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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第三四話 敵情視察、です!


 決起集会と言う名の飲み会から一夜。せっかくだからと、事務所周辺に三軒ある、というより三軒しかない居酒屋の全てをコンプリートするという偉業を成し遂げた俺たちは、凄まじき二日酔いで死にそうになりながらも、どうにか事務所へ集合した。と言っても、まだ何も選挙に向けた準備をしていない俺たちに出来ることはほとんどなく、事務所の中で駄弁り続け、偶に、間違えて入ってきたような気がしないでもない老夫婦や暇なおじさんの話相手をして時間を潰していた。


 意識の高そうな若者二人が、俺たちとひとしきり話を終えて帰って言った後、ミュリアは叫ぶように言った。


「……って、こんなんじゃだめです!」

「うおぅ! き、急にどうしたんだ?」

「あまり騒ぐと埃が立ちますよ?」

「なんなら今少し水が零れちゃいましたぁ……」


 三人が狼狽していると、ミュリアは畳みかけるように叫び続けた。


「もう! こんなんじゃだめだと言ったんですよ! これじゃあ、ただ私たちが暇つぶししているみたいじゃないですか! 全然選挙運動してる感じがしないです!」

「いやいや、これも立派な選挙運動ですよぅ。この話し合いの中で、真に国のためになる政策を議論し、訪ねてくれた人たちに政策を語り、支持を訴える。もうこれ以上にない選挙運動ですぅ。いやあ、私凄い働きましたね」

「ただ四人で駄弁って、来た人にお茶とお菓子出してもてなしただけじゃないですか! 大学の同好会とかだってもう少し一生懸命活動してますよ! まったくなってません!」


 まあ、それを言われると何も言い返せないな。今日一日だけ切り取ったら、ただの日常アニメのワンカットにしかならないだろう。どうせなら、登場人物は女子高生四、五人の方が良かったのだが、まあ贅沢は言わない。


 ……そんなことはどうでも良いのだ。ミュリアの言う通り、確かにこのまま漫然と日々を過ごしていては、とてもじゃないが選挙での勝利は不可能だ。正確に言えば、俺が代表を務めているらしい統一レグリア国民運動だか言う政党の勝利は不可能となる。そうなれば、代表である俺の責任を問われることとなり、今までのキャリアがパーとなってしまうかもしれない。


 だが、そんなことを言っても、どうすれば良いのか……。


 そんな俺の気持ちを察したのか同かは分からないが、ミュリアは決意に満ちた表情で言った。


「……私も、選挙運動に関わったことは初めてですし、どうすれば良いのかパッと思いつくことはできません。ですが、やってやれないことはないと思うんです。やる前からグダっていては、出来ることもできません。とりあえず、他の政党が何をしているのか、見に行きましょう!」

「なるほど。それは確かに名案だ。早速行くことにしよう」

「すぐに準備しますね」


 俺とファーナリアが共に立ち上がると、グローヴィアは気怠そうなまま、机のお菓子を頬張りつつ言った。


「あー、その、私はですねぇ、その、事務所にお客さんが来たらいけないので、ここで待ってまーす」

「……ま、まあ、それは必要だな。じゃあ、留守は任せたぞ?」

「はーい。気を付けて行ってきてくださいね」


 そんなわけで、ちょっと一本取られた感が否定できなかったが、ともかく、グローヴィアを除く三人は、事務所の外へと出た。




「さて、ということで、外に出たわけですが……」

「えーっと、まず俺たちは何をすれば……というか、何を見て回れば良いんだろうか?」


 鄙びた商店街が立ち並ぶ、多分この街の中心街から少し外れた商業地域的な地区に足を踏み入れた俺たちであったが、そこは、やっている店もあまり多くなく、住民と思しき人も数えるほどしかいない、というのは言い過ぎであるにしても、それほど人は多くなかった。


 王都の、例の繁華街が休日の銀座だとすれば、ここは平日の八王子駅前といった感じだろうか。まあ、平日の八王子など行ったことはないのだが、きっとそんな感じな気がする。別に寂れているわけでは全くないのだが、それはもう、人口減少社会を先取りしたかのような、そんな雰囲気が漂っていた。まあ、今日は週の初めの平日なのだし、あまり買い物に多くの客が来るということもないのかもしれないが。


「ちょっと待ってくださいね、えーっと、確かこの辺りに……あ、ほら、ありましたよ!」


 そう言って、ミュリアが指さした先には、この辺りを主な地盤としている社会民主党と、国家人民連合という政党のポスターのような張り紙が、即席の掲示板に貼られていた。ちなみにこの二党はいずれも野党で、あまり大きな政党ではなかったように記憶している。


「なるほど、ポスターですか……。確かに、参考にはなりそうですね」

「確かに、選挙では必要な気がするな。早速これを基に、うちもポスターを作成して……」


 俺は何気なくそれらのポスターを見てみた。


 恐らくそれらは、今度の選挙に備えて作成されて、最近貼られたものなのだろう。しかし、最近の風雨で既に紙はボロボロとなり、中身は読めたものではなかった。


 更に、辛うじて判別できた中身も、文字ばかりで小難しいことがつらつらと書かれており、通りを行く人がこれをじっくり読むとはあまり思えなかった。現に、俺たちの後ろを通りがかった主婦らしき女性も、掲示板をじっくりと見つめる俺に、訝しげな視線を送っていた。


「……、どうやらご主人様も、お気づきになられたようですね?」


 ミュリアが満足げな表情で頷いていた。


「ああ。掲示板のポスターに、こんな小難しいことを書いたところで、これを読む人なんかいないんだろうな。それ以前に、紙がボロボロで、読めたもんじゃない」

「……そう、そうですよね! やっぱりこれではダメなんですよ。これじゃあみんな読んでくれません! ……ね? 外に出てみて正解だったでしょう?」


 ? 何か変な事でも言ったのだろうか? ……まあ、いいか。しかし、これならば少しずつ選挙の道筋が見えてきた気がする。


「なるほど、事務所の中で考えていても、これは気づけなかったかもしれません。ならば、この調子でどんどん他の政党を見ていきましょう!」

「だな。……次は、事務所とか行ってみるか?」

「それなら、国家人民連合の事務所がこっちにあったはずです。行ってみましょう」




「それでのう、昔はこの辺りももっと人がおったんやけんどなぁ。今じゃあどんどんと人がいなくなってしまってんねぇ。寂しくなってしまったなぁ」

「はえぇ、それは寂しいですぅ」

「おいらたちも、どうにか賑わいを取り戻そうと、色々こさえているんだがなぁ。どうにも人は戻って来んわ。どうしたもんだろなぁ」

「そうですねぇ、困ったものですねぇ」


 ブライフ達が出かけた後、しばらくのんびりとしていたグローヴィアであったが、散歩中に偶々この事務所を見つけたという老夫婦がやって来たために、その相手をすることとなっていた。既に、おばあさんとおじいさんは、この街がいかに寂れているかについて、もう二時間ほどグローヴィアに語り続けていた。グローヴィアは、少なくとも表面上は飽きもせず、二人の老人の話に熱心に耳を傾けていた。


「若い人たちはよう、なんでこうも、王都へ行っちまうんやろうなぁ。そんなに王都ってぇのは良い所なのかいな? 私にはどうにも分からんよ」

「おいらは前に一度行ったことがあるんやけんど、あそこはどうもごちゃごちゃして好かんわ。あんに人が大勢おったら、何をするにも行列に並ばなあかん。あれはあかんな」

「この街にもええ所はたくさんあるんやけどなぁ。若い人には分かってもらえんやろうか」

「どうなんですかねぇ?」


 こんな調子で、おばあさん達の会話に適度な相槌を打ち、上手い具合に話を引き出していた。意識をしているのかいないのかはともかく、話し相手としてはこれ以上にない人材であった。


「この街の……ほら、あれ……おじいさん、何だったかいね?」

「あー、あのな、あれじゃろ? えーっと、あそうだ、ハーブ焼きやんな」

「それや。あの、牛肉のハーブ焼きって料理があるんやけど、あれはなかなか良い郷土料理だと思うんやけどな」

「へえ、美味しそうですねぇ。」

「そうなんよ。これがえらく美味しくてなぁ。最近は食べてへんけど、若い頃はよく食べたもんだわ。あれが……」

「青春の味やな」

「せやなー。……うん?」


 ふと、外の、遠くの方で、喧騒のような音と、パンッ、パンッという破裂音のような音が交互に生じた。その後喧騒の音がだんだんと事務所の方に近くなってきた。


「ああ、また、またあいつらが来てしまったんや」

「あいつら、ですかぁ?」


 グローヴィアが少し首を傾げて聞いた。その瞳には少しだけ光が灯ったようであった。


「そうなんよ。ほら、もう少しで選挙だかいうのがあるじゃろ? その関係で……えーっと、何だったかいな、まあその関係する連中が良く分からんことを叫びながら辺りをうろついているんよ」

「そう、そうなんや。んーっと、国家人民何とか……いう政党? というんかな、それの青年部やと名乗る連中よなぁ。そういう輩が、政治運動や、とか何とか言うて、早い話が暴れとるんや」

「まったく、たまに残る若者と言ったらこんな連中ばかりや。世も末やなぁ」

「まったく、まったく」


 二人は腕を組み、同じように頷いて言った。


「そんな人たちがいるんですねぇ。やっぱり、何か迷惑な事とかしているんですか?」

「迷惑なんてもんじゃないんや。連中ときたら、昼間も夜も、そこら中で集まっては訳の分からんことを大声て騒ぎ立てよる。家の周りでも随分と騒いでんのや」

「それに、そこらにゴミを放るし、変な紙をいろんな所に貼りよるしなぁ」

「ああ、あと噂によるとな、どっかの店では略奪紛いのことまでしたらしいんや。人を殴っり蹴ったりしたいう話もしょっちゅう聞くのう」

「ふーん、なるほど……。なるほどねぇ……」


 グローヴィアは、少し考えると、何か思いついたようで、席を立ちあがった。


「えっと、すいません、少し用事を思い出してしまいましたぁ。すぐに戻るので、こちらのお菓子とかを食べて待っていてくださいね」

「お、おう。待っとるよ」


 グローヴィアは、事務所の奥、どうにかして用意できた長距離電話の受話器を手に取り、急いで電話を掛けた。数秒と経たずに相手が出た。


「……彼は言った。『あなたは何のために、何をするのか』」

「……『あの海の向こう』」

「……。どうされたのですか、総隊長殿?」

「一部隊ほど、こちらに送ってもらえますか? この辺りだと……C部隊かしら」


 普段の口調とは全く異なる、お嬢様のような言葉でグローヴィアは言った。


「C部隊ですか。……それだと、明日には着くと思います。そこでなさるのですか?」

「詮索は無用ですよ? 明日ですか、待っています」

「そのように手配致します。……しかし、我々は本当にこんなことをしていて良いのでしょうか? もっと直接的に、打撃を与えるような方法を取るべきだと……」


 電話の相手の男は、若干非難するような口調でそう問いかけた。


「……私たちは、私たちの目的実現のために最善の手段を尽くすのです。私たちは、私たちの目的を阻むものは、それが人であれ事象であれ必ずこれを解決します。よく、考えておいてください。では、また」

「は、はあ」


 ガチャ、と、グローヴィアは素早く電話を切った。そして、軽くため息をつくと、再びあの老夫婦の待つ部屋へと戻って行った。


「……少し急ぎすぎたのかもしれない……か? まあ、いいか」

「? 何がええんだぇ?」

「いやいやぁ、こちらの話ですよぉ。あ、このお菓子どうでしたぁ?」

「ああ、そのお菓子かね? これまたえらく美味しいお菓子だのぅ」

「ばあさんなんか、もう三つも食べてしもたわ」

「良い食べっぷりですねぇ! まだありますよぉ?」


 その後もしばらく、談笑が続いた。




「……あの建物が、そうみたいですね?」


 ファーナリアは、囁くようにそう確認した。


「ええ、あの建物です」


 囁き返すように、ミュリアも応じた。


「なるほどな。結構大きな建物だ。……それにしても、あれはどういうことだ……?」


 国家人民連合の選挙事務所と思しき建物の、道路を挟んだ建物の物陰に一緒に隠れながら、俺は軽く指さしてそう言った。


 その事務所の前には、この街では少し珍しく自動車が幾台も停まっており、その周辺にはかなりの数の男たちが、統一された制服を着て、周囲を警戒するように歩き回っていた。おかげで事務所の周りには一般人が一人もおらず、通りがかった人はそそくさと裏通りへ消えていった。


「うむむ、……何でしょうか?」


 ミュリアは軽くうなり声を上げつつ、そう言った。


「ミュリアが分からないのなら俺にも分からんな……。まあ、一見すると、あの事務所を警備しているようだが。……しかし、警察とかではなさそうだな」

「そうですね、制服が明らかに違います。しかも、統一されているようではないですし。……いえ、左腕の上の方につけている腕章だけは同じですね。……あれは、……鎌、でしょうか?」


 良く分かったな……。警察の制服なんぞ正直覚えていないぞ。腕章なんか気づきもしなかった。眼の良い奴だ。


「うーん。そうすると、国家人民連合所属の運動員か何かなのでしょうか? それにしては、皆妙に厳ついというか、体がゴツいというか……」

「少なくとも、あのなりなら、ビラを配ったりポスターを貼ったりするんじゃあないんだろうな」


 連中は、武器こそ持っていないが、何かあればすぐに武装して何処かを襲撃しかねない雰囲気を漂わせていた。あの中に進んでいって、「すいませーん、事務所見学させてくださーい」だなんて言う勇気は、俺には無かった。


「……ひとまず、ここから離れるか」

「それが良いと思います。面倒なことにならないうちに行きましょう」

「ああ、それなら、いったん昼にでもしますか? この辺りに美味しい肉料理屋みたいなのがあるらしいんですよ」

「そりゃあいいや。さっさと行こう」


 そんなこんなで、俺たちは足早にその場から立ち去ったのであった。


 ……いやはや、それにしても、随分と物々しい連中だった。この世界の選挙は、実は総合格闘技か何かで決着をつけるとか、そういう形式なのだろうか。有権者を一人ぶちのめしたら一票みたいな。まとめてやると二倍ボーナスとか。もう選挙と言うより戦挙と言ったほうが良いのではないだろうか。……そんなわけないか。


 そういえば、事務所にグローヴィアを置いてきたままだった。彼女はもう昼食を食べたのだろうか。というより、事務所でちゃんとお客さんの応対をしているのだろうか。


 多少の不安を感じつつも、俺たちは肉料理店へと歩を進めたのであった。


題名と内容の乖離が微妙に開いてきた訳ですが、そして内容が微妙に薄くなってきた訳ですが、ご容赦くださいませ……。

それと、諸事情により、来週は更新できないと思います。再来週のどこかで、また再開します。

くそ暑いかと思えば、涼しい……というより寒い日々が続く今日この頃ですが、体調に気を付けて頑張っていきましょう。


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