!
大人のビジネスとファンタジーの融合、お楽しみいただけましたでしょうか?
次回は宿(または食事処)へと戻り、ルナや脳内の神々(三神)と共に、北の廃坑での本当の成果……「影の宰相」から得た情報の振り返り(要件定義)を行います!
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