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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第十五話 腹案があります!?

 集合には少々早かったせいか、まだ会議室には参加者がおらず、ただ、若手の将校数人が困惑した顔でこちらをちらちら見つつ、資料やら飲み物やらを用意しているばかりであった。まだ寝起きであるせいか、あまり緊張感がなく、動作にも機微がなかった。まあ、別にそれでどうこう言うつもりも気力もないけど。俺も同じようなものだしな。


「まだ誰も集まっていませんね……」

「そりゃあそうだろう。まだ開始まで、……一時間弱あるし。なんでこんな時間に来ているんだ、俺たちは?」

「……ヒュー、ヒュー♪♪」


 少尉が何の音にもなっていない口笛を吹き始める。どうやらこいつ、集合時間を間違えたらしい。まったく、とんだ無駄骨だ。だから同じく参加する予定の大隊長たちは怪訝な顔をしていたのか。……まあ予定を確認しなかった俺が悪いのかもしれないが。


「さて、暇になったな……」

「そうですね……」

「そ、そうっしゅね……」


 動揺を隠しきれてない少尉さんは、何か可愛い気がした。気がしただけだが。


 俺はふと、会議室の前方にある黒板を見てみた。作戦地域の地図が何枚も、ところ狭しと貼り付けられている。そう、それは何枚も、何枚も……。


「なあ」

「は、なんでしょう少将?」

「この地図って……」

「この地図が何か……? あ……」

「なんですかぁ? うわ、この地図死ぬほど適当ですねぇ! 無駄に色使っている癖に敵と味方の区別すらできないし、線を書き入れすぎてもはや意味が分からないです! 子供の落書き帳の方がまだマシじゃないですかぁ?」


 ひどい言われようである。いや、確かにクソみたいな地図であることは確かであるし、子供の落書きよりも酷いものであるのは明らかであるのだが、問題はそこではないのである。


「情報が……少なくないか?」


 そう、黒板に貼られてある地図には、地図にあるべき情報が極めて少ないのである。

 

 最初は地図ごとに情報が分けられているのかとも思ったが、どの地図も同じようなものであった。つまり、少なくともここにはまともな地図がないと言うことになる。そして、共同作戦を遂行しようとしている師団長を呼びつけて会議をしようというこの場で、こんな地図しか出せないというのは、事務方がよほど無能なのか、あの何とか歩兵師団の偵察部隊が役立たずなのか、何かやむにやまれぬ事情があるのか……。良く分からないが、あまり良いことではないことは明らかだろう。一応、確認しておくか。


「ああ、おい、君」

「は! 何か御用でありますか?」


 忙しなく働いている将校を捕まえて、地図のことを聞いてみる。


「は! あれは我々が使用している地図であります! 配布資料にも記載されておりますので、後ほどご確認ください」


 うむ、これで、事務方無能説は払拭されたみたいだ。となると、こちらに正確な情報が入る可能性は極めて低いことになる。そうすると……。


「中尉」

「え、はい? なんでしょう?」

「偵察大隊に連絡は取れるか?」

「はあ、それなら、今すぐにでも取ることが出来ます。何なら、直接伝えることもできますし、少尉が」

「はえ? いや、いやいやいや、それは無理ですよ中尉殿。何故ならあそこからここまで結構距離あったし、私今筋肉痛だし、何なら肺が痛いし、ていうか全身が痛いし」

「そうだな、直接言ってくれた方が伝わりが良いのかもしれん。もちろん、用件はこの地域の詳細な情報獲得だ。敵の情報も欲しい。敵の塹壕位置や、敵部隊の配置……まあ、取れる情報は何でも欲しい。是非伝えてきてくれ、少尉」

「最近二人とも妙に私に冷たい気がしますぅ……。でもまあ、そのくらいならちゃっちゃと言ってきてやりますよ。待っててください!」


 そう言うと、少尉は光のような速さでその場から姿を消した。

 

 はっやーい。

 

 会議までに帰ってくるといいが。




「であるからして、我々としては、もはや突撃するよりほかにこの状況を打破する方法は無いものと信ずるのである。貴師団においても、我々に協力し、敵陣地の突破を行ってもらいたい!」


 会議開始の時間と共に、その第五歩兵師団の師団長と名乗るその男は会議室に入って来た。坊主頭で、体の全てが筋肉で構成されている気がするその大男は、部下たちに渡された紙を手に取ると、偉そうに、居丈高に、威圧的に、高圧的に、尊大に、横柄に、その内容を読み上げ始めた。演説は二十分ほど続き、ようやく今終わったのであった。


 長い。そして、校長先生の話が輝いて見えるほど、内容が薄い。控えめに言って、同じことを表現を変えて繰り返しているだけであった。


 にしても、昨日の会議で突撃は中止になったはずだったのだが、この師団長様は、というよりこの師団の連中はよほど突撃がしたいらしい。まあ、なかなか戦果を挙げられなくて焦っているのであろうことは想像に難くないのではあるが、それにしても考えが無さ過ぎであろう。まったく、少しは考えてきて欲しいものである!


…………。


 俺は当然そのような提案は一蹴しなければ、と思い、口を開きかけたが、しかし一旦とどまった。というのは、あの額に青筋を立てて、眉間に何かを挟めそうなほど皺を寄せた、ゴリラの親戚のような顔をした師団長が恐ろしかったから、というわけではもちろんない。……と言うと嘘になるのだが、しかし、理由はそれだけではない。それは、ゴリラだけならいざ知らず、部下の子ゴリラ達までもが、眉間に皺を寄せて青筋を立て、こちらを睨みつけていたからである。しかも、その何人かは腰に下げていた拳銃に手を掛けているようにも見えたのだ。


 さすがに、こんな所で、敵でもなく味方に撃ち殺されるというのは格好がつかない。俺はそう思い、慎重に事を運ぶべく思考を進めようとしたのである。


(とは言ってもな……)


 彼らはちょっとした爆発物より危ない何かだ。俺が肯定以外の言葉を発したとたんに発砲しかねない。そして我が師団の大隊長練中は、皆顔面蒼白でとても頼りになりそうにもない。と言っても、賛成したら作戦失敗は確実だし、それはそれで色々とまずい。


 こうしている間にも、師団長は、もといゴリラは今にも雄叫びを上げて人間を襲おうと、筋肉がピクピクと動いている。部下たちもそれにつられて今にも唸りそうである。……あれ、ここってもしかして敵陣地だったかな?


 そろそろ何か言わないとな。でも、何を言うか。……もう、こうなったらノリでいくしかないな! ええい、ままよ!


「貴殿の言いたいことは良く分かった。しかし、残念ながら貴殿の提案に賛成することは出来ない」

「……ほう。一応、理由を聞かせてもらおうか」

「敵陣地は極めて強固な防御力を有している。この陣地に対して歩兵による突撃を敢行したとしても、敵に機関銃の的を提供するのみで、我々は一歩たりとも前進することは出来ないのである。そんなことは、これまで何度も突撃を繰り返してきた貴殿らにとって十分に理解していると思う。だとすれば、これ以上突撃を繰り返すことは全くもって無意味であり、兵士と武器の無駄でしかない」


 案の定、ゴリラはゆっくりと、持っていた紙を机に置き、そして悪鬼羅刹の如き眼光で、こちらを睨みつけた。


「そんな……ことは……分かっている! ではどうしろというんだ! もう我々には時間がない! 一刻の猶予も残されていないんだ! 敵は数日中に大規模な反転攻勢を計画しているし、参謀本部は、私の後任を決定しようとしている!」


 鼓膜が破れそうになるくらいの大声でシャウトをするゴリラ。もう、怖いなんてもんじゃない。一刻も早く宿舎に帰ってお布団に入りたいところではあるが、しかし俺は諦めない。


「もちろん、理解している。しかし、猶予のないことは、無意味な突撃を行う理由には決してならない。他の方法を取る必要がある」

「そんな方法がどこにあるんだ! このまま包囲を続けて敵が降伏するのを待つとでも言うのか!? 馬鹿を言うな!」

「そんなことを言うつもりはない。包囲程度で敵が降伏するのなら、我々が派遣されることなどなかっただろう。もう二年以上包囲が続いているのに、あと数日の包囲で敵が降伏するわけがない。……それに、こちらだって時間に余裕はない。参謀本部は、私に予定作戦期間として一か月を提示してきた。この期間以内に敵を制圧できなければ、私の地位は大きく揺らぐことになる。私は、こんなところで、……こんなところで終わるわけにはいかないんだ!」

「……。ふん、ならば、貴殿には何か方策があるんですかな?」


 こちらが突然怒鳴ったせいか、ゴリラは多少大人しくなった。ようやく人の話を聞く気になったらしい。


「ああ、ある。成功すれば、数日中に敵は降伏するだろう」

「そんな、馬鹿な……」

「いや、あるんだ。私が保証しよう。明日にでも、詳しい作戦計画を示し、数日以内に実行する。そのつもりで用意をお願いしたい。では、今日のところはこれで失礼する」


 俺は、ゴリラと同じくらいに呆けていた大隊長たちを引きずって、部屋から出た。


 そして、司令部の建物から出たあたりで、こちらに向かって凄い速さで走って来た少尉と合流した。


「ああ、少尉か。惜しかったな、会議はちょうど今終わったところだ」

「あちゃー、少し遅かったみたいですね。ああ、でも、用件はつつがなく報告しましたよ。今日中にでも報告があるみたいです」

「そうか。了解した」

「少将閣下、何の報告があるのですか?」


 多分歩兵大隊の大隊長が、私に尋ねてきた。


「敵部隊の情報やら、この辺りの地形やら、諸々の情報だ。偵察大隊に調査するように命じていたんだ。諸君らも気づいたかもしれないが、彼らの情報は、……その、あってないようなものだったからな」

「確かに、資料にはほとんど何も情報がありませんでしたね。……しかし、それはさておき、少将閣下。この戦いは、本当にあと数日で終わると言うのですか? 私も既に少し前線を視てきましたが、敵はかなり強力なように思います。このような状況が容易く変わるとは、到底思えないのですが」


 彼の発言は、他の大隊長全員の総意だったらしく、皆頷きながらこちらを見つめてきた。


「そんなに心配しなくても問題は無い。……立ち話もなんだし、続きは師団の司令部に帰ってからにしようではないか。……ここでは誰が聞き耳を立てているとも限らんしな」

「そう、でありますね」


 そんなこんなで、俺たちは司令部へと帰還したのであった。


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