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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第三六話 撮影会、です!

「はい、では撮りますよ。さん、に、いち、はい!」

「…………」


 リモ・トルトで最初の、そして今のところ唯一の写真館で、俺は撮影会に参加させられていた。


 ただでさえ写真が苦手なのに、俺一人のために延々と写真撮影が行われて、俺の精神は大きく削られていた。SAN値がピンチどころの話ではなかった。


 可能な限りこんなことは避けたかったのだが、俺の選挙ポスターを作成するにあたってどうしても必要だ、ということで、ミュリアに促されてここに来たのであった。この後も色々予定が入っていて、若干憂鬱であった。


 凍り付いた、貼り付いた笑顔のままでいた俺に対して、写真館の主人であるおっさんは微妙な顔で言った。


「うーん、やはり少し……いえ大分表情が硬いですねぇ。お客さん、もう少しだけ表情を柔らかくできませんか?」

「表情を柔らかく……って、どうやれというんだ?」

「どう……と言われると難しいですけれども……。こう、顔の筋肉を柔らかくして、力を入れずに、楽な態勢でいてくださればと」


 楽な態勢と言われてもなぁ。こんな状況で楽な態勢になれるだなんて奴いないだろうに……。目の前にレンズがあるだなんて常軌を逸しているとしか言いようがないだろう。想像しただけで首の筋肉が硬直して謎の震えが止まらなくなるというのに、現実にそんな状況になったらもうどうしようもない。


「先生、まだ終わらないんですかぁ?」


 グローヴィアが欠伸をしながら、心底飽き飽きしたようにそう言った。隣に居たミュリアも、腕時計を気にしながら落ち着かなさそうにしている。因みに、グローヴィアの俺への呼称は結局先生で落ち着いたようだ。


「お客さん、お連れの方もお急ぎのようですし、ここはささっと決めてしまいましょうよ。もうレンズを意識せずに、自然な感じでお願いしますよ」

「自然、と言われてもな……。……なあ、いっそのこと、笑顔の写真でなくても良いんじゃないか? 敢えて、こう、キリっとした表情でいくとか、そんな感じの方が良いんじゃないか?」


 すると、ミュリアは、若干投げやりな感じもうっすらあったものの、なりほどというように頷いた。


「あー。なるほど。確かに、そういう考え方もあるかもしれませんね。笑顔よりも、むしろ真面目な顔の方が、しまった感じが出るのかもしれません。……笑顔よりはきっと良い写真が撮れると思いますよ!」


 多少馬鹿にされた気もしないでもないが、まあ良いか。さっさとこの苦行を終わらせよう。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


「……はい、撮れました! 現像までは少々お時間を頂くことになると思うので、今日は終了と言うことになります。お疲れ様でした」

「やっと……終わったのか……」

「長かったですねぇ」


 本当に長かった。顔の筋肉がもう麻痺しそうであった。もうしばらくしたら顔に筋肉痛が出る気がする。


 まあ、これで一仕事終えたと思えば、気分も晴れるというものである。今日は一杯やることにしようかな。


「まったくです。先生がしっかりと表情を決めないからですよ? あ、もう予定の時間になってしまいます。早く行きましょう! 先方を待たせてしまっては大変です」


 ……ああ、そうだった。まだ今日はやたらと予定が入っているんだった。憂鬱すぎる。クソ怠い。……なんて言っても仕方がないか。とっとと行くことにしよう。


 そう言えばミュリアも先生呼びにしたのか。確かに、様付けで呼ばれるのはむず痒いし、有権者にとってもあまり印象が良くはないかもしれない。先生か、さん付けくらいが良いのだろう。


 俺たちは写真館を出て、急遽購入することにした自動車に乗り込んだ。連合王国では、他国に先駆けて自動車の運転免許制度が整備されており、自動車の運転には免許が必要になるのだが、ミュリアもグローヴィアも運転免許を持っていなかった。そこで、唯一免許を持っていた俺が、運転手をすることになっていた。元の世界でも恐らく免許は持っていたらしく、運転の仕方は体が覚えていた。……いや、体は違うのだから体が覚えているわけがないか。まあしかし、要するに俺は車の運転ができたのである。まだ車も少ないし、交通事故を起こすことは多分ないだろう。


「えーと、次の行き先はリモ・トルト第一中央商工会議所です。この道をしばらく真っすぐ行って、突き当たりを右ですね」

「了解した」

「その、運転して頂いて、本当にありがとうございます。どうせ必要ないだろうと思っていたもので……」

「気にするな。私が運転できたんだし、大きな問題は無いだろう」

「少し時間ができたら、私かミュリアかが免許取りますので、それまではお願いしますぅ……」

「ああ、任せておけ。……にしても、ファーナリアは何があったんだろうな?」

「そうですね。理由も言わずに行ってしまうなんて……」


 ファーナリアは、あの手紙が届いた日に、急用ができたとだけ言って、一人王都へと帰ってしまっていた。そこそこ深刻そうな表情であったため、三人とも彼女に詳しい話を聞くことができないままであった。


「……俺のせいじゃないよな……? 何かこう、やっぱりこいつじゃ選挙勝てないぞ、的な? もうこの上司じゃこの先やっていけないぞ、的な?」


 走っている車は今のところ数えるほどしかいないが、歩道を歩行者がそこそこ歩いている大通りを、気持ちの良いスピードで走りながら、しかし俺はそんな悲観的なことを呟いていた。


「あはは……、そんな悲観的ならなくてもいいのではないかと……。色々と可能性はあるとは思いますが、多分、十中八九あの手紙が原因でしょうね」

「あの手紙、なんて書いてあったんでしょうかぁ? 差出人がファナちゃんのお父さんなのは間違いないのですけど……」


 そう、差出人は確かにケルヴィン氏であった。無論、本当に自身が書いたかどうかは分からないが、ファーナリアは黙って手紙を読んでいたのだし、恐らくその意思で書かれたものであることには間違いのだと思う。


「……まあ、極論は置いておくとして、常識的には、お父様に用事がった、とかですかね?」

「用事か……。まあ、あり得なくもないだろうが、あまり可能性はないだろう」


 何しろ、お父様直々に、俺についてここに行けと言ったのに、数日と経たずその娘を自分の用事で呼び戻したりはしないだろう。俺の見る限り、そこまで常識の欠けた人間であるようには思えなかった。企業……に限らず、組織の指導者は少々感受性が低いだとか、サイコパス的だとかいう言説をどこかで聞いたこともあるが、それにしてもこのタイミングで、しかも娘にそれを発揮するとは思えない。というか思いたくない。どうか信じさせて~♪


 …………ゴホン。


「だとすると……」

「まあ、そうなるな」

「ですかぁ……」


 まあ、家庭の事情、もっと言えば、親戚の誰かに不幸があった、だとか、ひょっとすると家族の誰かが重い病気になった、だとかいうことなんだろう。だとすると、あまり突っ込まない方が良いんだろうな。言葉を濁していることからすると、二人もきっと何となく察したのだろう。


「……あ、もうそろそろですね! 気を取り直して、頑張っていきましょう!」

「ああ。二人もフォロー頼むぞ」

「はい、お任せください!」


 車から降りた俺たちは、若干緊張しつつも、商工会議所の入る建物へと足を踏み入れたのであった。




「……このように、プロスペラ人民戦線の殲滅と、ルスティクム共和国の復興はほとんど目途がついており、従いまして、我が第九師団のこれ以上の駐屯はもはや無用ではないかというのが我々の意見です」


 王都、首相官邸内の閣議室にて、ラーヴァイズ首相以下、全ての大臣が集まり、議論を交わしていた。


 今日の議論の議題は、専ら、第一機甲師団によるプロスペラ人民戦線の撃破以降、その交代としてルスティクム共和国に駐屯を続けてきた第九師団の撤兵の是非であった。


「いえ、しかし、先ほどから何度も申し上げている通り、現地の治安は未だ不安定であります。このような状況のままに我が軍を撤退させるというのは、治安の大幅な悪化を招くこととなり、プロスペラ人民戦線や、その他の過激派組織の浸透を許すことにも繋がりかねません。我々としては、撤退は断固として反対であります」


 数時間前から続いている今日の閣議は、未だに議論が平行線のままであった。第九師団駐屯に伴う費用の増大を懸念する財務省と、治安の悪化を懸念する国防省の意見が真っ向から対立し、妥協が成立する見込みすらも見えてこなかったのである。


「そのような点については我々としても相当に憂慮するところではあります。しかし、本作戦の開始以降、その戦費は既に三億ジルンを超えております。これは我が国の財政赤字の主要因の一つとなっており、これ以上の費用増加は我が国の財政状況からして最早耐えられるものではありません。既に現時点で戦時国債を発行して何とか費用を賄っている状況なのです。国防省の皆様におかれましては、我が国の危機的な財政状況を良く認識して頂きたいのです」


 若干の景気回復の兆しが見え始めてきたとはいえ、未だに連合王国は不況の真っ只中にあり、税収の大幅な回復も見込めない以上、垂れ流される財政赤字を少しでも削減するにはそれしかない、との強い意思が、そこに含まれていた。


「ええ、確かに財務省さんの言われることはこちらとしても認識しているつもりであります。こちらとしましても、駐屯にかかる費用の削減を目指し、駐屯人員の削減や装備等の節約等を行っております。


 それに、……これはかなり秘匿レベルの高い、かつ未確定の情報でありますが、人民解放軍は先日、プロスペラ共和国への軍の駐留を決定したとの情報が入ってきております。それに向けた動きとして、人民解放軍の一個から二個師団が、国境沿いの基地に集結しているとの情報も入ってきております。これが事実であれば、人民共和国の勢力はその国境を越えて、大陸の中央にまで及ぶことになるのです。そのような状況下で、我が軍を撤退させることは、彼らに誤ったメッセージを送ることにもなりかねないのです」


 会議室内が若干の喧騒に包まれた。国防大臣はなおも言葉を続けた。


「人民解放軍が、仮にプロスペラ共和国のみならず、ルスティクム共和国へも軍の駐留を行えば、我が国は遂に共産主義勢力と国境を直に接することになるのです。皆様には、この意味が良くご理解いただけると思います」


 会議室は完全に静まり返った。これまで漠然としていた脅威が急に身近になったへの恐怖と、そのような仮定的事実に対する懐疑とが混ざり合った、そんな空気に包まれていた。


 しばらく沈黙が続いた後、おもむろに首相が口を開いた。


「……そうだな、これ以上議論を続けていても、恐らく結論は出ないだろう。まだ我々には他にやるべきことが多く残されている。明日までに、私と国防大臣、それに財務大臣がもう一度話し合って決定したいと思う。他の大臣方、それで異存はないか?」

「……異議なし!」


 そういう感じで、結局明確な結論の出ないまま、大臣らに漠然とした、しかし深刻な恐怖感を植え付けただけの閣議が終了したのであった。


ようやく少しだけ動き始めた選挙編です。もう少しテンポを良くした方が良いのでしょうか? まあ色々考えながら頑張っていきたいと思います。

お米しか来ないです……。

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