あれから一年
あれから一年経ちました。おっさんの武具店に来ています。
「ほー逃げなかったのは褒めてやるがの。まぁ逃げとってもこっちが儲かっただけじゃがな。」
とはじいさん。
失礼な。ここまで苦労して育てたのに逃げてたまるかってんだ。
……あれから、魔物討伐の授業が始まってようやっと精霊貨を稼げるようになった俺は「譲渡」のスキルを購入し「無明」に与え続けた。
ただ忘れてたんだがこの「無明」やったらめったら美しい。無駄にキランキランしてるもんだから授業中に注目浴びまくる浴びまくる。
譲ってくれと頼みに来る者、寄越せと恐喝してくる者、かってに持って行こうとする者、もううんざりするくらいやってきた。
時には断り、時には返り討ちにし、時には制裁を加えていた俺の評価は地に落ちた。妬み嫉みその他もろもろごっちゃ混ぜというやつだ。もっともそれも一ヶ月の間だったが。
一ヶ月も経った頃俺の隙を突いて持ち去ろうと無明に触れた生徒が突然ぶっ倒れたのだ。
原因は魔力欠乏症。魔法を使いすぎるとかかるあれである。詳しくはググれ。
それからは呪われた剣として俺ともども恐怖の視線にさらされた無明。
だがこいつは俺にもやさしくはなかった。
俺が使っても魔力を吸い取っていくのである。
中の精霊が覚醒してきてると喜ぶべきか使うのがめんどくさくなったと悲しむべきか。
一時期は使う武器を変えようかとも思ったが魔物を倒した時に出る光の粒子にさらしてやるとどうにもその分を吸収しているっぽいのである。
「譲渡」のスキルも100%ロス無しで譲渡できるわけではない。
こうなりゃやけだと精霊貨の譲渡の量を抑えつつ貯めた分でドレイン耐性や魔力回復系のスキルを購入してて何とか乗り切った。
そしてその結果が……
「おお…」「むむぅ…」
無明に組み込まれた精霊石からホログラムのように映し出される「ミーム」である。
ミームの容姿は人型で本体の無明に準じてかかなりの美人さんだ。
ただちょっときつい感じを受けるのは剣に付いてる精霊だからだろうか?
腰まで伸ばしたキラキラ光る白銀の髪の毛を筆頭に全体的に銀色を基調とした衣装で合わせられている。
どーよ?と俺はドヤ顔でおっさんたちを見やる。未だ驚きから戻ってこないみたいだ。
「お久しぶりです、お父様。」
「お、おう。これはまたしゃべるとは……」
「まさか精霊付きにまでするとはな……」
俺の育成計画(ただ精霊貨を与えるというだけのものだが)で精霊は意思と人型を持つまでに至りました。どんどんぱふぱふー。
俺むっちゃ頑張った。主に精霊貨と魔力を与え続けるという意味で。
無明の鑑定結果もちゃんと魔力を喰らう魔剣と出るし、じーさんとの約束は果たしたといえるだろう。
「ちょっと「無明」を触らせてもらってもいいか?」
「あーそれはちょっと…」
「いけません!」とはミームの言
「いくら父と娘とはいえど軽々しく肌に触れようなどと許されることではありませんわ!それに私はご主人様にしか体を許すつもりはございません!」
場がシーンとなる。こちらをジト目で見やる2対の視線。やめてくれ!俺はまだ何もやっちゃいない!
コホンと咳払いをひとつ。
「あー契約の影響で俺以外使えなくなってるん…」
「そんな!契約などなくても私の全てはご主人様のものです!私をここまで育ててくださった御恩。このミーム忘れはいたしません!」
おい!俺の折角のフォローにかぶせてんじゃねーよ!……とまぁ何故かこんな性格になっちまった。なんでだろーなー。
「ともかく約束どうりに覚醒はさせたが俺以外には使えなくなってしまった。魔剣としての能力も魔力以外のパスを通して一応使えるようにはなってる。」
「あーうん」としどろもどろなのはおっさん。
「魔力以外のパスとは?」と食いついてきたのはじーさんの方だ。
「精霊が意思を持つに至ったので交渉が可能になった。んで魔力以外の対価を支払うことで精霊の力を一時的に使えるようになってる。」
もっともこれは嘘っぱちだ。俺とミームとの間に契約など存在しない。代わりの対価を支払うというのはあっているが。
「未覚醒の精霊をどうやってここまで成長させた?」
とじーさんの目つきが鋭くなる。
「それは…秘密だ。」
チートです。なんて言えるわけがない。ギフトのおかげとなら言えるかもしれんが。
「ふっふっふ。いやまいったまいった。わしの負けだよ。」
爺さんが両手を上げ降参の意を示す。
「預かってた奴もお前さんに調整して返してやる。その無明も持って行くといい。いいなゴンズ!」
おおう、今判明するおっさんの名前。おっさんはしばらく熟慮したあと「魔剣として使いこなせている姿を見せてくれるなら」と頷いた。
「よしそれじゃぁ能力を見るために裏庭へ出るか。」
じいさんの音頭で全員裏庭へ。……どうでもいいが店番は大丈夫なのだろうか?
で、裏庭で炎弾を発射する魔槍を相手に無明……ミームを手に炎弾を着弾前にかき消すということをやってみせた。
それを見ていたゴンズのおっさん大号泣。まぁ失敗作と思っていたものが人の力を借りたとはいえ一応のの完成を見せたんだからね~。
店舗に戻り残りを詰める。担保になってた金剛棒は持ち運びのしやすいロッドサイズに縮めてもらうことにした。ナイフのようにベルトの後ろに差すような感じで装備したいと考えている。
そしてさあ帰ろうかというところになったところでじいさんが俺とミームを見やり、
「あ、そうそう今回のことはくれてやるとは言ったが……」
じいさんはニヤリと笑うと
「別に結納金はおいて行ってくれても構わんのじゃぞ?」
なんぞとほざきやがった。
ミームはなんだか「お祖父様…私幸せになります……」なんて感極まってるし何この……なに?
ちなみにゴンズのおっさんは帰り際に「お父様も早く良い人を見つけて幸せになってくださいね。」と言われて凹んでいた。南無。