表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

肉吸い

霧深き山中の、道なき道を歩く者がいる。


チェック柄のシャツにジーンズ、サックを背負ったショートヘアの少女である。

年の頃は14歳頃だろうか、若干幼さは残るものの、切れ長の目をした魅力的な顔立ちだ。


彼女はおぼつかない足取りで周りを確かめながら歩を進めている。



彼女は遭難者である。

家族で山登りに来たのだが、40台半ばの両親や歳の離れた妹と、育ち盛りの少女では体力が違う。

それにちょっと背伸びしたいお年頃ということもあったのだろう、3人を置いて一人で先へ先へと進む、進んでしまう。


そんなときに濃霧に行き遭った。


山登り慣れした父が傍にいれば、適切な対処も出来たのであろう。

しかし、彼女は素人、しかも冒険心と好奇心溢れる中学2年生である。

頼まれてもいないのに霧の奥深くに入り込み、そして迷ってしまった。



ポケットからスマホを取り出し画面を見る。


16:30


1人になってから、2時間が経過しようとしていた。

アンテナはやはり、圏外だ。


「おとうさん……おかあさん……ごめんなさい……あいたいよぅ……」


画面の上にぽつりぽつりと涙がこぼれた。



そんな時だった。


みしり、と木の枝を踏み砕く音が聞こえた。


近い。



涙で霞む目をこすりながら周りを見渡すと、いた。


ぼんやりとだが、3つの人影が歩を進めているのが見えた。



「あ……ちがう……」


もしかしたら、家族のみんなかも?

そう、淡い期待をこめて目を凝らしたが、そうでないことに気付く。


でも、人であることには違いない。

そう考えると、発光するスマホの画面を相手に見えるように持ち、大きく手を振り、気付いてもらえるように精一杯大きな声を上げた。




合流したのは大人の男女であった。


1人目は角刈りでジャージ姿の大男。

その精悍な顔立ちやガッチリした風貌はゴリラを連想させる。

ガタイのよさと鋭い目つきに、少女は思わずビクついてしまう。


2人目はキノコのような髪型の小太りの男。

ニヤついた目から発せられる舐めるような視線には生理的嫌悪感を覚える。

このような緊急事態でなければ、まずお近づきになりたくない人種だ。


そして3人目、着物姿のスレンダーな美女である。

透き通るような白い肌と、腰まで伸びる艶みがかった黒髪には、同姓であるにも関わらず、思わず息を呑んでしまう。



しばらく互いに目配せをしていた3人であったが、美女がコクリと頷き、前に出て、そして少女を抱き寄せた。

抱き寄せられた少女は思わず目頭が熱くなる。


涙で霞む目に影が差し、泣き声を上げていた口が突然塞がれる。

あまりのことに困惑する少女であったが、唇に感じる柔らかさ、舌に絡まる滑らかさに、何をされているかを理解する。



え、なんで、キ、キスされてるの、え、なにコレ、やだ、なんか、キモチイイ……



パンクする思考、蕩ける心、そして急激に襲ってきた眠気に、少女はその意識を手放した。




霧の中、残っていたのは3人であった。

ゴリラ男、キノコ男、そして着物姿の美女である。

スレンダーな体型であったはずの美女の肉つきが若干良くなっている気がする。


少女の姿は無い。

が、その服やサック、肌色の何かが先刻まで彼女がいた場所に残っている。



「ほ、ほんとに大丈夫なんだろうな!?」


ゴリラ男に、キノコ男が顔を真っ赤にして問いかける。


「またか……」


ポリポリと頭を掻きながらゴリラ男は面倒くさそうに言う。

さっきの光景を目の当たりにした"客"は大抵こんな風に詰め掛けてくる。


こういうのに対し、口で説明するのは面倒くさいし、性分ではない。

だから顎をしゃくり、やれ、と合図を出す。


コクリと頷いた美女は、その細腕からは考えられないほどの怪力でキノコ男を掴んで引き剥がし、強制的にその唇を奪った。




霧の中、残っていたのは2人であった。

ゴリラ男と着物姿の美女である。

着物姿の美しい肢体は、着物がはちきれんばかりの肉感のあるものに変化していた。


キノコ男の姿は無い。

少女のときと同様に服と肌色のものを残すだけだ。



美女はくるりと背を向けると、少女の服のあるほうへ向かう。

そして肌色のものを摘み上げると、それに何かを吹き込む。

それは、だんだんと風船のように膨らみ、形を成していく。




霧の中には3つの人影があった。

ゴリラ男と着物姿の美女、そして地面に横たわる3人目は、消えたはずの少女である。


ゴリラ男は後始末をしながら、肉感の少なくなった美女に問いかける。


「銀行口座とか隠してなかったか?」


「かくしてた」


「やっぱりな。で、ちゃんと食ったか?」


「ばっちし」


"契約"では全財産が報酬であるにも関わらず、隠そうとするヤツは非常に多い。

もっとも、記憶は吸ったときに全て分かるから、隠しようなど無いのだが。

そういうのは移し変えるときに食って、引き継がせないようにしている。

契約はちゃんと守らないといけない。


「名前とかは?」


「もちろん」


過去の自分の名前を頼りに、過去の自分を探るのはご法度だ。

昔住んでいた地名や家の形、周りの景色といったものも全て食わせるようにしている。


「俺たちのことは?」


「さんにん」


「じゃあ、そいつらが今日の晩飯だな」


「うん!」


"こんな事"ができるのは知られるわけにはいかない。

だから吸ったときに全て忘れてもらう。

そして誰かに伝えていた場合は、その者たちにも消えてもらう。



「じゃあ、いくか」


「うん、はやくいこ!」


後始末を終えたゴリラ男は、つたない言葉ではしゃぐ美女を連れ、霧の中に姿を消す。



霧の中には少女の姿をしたモノだけが残された。




肉吸(にくす)い』は三重県 熊野山中、和歌山県 果無山(はてなしさん)に現れた鬼である。

美しい娘に化けて、山中を行く人々を襲い、その肉を吸ったのだという。




久しぶりに会ったら別人のようになっていた、という話はよく聞くものである。


知り合いにそういう人間がいるのであれば注意することだ。

もしかしたら、皮の下は本当に別人になっているのかもしれないのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ