↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第3話





 家に帰った私は、自分の部屋で、瀬野の言葉を考えていた。


 変わった。それは、何を指しているんだろう。無理をしているって何を言っているんだろう。考えても考えても、答えは出なかった。


「一体何なの……」


 もどかしくて、ベッドの上で転げまわる。そのとき、枕元に置いてあった携帯電話が鳴った。画面に表示されている名前を見て、慌てて通話ボタンを押す。


「あ、明里? 久しぶり」


 久しぶりに耳にする声が、スピーカー越しに聞こえてくる。もやもやした気持ちも忘れて、自然と笑っていた。


「元気だよ。()()は? 元気だった?」


「まあまあかな。最近暑くてやんなっちゃう」


 実歩がため息をつきながら言う。そういえば、実歩は暑がりだったなと、それを聞いて思い出した。


 電話の向こうの彼女、実歩は、中学時代一番仲の良かった友達だ。けれど高校に入って、しばらく疎遠になっていた。こうして話すのも、一年ぶりぐらいだ。


「で、急にどうしたの?」


「あのね、夏休み中に集まろうかってチカたちと話してるんだけど、明里もどうかな?」


 嬉しいはずの誘い。けれどそれに、なぜか私は、すぐに頷くことができなかった。


「んー、ちょっと考えさせてもらっていい?」


「もちろん! 三吉だったら、補習とか大変そうだもんね」


「ごめんね」


「ううん。明里のことだから頑張ってるんだろうね、高校でも」


 実歩の言葉が、ずきりと心に刺さった。


「そんなことないよ……」


 口から出た言葉は、謙遜でも何でもなく、本心だった。私は頑張っていない。たぶん、中学の時の半分も。


「嘘。だって、中学の時も、すごい頑張ってたもん。いっつも予習復習完璧で、授業中居眠りなんかしたことなくて……」


「大げさだって」


 実歩が本気でそう思って言っていることが、伝わってくる。だからその分、耳が痛かった。


 今の私は全然そんなのじゃない。授業の予習なんて、して行ったことがあっただろうか。テスト期間以外に、家で机に向かったことなんて、あっただろうか。


 思い返せば思い返すほど、中学の時との違いを突きつけられた。『変わった』という瀬野の言葉の意味が、やっとわかった気がした。


「……実歩」


「何?」


「中学の時の私って、どんな感じだった?」


「え! どうしたの急に」


そう言って実歩は、声を立てて笑った。そりゃそうだと私も思う。急にこんなこと聞かれたら、きっと私も驚くか笑うかしてしまう。

けれど、聞かないといけないと思った。


「ごめんね。変なこと聞いて」


 でも、教えてほしい。そう言うと、実歩はしばらく黙り込んだ。んーっと、考え込むような声が聞こえてくる。


「明里は、何か近寄りがたかった!」


「ち、近寄りがたい?」


「うん。休み時間ほとんど勉強してたし、授業中、ロボットかってぐらい背筋伸ばして、先生の話聞いてたし」


 どんどん、実歩の口から、思いもよらなかった印象が語られていく。中学の時の自分を思い出して、顔が熱くなってきた。


「何それ、私がり勉じゃない……」


「うん、同じクラスになってすぐは、がり勉だと思ってたよ」


 あっけらかんと実歩は言う。けれど、その言葉は私にとっては衝撃だった。


「ザ優等生! みたいな感じだったし、話しにくそうと思ってた。けど、話してみたら、素直な子なんだなってわかったよ」


「素直?」


 そんなことを言われたのは、初めてだった。


「自分より点数いい子がいたら、すごい悔しそうな顔するし、わかりやすくて意外と子どもっぽいとこあるんだなって思ってた」


「……負け惜しみとか言ってたしね」


 あったあった! そう言って、実歩は笑う。

聞いているうちに私は、だんだん中学の時の記憶が蘇ってきていた。思い返せば、私はとても負けず嫌いな子だった。


 人に負けるのが嫌で、自分よりいい点の子を手放しで褒めたことなんてなかったし、同学年の誰より、自分が賢いと信じて疑わなかった。そうあるために、いつも必死だった。


「……なんか、私すっごく面倒くさい子だね」


 それを聞いて実歩は、否定せずに明るい笑い声をあげた。妙に恥ずかしくて、体温が上がる。たぶん、今鏡を見たら、真っ赤な顔をした私がいるだろう。


「でも、すごいなって思ってたよ。あんなに必死になれるなんて、一生懸命で頑張り屋さんなんだなって。……ちょっと、プライド高いとこはあったけど」


「なんか、最後の最後にけなされたんだけど」


「ふふ、まあまあ。でも、やっぱり、何だかんだ憧れてたよ。私と全然違うなって」


 さっきとは別の意味で、顔が熱くなった。


「ありがとう。……でも褒めすぎ」


「えー、言えって言ったのはそっちなのにー」


 真っ直ぐな言葉が、ただただ嬉しかった。同時に、今の自分が無性に恥ずかしくなった。そんな風に思ってくれている実歩に対しても、それから、昔の自分に対しても。


 そのとき、電話の向こうで、女の人の声が聞こえた。私に一言断って、実歩が向こうで話をし出す。しばらくすると、慌てた様子で電話口に戻ってきた。


「ごめん! お使いに行かないといけなくなっちゃった!」


「ううん、こっちこそ長々とごめん」


 私が言うと、実歩は、じゃあと言って電話を切ろうとする。それを、慌てて遮る。


「あ、ごめん実歩。やっぱりね…………」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。