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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第二一話 久しぶりの帰宅、です!

「ええ、既に報道等でご案内の通りではありますが、改めて報告を致したいと思います。ヴェストシュランゲ地方の一部地域で武装蜂起を行い、当該地域を不法に占拠していたテロ集団は、我が軍による一連の作戦行動、通称『白い夜明け作戦』により完全に排除され、同集団は崩壊いたしました。


 当該作戦は、既に報道官が会見において申し上げたとおりでありますが、二週間前、即ち十二月二日に、我が陸軍西部軍第一機甲師団、第五歩兵師団の両師団により敢行されたもので、あります」


 センペルヴィエント連合王国の王都シュラインブルクにある国会議事堂では、今日も国会が開催されていた。連合王国首相であり、与党保守党の総裁でもあるファレーヴ=ラーヴァイズは、いつも通りの自信のない声で、先日の作戦についての結果報告を行っていた。


 この日のラーヴァイズは、連日開かれている内務委員会において、先日ようやく鎮圧に成功した、連合王国ヴェストシュランゲ地方における人民革命軍を名乗る反政府共産主義過激派集団の武装蜂起に対する一連の作戦について、総括的な説明を行うこととなっていた。数か月前に発生した、この連合王国至上有数の内乱に対して、政府は武力行使と交渉の両面から対応を行ってきたが、前者は戦力逐次投入と縁故採用の無策な指揮官により、後者は省庁間の調整不足と各機関の人材・能力不足により何ら功を奏してこなかった。だが今回、西方派遣軍としてプロス=ティクム連合共和国における過激派狩りを行ってきた第一機甲師団を増援として送り込むことによって、ようやく内乱は鎮圧されたのであった。


「両師団は既に任務を終え、第九後方師団と同地方の警察が、治安維持及び復旧事業への支援を行うこととなっております。


 あー、本作戦における我が軍の損害は、あー、死傷者合計で三一一二名、合計費用は約五億二千万ジルンであります。……私からの報告は以上であります」


 首相が下がり、議長が質問を促した。野党議員の一人が手を挙げ、前に立つ。


「労働党のザーク=リンカースであります。人民革命軍鎮圧作戦について質問させていただきます。大変遺憾ながら、政府は人民革命軍に対して交渉を行うという選択肢を取ることなく、武力行使によってこれを強制的に排除するという選択肢を取ったものであります。このような選択肢は極めて野蛮であり、文明国としての理性や知性のかけらも感じられない……」


 質問という名の政府批判が五分ほど続いた後、ようやく作戦にかかった費用に関して計算が間違っている、本当はもっと高いはずだ、というような内容の質問が出てきた。ラーヴァイズ首相は多少うんざりした顔で立ち上がり、官僚から事前に渡された紙の内容を読み上げた。


「それに関しては、リンカース議員の挙げた資料はいわば、異なる観点から集計を取ったものでありまして、私が先に提示させて頂いた資料には載っていない費用も含まれているわけであります。しかし、その記載のない費用というのは、本作戦に係る直接的な費用ではなく、間接的なものでありまして……」


 要するに、作戦に当たって生じた費用を提示したのであって、決して間違っているわけではないことを延々と時間をかけて、説明を行った。


「いや、まあ、そのような説明もあるのかもしれませんがね、首相、であれば最初からその費用を提示すべきではないのですか? 敢えて小さな額を出す必要があるのですか? そういった政府の姿勢が……」


 再び始まる批判演説。首相は席に戻り、深刻な表情で自ら用意した書類を睨みつけていた。


(流石に……上がってくれたようだ。七ポイントか。これで何とか五割を回復したわけだな。思ったより伸びなかったが、まあ良しとしよう)


 その手には、つい先ほど出た内閣支持率の速報が載った紙があった。支持率は五十一パーセントと、一か月前から大きく回復し、一年ぶりに五割台を回復したのであった。不支持率は二十二パーセントと、前回から八ポイント低下した。白の夜明け作戦の成功が、支持率の上昇につながったとの分析も一緒に記載されていた。


(とは言え、これでどうにかなるわけではないか。選挙まではまだ時間が相当ある。それよりも、……何度見てもまずい数字だ。どうして私のときに限ってこうなるんだか……)


 次に手に取った書類は、連合王国の経済指標に関するものであった。今年の三四半期目の経済成長率がマイナス二パーセントを記録したのを始めとして、失業率は七パーセントを突破し、インフレ率は十パーセント程度で高止まりし、各種生産指数は低迷し、更に貿易収支は数年ぶりに赤字に転落するなど、年初から始まった景気後退はその速度を増大させていた。


 首相及び内閣は歳出拡大によってこの後退局面の打開を目指し、そろそろ始まる予定の予算審議で具体的な計画を策定しようとしていたのであるが、野党と、連立与党の中央同盟、更には保守党の一部までもが、財政赤字の拡大を生じ財政破綻を招くとして反対に回り、又は回る可能性があった。仮に保守党の相当数の議員にまで反対派が食い込めば、予算案の可決は著しく困難となり、内閣存続に危機が生じる恐れまでも存在するのであった。首相及び賛成派は必死に説得を続けていたが、あまり良い反応を得ることが出来ていなかった。


(まだ余裕はあるが……、楽観はできないな。このまま何も起きなければ良いのだが)


 そう思いつつ、次の書類に目を通すと、首相は更に暗澹たる気持ちとなった。


 それは、国内の共産主義組織及び国粋主義組織の活動動向であった。前者については、国内におけるその最大勢力であった人民革命軍が遂に崩壊したものの、未だ無数の小規模な組織や活動家が国内に蠢いており、後者については、特筆すべき傾向はないものの、その一部は国王とのつながりも指摘されるなど、不気味な状況である旨が述べられていた。


(国王……か。まったく、これほど扱いにくいお方は他にないだろう。面倒なことをしてくれなければ良いのだがな)


 センペルヴィエント連合王国は、その名の通り国王が元首として君臨する王国である。以前は国王が絶対的権力を有しており、国王が全ての政治的決断を行ってきた。

 

 しかし、連合王国がプロス=ティクム連合共和国に対して宣戦を布告したことに端を発する戦乱――十一年戦争と呼称される――では、当時の国王の不合理な命令が戦争の長期化を引き起こし、更には現在も当時も軍事大国であった帝国の参戦をも招いた結果、連合王国の大部分が帝国の支配下に置かれることとなった。また、連合王国はこれによって一時内陸国に転落し、経済的にも相当の苦境に陥ったのであった。


 これを機に、国王の権力を一定程度制限せんとする動きが活発化し、帝国の統治体制を参考としつつ、独自の憲法を制定し、国会も設立することで立憲君主制国家としての道を歩むこととなった。


 こうして、連合王国は現在に至るものの、連合王国の、特に帝国の支配下から復帰した地方における住民の反国王感情は強いままだった。しかし一方で、首都を含む連合王国の中心地域では、国王への支持が高く、政府や与野党はその板挟みにあって対応に苦慮している状況であった。


 そんな状況で、国粋主義組織と国王とのつながりが露見すれば、地方を中心に反国王感情が増大し、政権、ひいては国家にとって重大な事態を引き起こしかねないのであった。


(……結局他力本願しかできないのか。まあ、やむを得んな。何かこの状況をパッと変える何かがあれば……、それも結局同じか)


「……その点に関して、考えを伺いたいわけであります」


 首相はふと、ようやく野党議員による長い演説じみた質問が終わったことに気づいた。その議員の眼は明らかに首相を向いていたが、首相は横にいた大臣らに目配せをして、再び書類に目線を落とした。内務大臣が仕方なさそうに前に立ち、質問に答え始めた。


(この後は……勲章の授与か。まあ、多少は気楽な時間だな)


 書類をぺらぺらと眺めながら、首相はそう思った。




「いやー……、緊張したー」


 戦場暮らしがようやく終わったのもつかの間、俺は、この前とその前の作戦における勲章の授与が執り行われるということで、列車と車を乗り継ぎ連合王国の首都、シュラインブルクに来ていた。


 緊張しっぱなしのまま駅を降り、そのまま王国宮殿へと案内され、そこで国王陛下と首相、大臣の歓待を受けた。何が何だか分からないままに勲章――一級金鷹勲章だとか言っていた――の授与が行われ、大勢の偉い雰囲気を漂わせている人たちとの晩餐会をこなし、ようやく今、俺の自宅と思われる邸宅に辿り着いたのであった。


「えーっと、多分この家……だよな? 合ってる……よな?」


 シュラインブルクは、なだらかに広がる丘陵を中心に発展してきた都市らしく、標高が高い所に国会議事堂や国王宮殿、証券取引所や大手企業の本社が集中していた。そしてその下の平野部に無数の住宅や商業施設が広がる感じの都市設計のようであった。俺の家と思われるかなり大きな邸宅は、その狭間か、若干高い所寄りの斜面に建てられていた。もちろん、斜面と言ってもかなりなだらかで、意識するほどのものではないが。


「鍵は……おお、あったあった。これで無かったら泣くところだったぜ」


 鞄の奥底にしまってあった鍵を取り出して門を開け、わりと広い庭を抜けて玄関へ。ここでも少し手間取りつつ鍵を開け、ようやく俺は自宅へと戻って来た。


「メイドさんとか執事さんとかは……いそうにないな。外観からして人の気配もなかったしな。にしても埃っぽい家だな。空気もかなり淀んでるし。一旦換気とかしないとまずいかもしれん。こんなことなら誰か手伝いでも呼んでおけばよかった」


 俺はそこそこ広い邸宅を見て回りつつ、窓を開けた。真冬のひんやりとした冷気が入り込み、淀んだ空気を吹き飛ばしていく。俺はしばらく開けておくこととして、自室と思しき書斎的な部屋に入った。その部屋は一際大きかったが、巨大な本棚が幾つも置かれているせいで歩けるスペースはそれほど多くなかった。本棚には難しそうな分厚い本がびっしりと詰まっており、質だけで言えば、以前に俺が通った大学図書館と比べても遜色のないように思える程であった。


 部屋の隅には簡素ながらお洒落な机と椅子が置かれており、目の前には大きな窓が設えてあった。俺は何となく、その椅子に座ってみた。


「…………! これは……すごい!」


 なんと窓からは、眼下に広がる首都の街並みが一望できるようになっていた。陽が落ち、電灯やガス灯が灯り始めたシュタインブルクの夜景は、俺が前の世界も含めて観た中でも一番と言って良いほど、美しいものであった。この風景を多くの人に見せることが出来ないのが残念に思えるほどであった。その光の一つ一つに人々の暮らし、人生があるんだ、だんんて、月並みでクサいことが頭に浮かぶくらいには、俺はこの景色に酔っていた。俺はしばらく、そんな風景を眺め続けた。


「……どうも寒いと思ったら、家中の窓開けっぱなしだったな」


 俺はいそいそと窓を閉め、もう一度書斎へと戻って来た。よくよく見ると、机の近くにはベッドもあり、本当にここで暮らせるようになっていた。俺はもう一度机に座り、またボーっと景色を眺めていたが、ふと、机の上に一冊の本があることに気づいた。


「これは……日記か?」


 どうやら、俺じゃない俺が付けていた日記のようだった。日付を見ると、俺がこの世界に来る三週間ほど前で、日記は終わっていた。恐らくそれから、この屋敷には誰も居なくなったのだろう。


 俺は、そういえばまだしっかりと、俺の前の俺がどんな人物だったのか知ることが出来ていなかった。俺は丁度よいチャンスだと思って、日記を読み始めた。


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