第十六話 作戦ないです!?
「少将、それで、……どうしますか?」
俺と中尉に少尉、それに師団の大隊長たちは、統合司令部から師団司令部の建物へと帰ってきた。そこで俺は、作戦を聞き出そうと急き立てる大隊長たちを何とかなだめて、午後一番にミーティングを行い、少し予定を早めて、今日の夜にでも再び統合司令部へと向かい、そこで改めて作戦を披露する、という流れになった。作戦は恐らく明日か、明後日か……まあ、そのくらいから開始されることになっている。
時間は現在午前十時を少し過ぎたあたり。そうすると、ミーティングまではあと三時間ほどあるわけである。俺と中尉、少尉は、それまでここ、司令室にて待機することにしている。
どうして作戦を伝えるだけなのに、それほど時間を空けるのか、こう思った大隊長たちは少なくなかっただろう。俺が彼らの立場であっても、きっとそう思ったはずである。特にこれまで何も言ってこないが、目の前の二人も、ついさっきまではそう思っていたのかもしれない。
その理由は、もちろん、当然であるが、一つしかない。
まだ、作戦などないのである。
そう、まだ、この戦いを、数日間で終わらせる、そんな作戦は、思いついてなどいないのである。
…………。
勿論、そうそう凄い案をポンポン思いつくような俺ではないことは、俺自身が一番分かっているのだし、別に残念でも無念でもないのだが、いやしかし困った。あんな大勢のヤバそうな連中の前でそんな啖呵を切った以上、「まだ作戦決まってませんでした、テヘペロ♪」だなんて言ったら蜂の巣に、……されることはないにしても、腕の一本くらい折られる事態になりかねない。
いや、腕の一本くらいで済むのなら喜んで差し出すのだが、師団長解任で二等兵に降格、だなんてことになったり、軍法違反か何かで処刑、だなんてことになったら非常にまずい。まずいっていうか、もうどうしようもなくなる。何とか作戦を捻り出す必要がある。
「……難しいな」
「いや、まあ、何となくこんなことだろうとは思ったんですけどね。でもまさか何も考えていないとは思っていませんでしたよ……」
「面目次第もないな……。いやでも、あのゴリラを黙らせるにはこれしかなかったんだ。これは仕方のない事故みたいなもんだ、多分」
「いや、まあ確かにそうかもしれませんけれど……。あ、そうそう。少将、先ほどの報告には何と書かれていたのですか?」
少尉が思い出したように言った。
……あ、そうだ、それを忘れていた。そういえば、これを使えば何とかなるんじゃないか、的な結論が脳内で一度出た気もしなくはない。これを軸に考えてみるか……?
「ああ、それな。まだ言っていなかったな。
報告と言うか、参謀本部からの連絡だな。まあ、大雑把に言うとすれば、援軍が全くないと言うのは言葉の綾だ、いくらか援軍を送ろう。但し、我が軍に余裕がないのは事実だから、ほんの気持ちばかりの援軍だ、到着はおよそ二、三日中になる。……こんな感じだな」
「おお、援軍ですか! それで、どのくらいの援軍が来るのですか? 何個師団ですか?」
「航空部隊が五部隊程だそうだ。一部隊につき、戦闘機が十機、爆撃機が五機配備されているらしい。戦闘機が五十機に爆撃機が二十五機というわけだな。よく分からない編成ではあるが、まあ、援軍は援軍だろう。何でも、我が国が保有する航空機のほとんど全てなんだそうだ」
「「?」」
二人に怪訝な顔をされる。まあ、これほどの規模の航空部隊が来るとなれば、驚いて当然なのかもしれない。何といっても、この国のほとんど全ての航空機なのだ。俺も、これほどの援軍が来るとは思っていなかった。参謀本部=ツンデレ説を強く推しておくことをこの俺に決意させるほどである。まあ、合わせて七十五機という数が多いのかそうでないのかは、正直分からないのだが、まあきっと少なくはないのだろう。これなら、色々使えるはずだ。
「あの……」
「なんだ?」
「航空機って……その……」
「どうした? 歯切れが悪いな。もっと喜んでも良いと思うぞ、多分?」
「航空機なんか、何に使うんですか? あんなもの、ただ空を飛ぶだけじゃないですか」
「ほえ?」
ほえって何なんだよ……。というか、え? なに? 航空機ってまだない設定だったっけ?
俺は一生懸命図書館で得た急ごしらえの知識をひっくり返してみた。確か、そう昔のことではなかったが、航空機はこの世界でも何某兄弟だか姉妹いう連中が初飛行に成功し、実用化され始めているはずだ。まだ普及はしていないにしても、ほとんどの国には航空機が配備され始めていると思っていたのだが。
「私が聞いたところによると、南部の方の部隊の一部では、配備がされ始めたと言うのを聞いたことがある気がします。でも、運用方法も分からないままの、お試しの配備だったらしくて、ほとんど塩漬け状態らしいですけど」
マジかよ。聞いてないよ。どおりで参謀本部の気前が良いと思ったら、俺たちは、何に使えるのか分からん玩具を押し付けられたわけだ。まったく、参謀本部なんてやっぱり畜生以下の蛆虫のクソッタレの……。
まあでも、それで何とかしないと俺の首が物理的に飛びかねないのである。何とかするしかないか。
「ああ、……その、一応飛行はできるし、簡単な作戦なら実行することが可能な程度の練度はあるらしい。まるっきり新兵というわけでもないのだろうし、使えはするだろう」
「ええ……。そもそも、その航空機とやらに何ができると言うのですか? まあ、偵察は使えそうではありますが、それ以外に何の役に立つのか、いまいち理解できないんですよねぇ」
少尉は呟くように言った。……ここまでの二人の話を聞くに、この国では航空部隊の運用方法が確立していないらしい。そうなると、他国がどんな状況なのかは気になるところだが、今はとりあえず関係ないだろう。
しかし困った。いや、航空機の使い方が分からないと言うわけではない。俺だって、一応現代に生きてきた訳だし、航空機が軍事において如何に用いられてきたのか、についてはまあ常識の範囲では知っているのである。少尉の言ったように、偵察にも使われるのだろうし、他にも敵の戦闘機を撃墜したり、地上を爆撃したりするのが主な職務であることくらいは分かる。
とはいえ、俺の知っているのはここまでである。本当に何となくの、爆撃したり、ドッグファイトしたりするんだろうな、くらいのイメージがあるだけで、具体的な航空部隊の運用方法などを知っているはずがないのである。こんな事なら、軍事オタク的な何かになっておけば良かった。……まあ、後の祭りとしか言いようがないのだが。
そうなると、航空機の知識についてはきっと俺以下の程度しか持ち合わせていないだろう師団司令部の参謀達に、航空部隊の運用を任せることは出来なくなるし、少なくとも、大体の運用方法については、地上部隊との連携を含めて俺が考えないといけないことになる気がする。面倒にもほどがあるが、まあとにかくできる範囲でやるしかない。
「確かに、難しい兵種ではあるかもしれないが、上手く用いれば、このじり貧の状況を一気に打開しうることが出来ると思う。すまんが、一緒に考えてくれないか」
「まあ、少将がそう言うのであれば、私はもちろん協力しますけど」
「私も当然、微力ながらお手伝いさせていただきます」
二人とも即座に承諾してくれた。なんて良い娘たちだ。感動した。
「ありがとう」
「いえいえ。……では、早速ですけれど、どうしたものですかねぇ?」
「うーん……。ああ、確か援軍の中には爆撃機というのが含まれているそうですね? 何でも、空から爆弾を落とせるとか。そうすると、現状、我が軍の作戦遂行の最大の壁は、何よりもまずあの分厚い塹壕なのですし、これを爆撃で破壊していくというのはどうでしょう?」
「ああ、それは俺も少し考えてみた。しかし、敵の塹壕は数百キロにわたって構築されている上に、薄くても二重、厚い所では四重に掘られているんだ。それに対して、援軍としてやってくる爆撃機は、一応最新鋭のものなのだが、それでも積載できる爆弾はどんなに頑張っても一トンが限界らしい。つまり、仮に全機で爆撃を行ったとしても、一回の出撃では二十五トンが最大なわけだ。……詳しくは分からないが、これでは塹壕陣地にほとんど打撃を与えられないだろうな」
「そうですか……。うーん……」
もちろん、全力で攻撃すれば一部くらいは破壊できるかもしれないが、すぐにでも敵が駆けつけて、防御戦闘を行うと共に塹壕も復元されてしまうだろう。この案ではダメだろうな。
そう考えたのが伝わってしまったのか、中尉は少し悲しそうな顔になった。それでも、何とか良い案を出そうと考えてくれているようだ。
「あ、そうだ! 無理に塹壕を突破したり破壊したりしようとするからいけないんですよ! むしろ、その航空機とかいうのを使って、兵士を陣地の内部に送り込めば良いんです! どうですか、少将? 素晴らしい案ではないですか?」
「おおう……。いや、それなら是非とも君にやって欲しいところだな」
「はい! もちろんです!」
「いや、冗談なのだが……。まあ発想は悪くないのだが、それを実行するための手段がないんだ。具体的には、パラシュートがない。要請すれば持って来てくれるかもしれないが、恐らく少なくない時間がかかるだろう。その案もちょっとな……」
「? 航空機というのは、そんなに高いところを飛ぶんですか?」
「あー、そうだな、細かいところは知らないが、援軍で来た戦闘機と爆撃機の両方とも、最大で五、六千メートルくらいだと思う」
「へえ、まあ、やってみますね!」
「いや止めてくださいお願いします」
まったく何を考えているんだろうか、最近の若いもんは。命は大切にせんといかんぞい?
とか何とか言っている暇などないんだ。早く作戦考えないと。
航空機を使うにしろ使わないにしろ、どうにかして敵の凄い塹壕を突破して、司令部を制圧すれば、恐らく我々の勝利になるはずだ。しかし、塹壕を突破するのは容易ではないし、どこかを攻撃しようものなら、無線通信で応援を呼ばれて、あっという間に敵の増援がやって来る。複数地点を攻撃したところで、敵の兵力は少なくない。各個に増強された部隊によって、攻撃は途絶してしまうだろう。
(考えてみると、なかなかうまく出来ているんだな……)
まあ、一国の正規軍が、そこそこの戦力を以てしても叩き潰せていないのだから、それ相応の戦術やら装備やらがあるのは当然と言えば当然である。
(塹壕をなるべく楽に、素早く突破出来て、しかも突破した先で敵の応援を呼ばれなければ良いんだが。まあ、そんな状況なんて、よほど敵がヘマをやらかさない限り起きようがないよな。何とかしてこんな状況を作り出せれば良いんだが)
こう、ここまで正解が来てる気もするんだけどな……。
「そういえば、敵は優れた無線設備を有しているらしいですね」
中尉がふと、こんなことを言った。
「ああ。これが我が軍にとって本当に厄介な代物な訳だな。こちらが攻撃しようものなら、すぐに応援を呼ばれてボッコボコにされてしまうんだ」
「何とかこれを無力化することは出来ないものなのでしょうか? 無線設備を破壊するとか……」
「無線設備自体はそれほど大きいものではないだろうし、各部隊に配備されたものをチマチマ壊していくのは現実的ではないだろうな」
「こう、一挙にパッと使えなくなるなんてことはないものですかね」
「そんな裏技みたいなことは……いや……?」
敵は無線で応援を呼び、援軍と共に防御戦闘を行うわけだが、各部隊が好き勝手に周辺の部隊を呼び寄せる訳ではないはずだ。きっと、司令部が適切な部隊に応援を要請して、それを受けて援軍が出されるはず。だとすると、無線は必ず総司令部か、少なくとも各戦区の司令部を通してなされることになる。各部隊の設備を壊すのは無理でも、司令部の設備を破壊するのは可能か?
しかし、司令部は塹壕の奥深くにある。砲撃では届かないし、部隊を潜入させるというのも厳しいだろう。
…………。
「あ、航空機!」
「はひ!?」
「ここで航空機だ! ……多分、これでいけるはずだ。二人とも、助かった。これならば、本当に戦闘は数日程度で終わるかもしれない」
「えっと……。何だかよく分かりませんが、作戦が出来たみたいですね?」
「ああ、これからもう少し詰めることにする。午後には間に合いそうだ。えーと、少尉、君は偵察大隊の所に行って、どんな状況か聞いてきてくれ。中尉、すぐに我々の将校たちを呼んできてくれ」
「あ、はい、了解です!」
「承知しました!」
二人は部屋を駆け足で出て行った。
俺は、参謀達が来るまでにより作戦内容を考え始めるのであった。
また遅れてしまった……。
それと、これから色々立て込んでしまうので、更新は不定期(今年中にあと一話くらい?)になりそうです。読んでくれている方がいたら申し訳ありませんが、年が明けたら元に戻る予定です。
どうぞよろしくお願いします。




