野宿火
夜の帳が下りた頃、桜の木の下で月明かりに照らされる4つの影があった。
ひとつは痩身で意志の弱そうなメガネの男、桜の木に背を傾け、ウンウンと唸りながら眠っている。
それの肩を掴み、幸せそうな笑顔で眠るのは、頭の禿げ上がった男。
そこから少し離れた木に背を預け、スマフォで動画を見る巨漢と小学生低学年ぐらいの少年。
今日この日、ここでは花見が行われていた。
そこで痩身の男に上司の禿頭が絡んできた。
痩身は「その、今日は子連れですので……」と回避しようとしたが、持ち合わせの意志の弱さと上司の強権発動で、飲めない酒に無理やりつき合わされてしまう。
巨漢のほうは宴会の幹事であるので、酔い潰れた2人を介抱するためにここに残った。
痩身の子供が手持ち無沙汰にしていたので、迷子になってはいけないと、動画を餌にして一緒に見ることにした、というのが今の状況だ。
2人が寝てから結構経った。まだまだ春先なので夜は冷えるし、子供のこともある。そろそろ起こすかと巨漢は重い腰を上げる。
そして、桜の木の下で眠る2人を見て、固まった。
なんだこれ……?
まずは痩身の男。
「もっと肉を食え」と言われるほど痩せぎすの身体が、急激に肉つきが良くなっていく。
特に顕著なのは太ももとお尻。それでも窮屈に締め付けられずに済んでいるのは、宴会のためにズボンのベルトを緩めていたのが功を奏したのだろう。
胸元の変化はなかなか過激だ。「なんだか胸が心なしか膨らんできたような?」と思った次の瞬間、ワイシャツのボタンを弾き飛ばし、2つの塊がロケットが飛び出すように現れた。
「ああッ……」胸が開放された時にこぼれた鈴の音のような声がなんだか色っぽい。
こけ気味だった頬が丸みを帯びていく。ストレスで白髪交じりだった頭は艶やかなものに変化する。
痩身の男は肉感のある美女へとその姿を変えていた。
禿頭の方も変化していく。
やはり、一番の変化はその頭だろう。
ツルツルだった頭から、色艶、ハリともにトップレベルの髪が滝のように流れ出す。
身体の変化も見逃せない。
その手足が、胴体が、みるみるうちに縮んでいく。
もちろんでっぱり気味だったビール腹も含めてである。
脂ぎって小じわが気になる顔は、あどけない天使のようなものに変化する。
禿頭の男は、ダボついた服に身を包む長髪の美幼女になっていた。
目を開き、違和感を感じ、隣を見、視線を合わせる。
戸惑っていたのは最初だけ、美女の視線は段々と鋭く嗜虐的な色を帯びていき、幼女の視線は潤みを帯びていく。
頬にそっと手を触れ、美女は言う。
「先輩、かわいくなりましたね」
それが引き金だった。
2人は火照る身体を重ね合わせていく。
巨漢は2人が変身し、そして絡み合っていく様に身を硬直させていた。
そんなとき、
「なんか……からだが……あついよぅ……ああッ……」
隣で上がった声を聞き振り向くと、そこには児童服をヘソ出しで身に着けた女性がいた。
容姿はやはり親子ということなのだろう、痩身が変身した姿に良く似ているが、こちらは少し幼さが残っている。
もっとも、美人親子というより、美人姉妹と言ったほうがいい趣ではあるが。
そんな女性が「あついよぅ……」と言いながら、肉食獣のような目でこちらに向かってくる。
男は思わず後ずさりしようとして、いつの間にかずり落ちていたズボンに足を引っ掛け転んでしまった。
何故と思い、自身の下半身を見てみると、胸の辺りで視線をさえぎるものがあるため詳しくはわからなかったが、スラリと細長い美脚が見えた。
「俺もかよ」とごちた声はいつものダミ声ではない。
そんなとき、視界に影が差す。
見上げると、児童服がはちきれんばかりの肢体を持つ、女の甘い吐息が顔にかかる。
そこでタガが外れた。
考えるのを止め、メラメラムラムラと燃え上がる、それ、に身を任せた。
『野宿火』とは妖怪的現象である。
宴の後などに火の気の無いところで突然燃え上がり、そしていつの間にか消えるという。
もし、彼らを襲う現象が『野宿火』に近いものであるならば、いつか火は消えてしまうのだろう。
ついに4人で絡み合い始めた彼らは、鎮火したときにどうなってしまうのだろうか。




