【第4章】第14話:未知の骨格と、0.2秒のアジャスト
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第14話です。
「戦雷の甲虫」のナビゲートを得て、隠しダンジョンを突き進むフォージとルナ。
しかし、深く潜るにつれて、フォージは「異世界の戦闘」ならではの洗礼を受けることになります。
最強の剣士が直面した、リアルな苦労とは……?
隠しダンジョンの道中は、決して平坦なものではなかった。
階層を下るにつれ、出現する魔物の多様性と凶悪さが跳ね上がっていったからだ。
「ルナ、右の壁面から来るぞ! 不定形(スライム種)だ、凍らせろ!」
「はいっ! 『氷結の吐息』!」
ルナの魔法で凍りついた粘液の魔物を、俺が鉄剣の柄でカチ割る。
その直後、死角から音もなく忍び寄ってきた『影狼』の爪撃に対し、俺は剣の腹を合わせて軌道を逸らそうとした。
――ギィィィンッ!
「くっ……!」
受け流したはずの衝撃が、手首から肩にかけてズシリと響く。
息が上がり、額から冷や汗が滲んだ。
(……勝手が違う。人間相手の剣術(対人戦)とは、まるで別物だ)
俺が長年培ってきた技術は、あくまで「人間」が相手であることを前提としている。二本足で立ち、武器を持ち、関節の可動域が決まっている相手ならば、次にどう動くか手に取るように予測できる。
しかし、四つ足の獣の跳躍力、昆虫の不規則な軌道、不定形の魔物の打撃など、未知の骨格や生態を持つ相手の「間合い」と「リズム」は、俺の経験則に存在しないのだ。
おまけに、この世界に来て得た「強靭すぎる新しい肉体」の出力調整もまだ完全ではない。自分の想定よりも踏み込みすぎたり、力が入りすぎたりして、無駄な体力を削られている。
『どうした小僧。たかが獣の群れ相手に、息を乱すとはな』
(無茶を言うな、オルステッド様。乗ったこともないF1カーで、未舗装の悪路を走らされているような気分だぞ)
脳内の戦神に軽口で返しつつも、俺は必死にこの世界の物理法則と、未知の敵の挙動を自分の肉体にアジャスト(適応)させていく。
魔物をデバッグし、再錬してクラウドへ放り込む作業を繰り返すこと数十分。
不意に、戦雷の甲虫が足を止め、低く唸り声を上げた。
開けた大空洞。その中央に鎮座していたのは、岩と鋼鉄を繋ぎ合わせて作られた体長五メートルを超える巨大なゴーレムだった。
「お兄様、あれは……!」
「ダンジョンの防衛機構……『守護巨像』だな」
侵入者を検知した巨像が、重い駆動音を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる。
『マスター! 中ボス級のエネミーです! 最適な戦術を【選択肢】として立案しました!』
========================================
▶ 選択肢1:ルナ様の魔法で遠距離から削る(安全策)
▶ 選択肢2:機動力を活かし、ヒット&アウェイで疲労を誘う(持久戦)
========================================
(ご苦労、ゼノン。だが……どちらも却下だ。今の俺の肉体じゃ、長時間の持久戦はミスを誘発する)
俺はゼノンのウィンドウを視界の端に追いやり、深く息を吐いて巨像の懐へと歩みを進めた。
ゴォォォンッ!!
巨像が丸太のような右腕を振り下ろしてくる。風圧だけで身体が吹き飛ばされそうになるほどの圧倒的な質量。
俺は極限の集中の中で『解析』を走らせながら、つま先と膝のバネを使い、巨像の攻撃ベクトルからわずか数センチだけ身体をズラした。ズドォォォォンッ!! と横の石畳が粉砕される。
人間ではない。未知の巨体。だが、機械的に動く「構造物」ならば、必ず設計上の不具合が存在するはずだ。
(見えた。右膝裏の魔力供給バイパス……動作遅延、0.2秒)
巨像が次の動作に移る前の一瞬の硬直。
俺はまだ馴染みきっていない高スペックの肉体に鞭を入れ、地を蹴った。
「シィッ……!!」
極限まで圧縮された雷の刃を、その0.2秒の死角にピンポイントで滑り込ませる。
ガガッ……ピーーーッ。
致命的な駆動回路の切断。耳障りなエラー音と共に、守護巨像はあっけなくバランスを崩し、自らの重みに耐えかねて轟音と共に崩れ落ちた。
「はぁっ……、はぁっ……」
俺は剣を杖代わりに膝をつき、荒い息を吐いた。
『見事だ、フォージ。未知の巨体と不慣れな肉体という枷がありながら、完璧な一撃だったな』
(……褒め言葉として受け取っておくよ、オルステッド様)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
圧倒的な強さを誇るフォージですが、実は「対人戦」に特化していたため、未知の魔物(獣やスライム)との戦いにはリズムが合わず、肉体の出力調整にも苦労していました。
そんなリアルな疲労を抱えつつも、守護巨像の「0.2秒のラグ」を突くという、研ぎ澄まされた観察眼と剣術で勝利を収めます!
しかし、二人の疲労は確実に蓄積しています。
この状態で、いよいよ最深部のボスに挑むことになりますが……フォージは「エンジニアとしての最悪の一手」を思いつきます。
「対人戦との違いに苦労するのリアル!」「アジャストしていく過程がいい!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価をお願いいたします!




