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4. いきなり転落ライフ はいと、捕まる

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目を覚ますと、牢獄の中だった。


冷たい石壁に囲まれ、通路につながっている柵は腕ほどの太さで一目見ただけでここからの脱出は困難であることがわかる。

さて、これから俺はどうなるんだろうか。

有権者の胸を徐に触ってきた不審者なんてどう考えてもタダじゃ済まないだろう。

こう人ごとにもなってしまうが、呪いのせいだと言ってわかってもらえるのだろうか。

オスフェルなら状況を伝えればわかってくれそうな気がするのだが、それが駄目なら俺の首が飛ぶな……。


どれだけ時間が経ったのだろう。

柵越しに見える窓からは満遍の星空が見える。

昼から何も口に入れてないせいで腹も鳴る。


俺の異世界転生はこんなカビ臭い牢獄で終わるのか。

今度こそ、つまらない人生だったな……。


しょうがなく項垂れていると壁の反対から物音が聞こえてくる。

ぼそぼそと人の声の様な……。


何だ?


俺は壁に耳をくっつける。


「……恐らくこの辺りだな。

よし。ギャリー、静かにゆっくり壊すんだぞ。

静かにだ」


そう聞き覚えのある声が聞こえるやいなや、


「ピュー、ピュー、ビュー!!!!」


外からの大きな衝撃により俺が耳をそば立てていた真横の壁にマンホールぐらいの大きさの穴が開く。


「こら!

ゆっくり、少しずつって言ったろ!

こんな一発で大穴開くほど音立てたら看守にバレるわ!」


そう言って穴から顔を出したのは見覚えのある1人と一匹だった。


「ピンプ、ギャリー!

助けに来てくれたのか……!」


「昼間のお前さんは明らかに様子がおかしかったんでな。

何か妖術にかかった様な……。

勘違いすんなよ。

単なる興味本位だ。

お前が吊るされようが焼かれようが構わないが、なんだか面白そうな事情を抱えてそうだから見逃してやるってだけさ」


鼻の下に指を当てながらピンプはそう言う。


「すまない。

ありがとう、ピンプ!」


「おっと、礼ならこいつに言いな。

こいつが助けに行くと言って聞かなかったから俺も着いてきてやったんだよ。

昼の肉の貸しがあるとよ」


「そっか。

ありがとうな、ギャリー」


俺がギャリーの頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振る。

この小さい図体で一体どうやってこの分厚い壁に穴を開けたんだろうか。


「で、昼のお前のあれはなんだったんだ?

こんなことしてただで済むわけないだろ」


「俺、訳あってサキュバスの呪いにかかっててさ、それを解くためにサキュバス探しの旅をしているんだ。

昼のが恐らくサキュバスの呪いだ。

俺自身もさっき気づいたんだが、突然精神が幼児化する体になっているみたいなんだ」


笑われるのを覚悟して言ったが、意外にもピンプは考え込む。


「うーん。

サキュバスの呪いか。

この辺りじゃ聞かないが、どこかでそんな噂聞いたことがあるな。

サキュバスは人間の男の精気を吸い腹を満たすために、人の食い物の中に呪いを込めた毒を入れるんだと。

それで呪いによって欲望が強大になった男の精を夜になってから吸い、ことが済めば自ら呪いを解くそうだ。呪いの効果はサキュバスごとに異なり多種多様らしいから、幼児退行ってのもあり得るだろうな」


「それはどこで聞いたんだ?!」


俺は勢いよく聞く。


「さて、どうだったかな……。

よく思い出せん。

それより、呪いが残りっぱなしのお前の方が不思議だな。

なんせ、サキュバス達は呪いによって精を吸うことを目的としてんだ。

つまり、呪い自体は男を呼ぶ餌みたいなもんなのよ。用がなくなりゃ呪いは消える訳だし、言うならばサキュバスの呪いってのは解かれること前提の呪いなのさ。

だからこそ、大事として取り沙汰されることもなかった訳なんだが、なんでお前の呪いは解けてないんだろうな」


-解かれることが前提の呪い-


その言葉に俺は妙に引っ掛かりを覚えた。


「さて、そろそろずらかるぞ。

看守の巡回が来ちまう。」


俺はギャリーの後ろに付き、その身のこなしを真似して城壁を伝った。

外の門まであと少しだ。

すると突然ピンプが立ち止まる。


「チッ、まだ居やがったか。

売りもんだがしょうがねえ。

ハイト、こいつを食いな」


ピンプはこっちに何かの実を投げてくる。


「アギアの実だ。

齧ると透明になる。

効果は長くは持たねえからちょっとずつ食えよ」


早速齧ってみる。

体が透明になる。

が、すぐに戻る。


「齧りながら移動すんだ。

ここからはノンストップで裏門から抜けるぞ。

着いてこい!」


ピンプは齧りながら猛ダッシュしだした。

俺も必死で着いていく。

目の前に看守が現れた。

しかし、齧りながら素通りすると全く気づかない。

よし、このまま脱出できる!


手元を確認すると実の果肉はもうない。


「ピンプ!

もう食い終わった!」


「馬鹿野郎! もう余ってねえよ!」


ピンプは頭をかく。


「ったく、よし。

ギャリー、ハイトを食え」


「は? 何言って」


「ピュー、ギャオ」


そう言われるや否や、ギャリーはその小さい胴体に見合わぬ大口を開け俺を口に頬張る。

中はベトベトとしていて生暖かい。

そしてこいつ、可愛い顔してすごい匂いがするな。

犬の匂いを8百倍は濃縮したような……。

俺は必死で鼻をつまむ。


そのままピンプがアギアの実を齧り出すと、ギャリーの中の俺ごと透明になった。


なるほど。

それで俺をギャリーに食わせたのか。


そのままピンプは裏門を突破し、塀を走ってから裏の茂みに隠れた。


「よし、ここまで来りゃもう大丈夫だろ。

ハイト、顔出していいぞ」


ぷはぁ!


鼻をつまむのをやめ、俺は思いっきり息を吸う。


「いろいろ世話になったな」


ピンプはこっちに向けて苦笑いをする。


「ったく困った客だな、あんたは。

 この茂みを抜ければ街を出れる。

 後はてめえの運次第だ。

 まあ、そうは言ってもこの程度の罪状じゃ広まってたとしてもこの街の外には追手も行かんだろう。

この辺りに点々とある村のどっかまで行って、そこで隠れてな。

この先は1人でいきな。

俺もお縄はごめんだからよ」


「わかった。

ありがとう2人とも」


そう俺は別れを告げ、茂みを手でかき分け奥に進んでいった。

茂みを抜けるとさっきまでいた街並みからは一転、人工物のひとつもない大自然の森に辺りはなり変わっていた。


「ここからどこに向かえばいいんだよっ。

とにかく街から離れないと」


意を決して俺は道なき道を進んでいく。

そういえばこの辺りには魔物が出るらしいよな。

武器を何も持たない俺がそんなのに出会したらゲームオーバーだ。

今の俺の持ち物は騎士に突き飛ばされたときに騎士団にバレずにピンプが拾えたわずかなベビー用品しかない。

残りは騎士たちに没収されてしまった。

幼児退行への対抗手段となるおしゃぶりなんかはその場で没収されてしまったし。


まあ、そんなものがあったところでこんな状況じゃ何の役にも立たないけどな……。


とにかく魔物に見つからないよう目立たない草むらなんかに身を屈めつつ、いつか村まで辿り着くことを希望にして森を進み続けた。



………。

……。

…。


「?!」


ある程度進んだとき、暗闇で足元が見えず、泥の溜まった沼に落ち、体全体が泥まみれになった。

大慌てで抜け出したが泥の重さにより少し体を動かすだけで体力が消費されていく。

たまらず俺は着ていたものを全部脱いだ。


「くそっ。

パンツの中まで入り込んでやがる」


しょうがない。

恥を偲んでこのまま全裸で進むしか……、あ、そういえば。

俺は荷物を弄り、赤ん坊用のオムツとおしり拭きを取り出す。

まさかこいつが役に立つとはな。

俺は体中をお尻拭きで拭き、白く綺麗なおしめに身を包んだ。

屋外でこの格好になるのは初めてだった。

赤ちゃんプレイ中でもなんでもない普段の俺からしたら屈辱でしかない。

が、そんな悠長なことも言ってられる余裕は今の俺にはない。

泥だらけになった衣類をそこに残し、俺はオムツ一丁でまた進み出した。


………。

……。

…。

もうどれだけ歩き続けたのだろうか。

いつまで経っても村は見えない。

疲労と空腹は限界を超え、草に体を引っかかれ、皮膚をズタズタにされながら、俺は必死に歩みを止めずにいた。

ゴールが見えぬ不安感と身体の限界によって、俺はとっくのとうに呪いによって幼児退行し、いつしかはいはいで進んでいた。


「まんまっ……。

ぱいぱいっ……。

まっまっ……」


そう呟きながら、俺の体力は限界を迎え、その場に崩れ落ちた。

朦朧としていく意識の中で何者かの声が聞こえる。


「だっ大丈夫ですか?

変な格好……って意識がない?!

は、早く小屋まで運ばないとっ」


「まっ……ま……」


その愛らしい声を聞きながら、俺の意識はブラックアウトしていった。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

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次回【村娘ユリシアとの出会い】

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