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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第十四話 魔法使い? です!


「魔法を使うというのはどうだろう?」


 翌朝、まだ陽も昇らない早い時間に、俺と中尉、そして少尉は、師団の宿舎となっていた旅館から出て、第一機甲師団と第五歩兵師団との統合司令部へと向かっていた。今朝は危うく寝坊するところだったのだが、部屋を大音量でノックする少尉に叩き起こされて何とか起きることが出来たのである。そのせいもあってか、少尉も司令部へとついて来ることになったのであった。


「魔法……ですかぁ?」


 少尉が怪訝そうな表情でこちらを見つめる。ふふん、どうやら気づかなかったらしいな。今からとっくと俺が一晩かけて……正確には寝落ちする十五分くらいで考えた、とっておきの作戦だ。司令部で披露する前のリハーサルとして聞かせてやることにしよう。


 魔法。


 少し前に図書館でこの世界を調べていた時に、本棚でふと目に入った言葉である。初めはファンタジー小説か何かの題名なのだろうと、放置していたのであるが、ある時ふと気になって、魔法と書かれていた本を手に取った。


 するとどうだろう。この世界には、空想ではなく現実に魔法があるというではないか。俺は驚愕した。慄いた。戦慄した。やはり異世界と言えば魔法、魔法と言えば異世界なのである。魔法なければ異世界なし、異世界ならば魔法あり、である。


 俺は夢中で本を読んだ。読むうちに、魔法への期待は確信に変わった。魔法はこの世界には本当に、間違いなく、掛け値なく存在しているのだ。俺はそれ以来、魔法を実際に見たくて、もっと言えば実際に使ってみたくてしょうがなかったのである。


「そう、魔法だ。これを使えば、容易にかつ効率的に敵を撃滅することが出来るんじゃないか? 魔法であれば、射程も関係ないだろうし、広範囲の敵に対して大ダメージを与えることが出来る。広大な野戦陣地とやらも、あっという間に無力化することが出来るだろう。準備も特に必要ないだろうし、補給も特に気にする必要もない。どうだ、良いアイディアだろう?」


 ふっふっふ……、どうだ、恐れ入ったか? 魔法という、この素晴らしいものがあると言うのに、この世界の人間は誰一人として……かどうかは分からないが、少なくとも軍隊に取り入れている国は何処にもなかったはずだ。そんな状況で、敢えて魔法を主軸とした戦いを行う。まさに盲点をついた素晴らしいアイディアというわけだ。今日の俺は、いや昨日の俺はずいぶんと冴えていたらしい。


「久しぶりに聞きましたね、魔法。まだあるんでしたっけ?」


 中尉が応える。ふん、やはり気づいていなかったようだ。


「あることはありますよ? 私もそこそこ使いますし。この前の戦闘でも使ったような気がします」


 本に書いてあったのだし、あることは間違いないのだ。そしてやはり、今の時代だとあまり魔法は使われていないらしい。しかし、魔法は今でも近代兵器に勝るとも劣らない汎用性と破壊力を……。


「と言っても、この師団では私以外にはほんの数人程度しか魔法使えそうな人なんていないと思います。まあ、当たり前と言えば当たり前ですが。それに、その人たちも、そこまで凄い魔法を使うだなんてこと、聞いたことないけどなぁ。わたしだって、せいぜい虚仮威し程度の力しかないし」

「私もありませんね……。……あ、私の友人の友人の従兄弟が使える、という話であれば聞いたことがありますが」


 …………。あー、そういえば、魔法を使える人はこの世界の人類のうちの一万人から十万人に一人だって話が本に書いてあった気も……しなくもないと言うわけではないと言えば嘘になる気がしないでもない……かもしれない。


 いやいや、たとえ、たとえ話として、我が師団に数人程度しかいないとしても、だ。そこまで凄い魔法が使える訳ではない、としてもだ。それはあくまで今の価値観の上での話のはずだ。どんな形であれ魔法を使えるというのは、今の軍隊にとっては素晴らしい攻撃手段になるはずだ。いや、そうに違いない。


「もっと昔であれば、魔法を専門に使う兵士、魔法使いとでも言うべき兵種があったと言うのは聞いたことがありますが、今ではそのような兵種は廃れてしまいましたし」

「別に魔法使いがいなくたって戦争に支障はないですしねぇ。一個砲兵中隊の砲撃の前には、どんな強力な魔法であっても勝つだなんて出来ない訳ですよね」


 ……なるほど、そういうパターンね。ちょっと予想外だったけれど、まあ予想の範囲内だな、うん。要するに、今まで存在していた魔法はあまり強くないと。そんな魔法使うくらいなら、野砲で地面を耕した方がよっぽど強いぞ、と。彼女らはそう言いたいわけだな。


 しかし!


 それはあくまで今までの魔法なわけだ。これから出現するであろう魔法であれば、まだその威力は未知なわけだ。そうすると、ここで俺がちょちょいのちょい、と新しい魔法を作り出して、そいつを敵陣地にぶっ放しさえすれば! まったく問題ないわけだ。問題はまるっと消えてなくなるというわけだ。


「そうか。しかし、まだ分からないのではないか。俺がやるのならば、まだ結果は分からないのではないか?」


 俺は、俺にとんでもなく強力な魔法スキル的なサムシングがあると確信して、中尉達に、まるで見本のようなドヤ顔で言った。


「はて? 確か少将閣下、いつか魔法を少しだけ嗜んだことがあったかと思いますが、その時は……その……」

「うん? どうした? 早く言ってみろ?」

「全くと言ってよいほど魔法の才能がおありでなかったかと、そう記憶しておりますが……」


 あっれれー? おっかしーぞー? ……いや待て、それはきっと前の少将閣下の話だろう。今の俺は、昔の俺とは違う。きっとここに来たタイミングで凄い魔法能力を授けられたはずなのだ。そうに決まっている。


「ふん、それはきっと中尉の記憶違いだろう。現に俺は……」


 俺は、『サルでも分かる! マホウの実践方法!』という本に書いてあった、魔法のテクニック記憶から手探り、その通りに魔法を放った。すると、凄まじい魔力が俺の手の前に生じ、凝縮し、圧縮し、結晶し、圧倒的な輝きを見せた後、光の如き速さで、俺たちの前にあった、外れたゴムタイヤを直撃した!


 としたら、どんなに良かったことか。


 だったら良かったのになぁ。


 …………。


 結論から言うと、魔法自体は発生した。体の中にあった何らかの力、恐らく魔力が手の前に結集し、それが目に見える熱量として顕現し、放たれたのである。


 こう、ぽふっと。


 ぽふっとである。平仮名で表現するのが一番適切であろうそれは、気持ち程度に俺の手のひらから飛び出した。ただ、それだけである。そんな俺を中尉と少尉は、だから言ったのに、言わんこっちゃない、可哀想に、そういうこともあるよ……といった、憐憫と悲哀の入り混じった表情で見つめている。そんな眼で見ないでください、お願いします。


「……なんてな。知ってるよ、そのくらい。こんな感じで、遺憾ながら、俺は方策を思いつくことが出来なかった。思いついたことと言ったら、魔法……は冗談としても、偵察大隊を送り込んで詳しい状況を確認することくらいだな。まあ、あの友軍に突撃をさせないための単なる時間稼ぎでしかないのかもしれないが」


 魔法は……、冗談ということで、是非とも忘れてもらいたい。きっと少し前までの俺は眠かったのだ。そう、きっと脳みそさんが活動を開始していなかったのだ。さっきの俺は、まだ回らない頭で寝言を起きながらにして口走っていたに過ぎないのだ。俺がそう言うのだから、間違いはない。


 ……にしても正直、少しくらい俺に何か能力があっても罰は当たらないと思うのだが、そこのところどうなんだろう、神様? いや仏様? ……まあ、無いものをねだっても仕方のないことではあるが。


「……。私も、残念ながら特に思いつきませんでしたね……。あるとすれば、援軍をもっと寄こすように司令部と掛け合うとか……そのくらいでしょうか。もっとも、あの将校殿の様子では、司令部にそんな慈しみがあるとはとても思えませんけど」


「司令部なんてどこもそんなもんですよ。彼らのお仕事は、現地部隊に精一杯の声援を送ることなんですから。……まあ、それは冗談として、どうしたものですかねぇ」


 二人も、特に何か思いついたわけではなさそうだった。一晩で何か奇策を思いつける方がどうかしているのだし、当然と言えば当然か。この調子だと、歩兵師団の連中も同じ状況だろうな。このままだと本当に自滅することにもなりかねない。何かこう、パッとした策はないのだろうか。


「師団長閣下―!」


 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから俺を大声で呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、兵士がこちらに向けて大急ぎで走ってきている。あの顔には見覚えがあるし、きっと師団司令部の将校だろう。俺に何の用だろうか。会議に出ると伝えてあるはずだが。


「師団長閣下! お急ぎのところ申し訳ありませんが、中央の参謀本部より急ぎの電文です。至急、ご確認ください!」

「お、おお、分かった」


 俺は電文の打ち出された紙を受け取ると、大急ぎで読んだ。


「…………。…………。…………。なるほど、内容は把握した。報告ありがとう」

「恐れ入ります。では、これにて」


 兵士は元来た道をまた大急ぎで引き返していった。


「参謀本部は一体何と? まさか新たな任務ですか?」

「いや、違う」

「じゃあ何だったんですか?」

「……参謀本部は、この状況を一発逆転させることが出来るかもしれない方策をプレゼントしてくれた」


 まだ、確証は持てないし、具体的なプランがあるわけでもない。しかし、先ほどとは違う、成功の確信が、俺の中で形作られているような、そんな気がした。


秋イベしてたら一日遅れました。

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