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呪われた俺の、新しい学校生活

目覚ましが鳴り響く。俺は右手だけでそれを止めた後、枕に突っ伏す。

『関口君~朝だよ~二度寝すると遅刻だよ~』

俺の耳に確かに聞こえた女子の声。嘘だろ!?今は授業中かなんかか!?つか、そもそも俺に話しかけるやつなんて・・!?

俺は飛び起きて周囲を見渡す。

俺の部屋だ。ということは・・・

『うわぁ!い、いきなり飛び起きて驚いたよ~!何かあった?』

「・・・あ、あははは・・・・」

そうだった、思い出した。今は彼女が居候しているんだった。

成瀬結衣。学園の清楚な美少女、おとなしめですごく優しく人気だった。

そう、だった。彼女は一昨日の夜、亡くなった。

そして昨日幽霊になって、俺のベッドの上に現れた。俺以外彼女の存在に気付いている者は今のところいない。

俺は彼女が幽霊になってしまったという未練を果たしてあげたいと言う気持ち、個人的な感謝の気持ちで彼女の手伝いをすることを決めた。



「はい、たかくん!これ、お弁当ね!」

「ああ、ありがとう!じゃあ、行ってきます!」

「いってらっしゃい~♪」

『私も行ってきます~!』

いつもの玄関での姉のやり取り。今日は俺の横に新たな仲間がいる。

この状況、姉から見たらどういうことになるんだろう・・・

朝に登校する男女・・・

いや、やめておこう。相手は確かに人間だけど、幽霊なのだ。というか、もともとの問題として・・・

所詮、呪われた俺に青春ラブコメは有り得ないのだから。



『ランランルー♪』

なんか、今日の成瀬、やけに機嫌がいいな・・・まさか昨日の今日でここまでいつものような明るさを取りもどすなんて・・・まるで死んでいないみたいに・・・というより、普段もここまで明るかったっけ!?

・・・いや、辛くないはずはないだろう。もしかしたら、俺に気を使っているのかもしれない。彼女はどこまでも優しいやつなのだ。

『遅いよ~関口君~!早く早く~!!』

「・・・ってもう、そんなに遠く!?ま、待てよ!!つか、お前、学校までの道知らないだろ!?」

『通り抜けられる私に道なんて関係ないよ~あははははは~!!』

なんか普段の倍元気じゃねぇか!?一晩で何があったんだ・・・!?気は・・・使ってないんじゃね・・・?



学校の雰囲気はまだ暗かった。

俺だけいつもどおりだった。もちろん、クラスで笑ったりすることなんて、元からないが・・・

最初の授業は数学。教科自体は嫌いではないが、得意ではない。ただ授業の方針が嫌いだ。

毎回小テストがある。小テスト自体は簡単だから苦ではない。ただ採点のときに隣と交換採点するのが嫌なのだ。

俺の席は窓際から数えて二列目の一番後ろ。成瀬が隣にいたときも右隣。

交換するのはいつも左隣の女子だ。

それが嫌だ。テスト用紙を無言で取って無言で返す。別に何かを言われたいわけじゃない。

だが、決して俺の顔を見ない、そういう態度が嫌いだ。まあ、そういうことをするのは彼女だけではないが・・・

『なんか、柚奈ちゃん、冷たくない・・・?』

成瀬が隣の女子、藤堂柚奈の様子を見て呆然としている。

「いつもこんな感じだよ。知らなかったか?」

『そうなんだ・・・意外と見えてなかったのね・・』

生前、俺の右隣で立ちながら俺に話しかけてきた成瀬。俺の顔をまともに見て、笑顔を見せてくれた女子は成瀬だけなんだろうな、と思い返していた。


「つか、俺の手伝いをしてくれるなら、俺の計算ミスぐらい、指摘してくれてもいいだろ・・・」

『はいはい、でも、調子に乗らない!テストぐらいは自分で解くんだよ~?』

「わかったよ・・・じゃあ、授業中に当てられたりしたら、助けてくれよな・・・」

『それは、いいよ!でも、私をあてにしないでよ・・・?私だって、自信ないときあるし・・・』

これは謙遜だ。成瀬の成績は学年で常に30位以内。文系に限っては一桁順位だ。

謙虚なところは嫌いじゃない。極端な謙虚は不愉快を生むが、成瀬の場合は不快を感じない。



政治経済は嫌だ。

日本史はすごく好きである。だから、首相の名前や大日本帝国憲法の範囲は覚醒していた。しかし、世界史が関連すると、まったくだめなんだ・・・

そもそもカタカナが悪いのだ。

読みにくいっていったらありゃしない。

『関口君、市民政府ニ論を書いたのはイギリス人のロックだよ。

ロックはね、名誉革命やアメリカ独立革命にも関係を持った偉人だよ。

結構、ここは革命と人を関連付けると覚えやすいよ?たとえば、ルソーはフランス革命だとか・・・あと、ホッブズだけはちょっと仲間はずれね?この人は二人と違って絶対王政を支持したから・・・』

成瀬先生のすらすらな解説を聞きながら俺はノートを取った。

成瀬の言葉が頭に染み込み、授業がまったくつまらなくない。

ひょっとして、俺は今最高に恵まれているのか?

「やっぱ、すげぇな・・・成瀬・・・」

成瀬の解説の横で俺は呟いていた。

縁起悪いが、成瀬が幽霊だからこそ、今の俺は助かっている。

本当・・・縁起が悪い。



「ふぅ・・・やっと飯だ・・・」

『そういえば、いっつも関口君、教室にいないけど学食行っているの?』

「ああ、そうだよ。」

『えっと・・・一人・・・だったりする・・・?』

言いづらそうに言う成瀬。だが、今回ばかりははずれだ。

トイレも登校も下校も大抵は一人だが、昼は例外だ。

「確かに俺は呪われた清隆だが、別にぼっちじゃねぇよ。ただ、友達が少ないだけ・・」

『あ、もしかして木村くん?』

「そう!正解だ」

俺は一人席を立ち、みんなが弁当を食べている中、歩く。その横には成瀬がぴったりとつく。

見えていたとしたら、これってカップルに見えるのかな・・・

ふと、そんなことを思ってみたりもする。



「お、ぐっさん!!今日は食堂、結構すいているぞ!!」

「お、木村!つか、ガラガラだな!」

食堂に入った瞬間、窓側の4人席で一人座っていた木村魁が俺を手招きした。

『へぇ~、いっつも木村君と一緒に食べてるんだ!』

「まあな、小学校のときからの、友人だからな。だから、少なくともぼっちではない。」

俺はナポリタンを注文した後、木村の正面の席に座った。

「お、ぐっさん、今日はいつもより気分よさそうじゃねぇか!?」

「そ、そうか・・・!?べ、別に、いつもどおりだと思うが・・・」

「おぉ?ついに春が来たか!?目をそらすなって!!」

俺は思わず息を呑んだ。

「ち、違ぇし!!俺に彼女なんて・・・」

幽霊はいる。だけど、彼女じゃない。

俺の横に座る彼女はなぜか真っ赤になって噛み付きそうな勢いだ。

初めて見る動揺した彼女。少し笑いそうになってしまう。

「お、おぉ?その照れ隠しはビンゴだな??」

「ち、違ぇよ!!つか、俺はもう食うからな!!」

俺は無理やり麺を口に押し込んだ。



木村魁。俺の小学校に5年生のとき転校してきた以来、ずっと同じ学校に通っていた。

高校受験では難関大学付属高校を志望していたが、不合格。彼にとっては第三志望の、俺と同じ高校に進学を決めた。

だから、この学校ではほとんど10位以内をキープしている。テニス部も今年度から副部長だ。自尊心が強いが、相手を決してけなしたりはせず、むしろ優しい。それと、いろいろ鋭い。『魁の予感』というこの世で二人だけしかもっていない能力(自称)をもっているらしい。


「・・・そういえば、成瀬が・・・行方不明、だって・・・?」

少し暗い表情を浮かべて、木村は言った。俺は小さく頷く。

「今日、成瀬の両親が学校に入るのを、見たな・・・やっぱり、泣きながらだった・・・」

俺はうつむいてしまった。

そうだ。

成瀬にも家族はいる。

家族が悲しんでいることも成瀬は知っているはずだ。

行方不明。

火事で行方不明になるのは普通おかしい。焼死体が残る。

だが、残っていないとなると状況は変わってくる。

誘拐殺人の可能性、家出や、一人逃げて今は帰れない状況にあるという可能性。

真実では、成瀬は死んでいるが・・・


「テニスもいいし、頭も良かったし・・・いい人ほど、いなくなっちまうよな・・・」

木村も成瀬とは結構面識があったはずだ。

そもそも、俺が部活で成瀬と話していたときはほぼ毎回木村も一緒にいたからだ。

「行方不明なら、早く見つかってほしいところだが・・・」

やはり木村も幽霊の成瀬が見えていないのだ。

女子の話を出したところで木村も成瀬の存在に気付いているかもしれないと思ったが、勘違いのようだった。

もし木村が見えていたとしたら、茶化すか、もしくは飛び跳ねるほど驚くだろう。



「でも、うまくいったってことか・・・」



木村は何か意味ありげなことを呟いた。

「ん?なんか、言ったか?」

「い、いや、なんでもない。それより、お前、今日こそ部活来いよな!」

昨日は成瀬の件もあって休んでしまったのだ。

「ああ、わかってるよ!」

木村も友達が多いわけではない。

その理由は俺と似ていて、色々ある・・・

昨日は苦労したのかもしれない。


「おっと・・・もうこんな時間か・・・じゃ、また放課後!」

チャイムが鳴る10分前、俺たちは食堂を後にして教室に向かった。

『木村君って、やっぱり不思議な人だね・・・』

「ん?そうか?」

『うん、説明はできないけど、なんかこう・・・爽やかなイメージがあっても、面白いし・・どこか感が鋭いし・・・二人のときはあんな感じなんだね。』

「ああ・・・あいつは、すごい奴だよ。小学校のときから、いつも俺の先を行ってた・・・」

中学の同級生でこの母校からかなり遠い学校に来たのは俺と木村だけ。一番の近場にいるのはもう一人の魁である斎藤・・・

あれ・・・俺は今何か・・・

『関口君?』

「・・・あ、いや、勉強も、テニスもすごいな~ってさ!」

『やっぱりいい人なんだね・・・大切にしなよ?』

「ああ・・・もちろん。」




ああ、眠い。死ぬ・・・

化学の催眠先生の授業は相変わらずきつい。昨日はなんだかんだで緊張して眠れなかった分、それが重みとなって瞼を攻撃する。


目の前に広がるのは真っ白な空間。何もない。そこにいるのはただ俺だけ。

『せ・き・ぐ・ち・君♪』


「うおぁああ!!!」

俺は思いっきり飛び退き、周りの痛い視線が集中する。

「す、すみません・・・」

俺への痛い視線は一瞬でおさまり、授業は再開する。


座りなおした今でも動悸が俺の体に響いている。

成瀬だ。成瀬が俺の目の前でじっと見ていたのだ。起きたら美少女が10センチもないくらいの距離で微笑んでいたら、そりゃ驚くに決まっている。

「・・・なんてことしてくれたんだよ・・・」

『いやぁ・・・あんまり気持ちよさそうだったから・・・でも、授業中の睡眠はだめだよ?』

「・・・・つか寝る前に起こしてくれよ・・・寝顔見てたのか・・・?」

その瞬間、成瀬は急に硬直し、顔を赤くして飛び退いた。

『そ・・・それは・・その・・・えっと・・・・ちょ、ちょっと散歩・・!!!』

成瀬は急に大声を出した後、窓のほうに飛び込んだ。

一瞬息を呑んだが、すぐに成瀬が幽霊であることを思い出す。


心臓に悪いから・・・せめて・・・ドアから出て行って欲しい・・・いくら死なないからって壁にダイブはしないでくれ・・・



「あ、いたいた・・・」

放課後、成瀬は扉近くの廊下で立っていた。

「何していたんだよ?」

『・・・うーん・・・屋上で叫んでたかな・・・』

「・・・むしゃくしゃしていたのか・・?」

『いやいや!もう大丈夫!!・・・じゃあ、今日は・・・部活?』

「ああ。お前はどうする?」

『うーん・・・私もテニス部行こうかな・・・』

「そっか、じゃあ、着替えるから先行っててくれ。」

『うん!』

なんか、信じられないな。女子とこんなに話したの、初めてかもしれない。

しかも俺にしか見えていないとか・・・いかんいかん!これは恋愛じゃない!!



「おーい、ぐっさぁーん!!」

遠くのコート付近からユニフォームを着た木村がラケットを振ってくる。

「ああ、ちゃんと今日は来たぞ?」

「ナイス!!じゃあ、今日の練習試合、ダブルスよろしく!!」

「えぇ!?またか!?この前と同様俺じゃ、足手まといにしかならねぇよ・・!!」

「おいおい、もう俺たちのペアはほぼ公認だぜ?ぐっさんはボレーすげぇじゃねぇか!後衛は俺に任せろ!」

「あ、ああ・・・」

そこまで得意ではないのだが・・・

確かに俺の身長はわりと高め。木村より10センチの差はある気がする。まあ、木村に身長の話はタブーだ。高いと言っても、テニス部内だけで、バスケ部やバレー部には俺より高いやつがごろごろいる。


「ナイスボレー!!ぐっさん!!」

今の試合は6-3。同級生のチームではなかなか強かった。

「木村こそ!ナイスサーブ!!」

「いやぁ~ぐっさんのスマッシュ、迫力ある~うらやましいな~」

「い、いやいや!!木村のショットが強くて向こうがうち洩らしたやつを叩いただけだから!!」


『おーい!!ナイスゲーム!!関口君!!!』

大声で審判の下のほうから手を振る成瀬。俺は笑って頷いた。

「ん?どうした?ぐっさん・・・あれ、もしかしてあいつか?」

え・・・木村、成瀬のことが、見えているのか!?


「おお?やっぱりぐっさんは直井さん狙いなのか~?走ってる姿を目で追っちゃって~・・・ぐっさんは年上好みだと思っていたが、まさか後輩狙いなのか!?」

「ち、ちげぇよ!!たまたま!!」

つか、本当にたまたまだ。コートの周りを走っている一年生集団にいる直井和葉の一個手前を見ていたのだ。


木村に言われて少し意識してしまった。

俺の視線は自然と直井を追いかける。

その直井の視線が俺と不意にぶつかる。

直井は控えめに、だが俺に微笑を浮かべて手を振った。


「ぐっさん・・・お前・・・畜生!!何だよ、今の!!超可愛いじゃねぇか!!畜生めが!!いつの間にそういう関係になっていたんだよ~!!うっわぁ~隅に置けないなぁぁ!!」

木村が飛び掛ってヘッドロックをしてくる。

「う、うおぉ、落ち着け木村・・・死ぬから・・・!」

視界の端で直井も、そして成瀬もくすくすと笑っているのが見えた。



「これで、今日の活動を終わります、礼!!」

「ありがとうございました!!」

ふぅ・・・やっと終わった・・・

「じゃあな、ぐっさん!!お疲れ!!」

「ああ、お疲れ!!また明日!!」


『やっぱり、関口君、テニス上手だよね!!』

「いやいや!!俺なんてストロークがいまだに思うように打てないし・・・つか、やっぱりって・・・?俺、練習試合ほとんど出させてもらってないけど・・・」

1年生のときはまったくの初心者の俺とテニスをやりたいやつはまったくいなかった。お荷物の俺とやりたいやつがいないのは自然だ。

まあ、木村だけは一学期中、俺の練習に付き合ってくれた。

木村はあろうことか俺をダブルスに誘い、それである程度技術を磨いた。

そのおかげで2学期からちゃんとした練習試合に参加できるほどになった。

まあ、相変わらずダブルスを組んでくれるのは木村だけで、シングルスでの勝率は3割程度だ。

『夏休みの練習試合もそうだけど、1学期のとき、とか・・・!』

基本男女別々で互いを見る機会はほとんどない。

ただ夏休みだけは一部女子と合流したこともあった。考えられるのはそのときだろう。

だが・・・1学期?つまり俺と木村の練習のときってことか?

「まあ・・・成瀬には及ばないけどな・・・1年生のときから先輩に混じって練習していたし・・・」

『み、見ていたの!?』

「み・・・見ていた・・・って・・・そりゃ見ていたよ・・・もちろん・・・」

そりゃ・・・同学年が先輩に混じって練習していたら目立つし、お前はただでさえ人気があるんだからさ・・・

『そ、そ、そ、そうなんだ・・・!!や、やっぱり・・・本当に・・・本当に・・・!?い、いや、きっと、勘違い・・・焦るな~私ぃ~』

「何一人でぶつぶつ言っているんだ?」

『な、何でもないよ!!そ、それより、今日は夕飯当番なんでしょ?早く帰ってご飯作らなきゃ!!』

一人先に校門に向かう成瀬。

その成瀬の後姿を見て、思い出すことがあった。

今日見た成瀬のご両親のことだ。

「あ、ああ・・・そうだけど・・・」

そうだけど・・・成瀬は・・・


『ん?どうかしたの?』

成瀬は足を止め、首を傾げた。

「あのさ・・・・家族に、会わなくて、いいのか・・?」

成瀬は口を引き締めた。

成瀬自身も家族との別れはつらいはずだ、絶対。

でも、せめて家族の姿くらい見に行くべきなのではないだろうか。

わざわざ俺のところにずっといる必要もないわけだし・・・


『ううん。まだ、いいや。その・・・私に気付いてくれないで泣いたりしてるの、見たくないの。もうちょっと・・・時間が欲しいかな・・・』

それももっともだった。

会えば会うほど、辛さは増していくはずだった。

ここは俺が少し無神経だった。

「そっか。わかった。ごめんな!変な空気にしちゃって!さあ、帰ろうぜ!『俺たち』の家に!」

俺は成瀬の横を通り抜けた。

『うんっ!!!!』

さっきの暗い表情とは対照的な元気は返事が返ってきた。


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