最終話. そしてママになる
今回で最終回です!
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酒場の外にあるラウンジに俺はユリシアに連れられて出た。
ウッドデッキから身を乗り出したユリシアは涼しそうに夜風を浴びている。
「ここ、お気に入りなんです。
いつもこの時間には人もいませんし」
そう言って、なんとも麗しげな瞳を俺に向けるユリシア。
「そうなんだ。
それで、話ってなんなの?」
「はいとさん、私、はいとさんのママになります」
「へー、そうか。
ユリシアが俺のママに……って、えぇ?!」
さらりと言ってのけたその言葉に俺は度肝を抜かれる。
「はぁ? どういう……」
俺は困惑して言葉が出ない。
「私洞窟の中ではいとさんの心に触れられた気がしました。
はいとさんがどれだけ可哀想な目に遭ってきたのか。
そのショックで、幼児退行スキルなんていう嘘をついてまで、赤ちゃんであろうとしているなんて、本当に可哀想です」
「え? ……いや、ちょっと待て。
大体合ってるんだが、1番肝心なところが誤解されてるな?!
ユリシア! 俺は変態じゃない!!
洞窟で君に話したスキルは本当のことだ!
お願いだ! 信じてくれ!!」
「わかってますよ。
はいとさんは変態なんかじゃありません。
ただちょっとだけ疲れているだけなんです。
だから、私にも突然襲いかかってきて……。
でも、もう大丈夫です。
はいとさんのその劣情、全部私が受け止めて見せます。
えっちなことは……まだ、あまり自信はないですが……赤ちゃんはいとさんのママとして、私、頑張ります!
それが……、私が初めて自分で見つけた夢なんです」
「ユリシア……」
ユリシアの視線が地面に落ちる。
「私、子供の頃からお父さんもお母さんもいなくて、ずっと、ただ、周りの人に嫌われないことばかり考えていました。
孤児院でも、ここでお姉ちゃんと暮らすようになっても自分から何かをねだったことは一度もありませんでした。
我慢していたというより、わからなかったんです。
自分が何を欲しいのかを。何がしたいのかを。
でも、はいとさんと出会って、はいとさんの優しさに触れて、初めて欲しいものができました。
私は、私のことを命懸けで助けてくれたはいとさんのことを支えていきたい。
そう、初めて心の底から自分の夢が持てたんです」
ユリシアの目は力強く輝いていた。
「……」
「だから、私、はいとさんの役に立ちたいんです。
はいとさんのためならなんだってします。
ママにだってなれます。
……だから、ずっとそばにいさせてください」
そう言ったユリシアの表情には不安と期待が入り混じっていた。
ユリシアがこれにここまで尽くそうとしてくれている。
その気持ちはとても嬉しい。
身に余るほどだ。
だが、俺は大人だ。
ここで欲に負けて俺の幼児退行スキル克服というどうしようもない冒険記に学業優秀容姿端麗性格満点将来有望のユリシアの未来に泥を塗ってしまうことになる。
答えは決まっている。
「……だめだ。
君にはこれから学校に行き、学業を積んで、華々しい将来があるじゃないか」
「そんなことどうだっていいんです!
私は、もう決めたんですから。
生涯、はいとさんに尽くすって……」
もう、言うしかないか……。
「君には言わないでいたが、俺は囚われの身だ。
貴族へのセクハラでな……。
それも幼児退行スキルのせいなんだが……。
まあ、そんなこんなあって、君の村に身を潜めていた。
それだけなんだ。
だから、もう忘れてくれ。
俺みたいなやつ、君には相応しくないよ。
じゃあな」
俺がこの場を離れようと歩みを進めようとすると……。
「ま……、待ってください!!」
俺の背後から特大の膨らみを2つ、思いっきり押し付けられた。
「……!! ユリシア!
まずい! 逃げろ!
俺が赤ちゃんになる前に……!」
「いいえ! 離れません!
なってください、赤ちゃんに!
私が全部、お世話してあげますから!」
ユリシアは俺の胴に手を回してひっつき虫のように離れない。
「頼む! 離れてくれ!
まずい……。
赤ちゃんに……、って、え……?」
突然身じろぎをやめた俺にユリシアは不思議がる。
「どうかしましたか? はいとさん」
「ならないんだ。
赤ちゃんに、ならない。
そういえば、洞窟でユリシアに抱きしめられたとき幼児退行が解けて、それから全く赤ちゃんになる予兆がしなくなったんだ」
俺が状況についていけずにいると、ユリシアは何か閃いたように飛び跳ねる。
「それですよ、はいとさん!
私に甘えて、私がしっかりあやしたから、赤ちゃんにならなくて良くなったんです!」
「そうか……。
確かに……」
簡単なことだったのだ。
幼児退行スキルを封じるにはしっかり甘やかされればいい。
それだけでよかったのだ。
「はいとさんの赤ちゃん化を止めるためには私が必要なんです。
はいとさん、観念してわたしを旅に連れて行って下さい!」
ユリシアは俺に抱きついたまま離れない。
「わかったよ!
ついてきていいよ!
ただし! 学校には通うこと。
いいな!」
「はい、はいとさん」
ユリシアは俺から手を離し、いつものようにニコッと笑って見せた。
なんだかユリシアの将来が心配になるな。
……色んな意味で。
そして翌日の午後。
俺とユリシア、ピンプを乗せた王都グリーンレイク行の馬車は大勢の村人たちに涙ながらに見送られながらこの田舎村を出発していった。
馬車の上で綺麗な洋服に身を包んだユリシアは緊張しているようで少し表情が固いまま自分の学校鞄を抱きしめている。
ピンプはガーガーイビキを立てながら昼寝を始めている。
ギャリーの鼻提灯も見える。
そして、俺はというと……まぁ、ぼちぼちってところだ。
落ち込んだりもしたが、今ではこうして仲間もできた。
もちろん、これから王都に着くのだから油断はできない。
だが、このクソったれスキル"幼児退行"が意外と助けになってくれる、ような気がしなくもない。
まあ、あれだけの修羅場をこのスキル一本で潜り抜けてきているんだから、愛着だって湧くさ。
昼から何も食べてなかったせいか、腹が減って来たな。
……嫌な予感がする。
「オギャー! オギャー!
ママー! パイパーイィ」
俺の泣き叫びにピンプが目を覚ます。
「おいはいとぉ、人が寝てるってのに、突然でかい声出すなよぉ。
心臓が潰れちまう」
そして、ユリシアがこちらに近づいてくる。
「は、はいとさん!
お、おっぱいのじ、時間ですか?」
やっぱり勘弁してくれー!!!!!!
完
最後まで読んで頂きありがとうございました!
現在、この物語を続けるか、全く新しい物語を書いていくかで今後の予定を考えています。
続編の構想は粗方出来ており、王都グリーンレイクでのはいとの活躍が描かれ、新ヒロインも続々登場する予定です。
もし本作の続編が読みたい方がいらっしゃいましたら、ブックマーク・評価・感想を頂けましたら幸いです。
今後の活動の参考にさせていただきます。
度重ねてになりますが、本作「社畜の俺が異世界スローライフを謳歌できると思ったら強制発動特殊スキル"幼児退行"で孤立した件」を読んで頂き、誠にありがとうございました!




