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ひだる神

森林浴をする男がいる。


都会の喧騒から離れ、閑散とした森を歩く。


木々の間からこぼれる光や、遠くから聞こえる野鳥の声などが実に清々しい。

仕事漬けの毎日で荒んだ心が一歩、また一歩と歩を進めるごとに洗われていく気がする。


――そんな時だった。


だんだんと綺麗になっていっていたはずの心にひとつの邪念が紛れ込んだ。


それは最初は小さな、奥歯に挟まった小骨程度のものだったのだが、段々と心を蝕んでいき、強烈な一念へと変化していった。


その一念とは……





"揉みたい!!"





何を揉みたいのかサッパリ分からないが、心の奥底から急に湧き上がった衝動、欲求に男の心は支配され、その場から動くことが出来なくなってしまう。


心に突き動かされるがままに、手をワキワキと動かし揉める場所を探していく。



ほっぺたを揉む


――違う、これじゃない



お腹を揉む


――これも違う



ケツを揉む


――全然違う



胸を揉む


――何か惹かれるものがある、でも物足りない!



一心不乱に自身の胸を揉むが、何かが物足りない。

心の奥底から湧き上がる衝動が欲しているのは、もっと大きい、ふかふかの肉まんのような感触だ。




ところで皆さんはこういう言葉を聞いたことはないだろうか?


『病は気から』『プラシーボ効果』


簡単に言ってしまえば、「強い思い込みは現実に影響を与える」である。



そしてもうひとつ、こんな言葉を聞いたことはないだろうか?


『火事場の馬鹿力』


人間は本来の力の70%ぐらいを使用していないという。

しかしピンチになったとき、100%の力を発揮して危機を脱することがあるというものだ。



強烈な『揉みたい』衝動に襲われ胸を揉み続ける彼に起きたのは、その2つの合わせ技である。


ひと揉み、ふた揉みと揉むごとに、むくりむくりと膨らみ、揉みごたえのあるものに変化していく。


変化が起きているのは『そこ』だけではない。

大きな『それ』を持つのに相応しい形に身体全体が変化していく。



彼の心から『揉みたい』衝動が晴れたとき、彼の身体は釣鐘状の立派なモノを持つ女性に変化していた。



『ひだる(がみ)』は行き逢い神の一種である。

山中で飢え死にした者がなるとされ、これに取り憑かれると強烈な飢餓感に襲われ、歩くことができなくなってしまう。

和歌山県では山越え中にこれに憑かれたときは弁当の残りを食うか、手に米と書いて3回舐めると元気になると伝わっている。


飢餓とは一般的には食に対するものではあるが、人によってはそれは別のものであったりするのだろう。

今回の『ひだる神』の場合は、手に『乳』と書いて3回揉めば、わざわざ力技で女に変わる必要などなかったのではないか?


窮地において己が身を救うのは『知識』である。ゆめゆめ忘れぬようにしたいものだ。


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