ミームの隠し事
……結局パーティはあの一度きりで解散ということにした。
二人にはしばらく自分を見つめなおしたいと言ってある。
思っていたよりも弱かった俺自身の心と体……少なくとも「この世界が俺が主人公の物語のような世界だ」と思っていた心を鍛えなおさなければ、そのことに気づかせてくれた彼女らの隣に並び立つ……本当の仲間と呼べるものにはなれないだろう。
二人は「落ち着いたらまたパーティを組もう」といってくれた。ありがたいことだ。いつかこの期待には応えたい。
寮の部屋に戻りそのまま布団に倒れこむ。気を失いかけるほどのダメージを受けたのだ。相当疲れているのだろう。俺はそのまま眠りに落ちた。
……気が付くと次の日の夕方だった。丸一日寝てしまったが冒険者学校は単位制で必要最低限の授業に出ていれば卒業はできる。俺も一度ダンジョンに入ったことでダンジョン関連の講義で憂いはなくなった。後は残った課程を消化していけば卒業だけなら楽にできるだろう。
「ご主人様?起きられましたか?」
ミームから声が掛かる。はて?二人きりだというのにいつもの甘えた声ではなくよそ行き用の硬い声だ。どうしたのだろう?
「話しておかなければならないことがあります。」
そう言って告白を始める。自分自身が今まで俺を欺いていたと。
通常、魔剣は使用者の意思で振るわれるものである。だがしかしミームの魔力喰いの特性及びミームに意思があることからその力の制御をミームに任せていた。だがしかし魔剣の使用には使用者の魔力が必要である。俺はそれを知っていたのでミームの能力を使用するときに魔力を消費するのも当然だと思っていた。だがミームは自分の意志で能力の使用時に必要以上の魔力を俺から吸っていたらしい。それはまるで……
「邪剣…」
ビクリとミームの肩が震えた気がした。
魔剣と邪剣の違い。使用者が魔剣にはめられた精霊石に魔力を与え力をふるうのが魔剣。その反対に精霊石が無理やり使用者の魔力を使い力をふるうのが邪剣。このカテゴリに当てはめればこれまでミームがしてきたことは邪剣のカテゴリに当たる。
……かといってこれ以外の方法でミームの能力は使えないし多少多く吸っても問題はないんじゃね?と魔力回復系のスキルも持つ俺はいうのだがミームにとっては違うようだ。
曰く能力の発動中でもわずかに魔力は精霊石に届いている。つまりミームの能力を俺が直接コントロールすることができたのだという。意思を持って半年も経っていない自分よりは俺がコントロールできる事を教えていれば先日の迷宮のような事にはならなかったのではないか?そう罪の意識に苛まれているらしい。
「ゆるしてほしい。」「あの武器屋に戻ることも覚悟している。」というミームに俺は
「許すも何もミームには助けてもらってばかりだからな」
「あの時もミームがいなければ助からなかったし」
「と言うかミームは俺の娘みたいなものなんだからかってにどこかに行くとか決めちゃダメ」
……ちょっと恥ずかしい台詞も入ったが俺の本心である。
それを聞いたミームは「ご、ご主人様ぁ……」と半泣きである。ふむ……ちょっとこれは変えさせたいなー
「あーでも魔力を多めに吸っていたというのには罰を与えないとね」とちょっと意地悪そうに言ってみる。
「は、はい!どのような罰でも耐えてみせます!」ちょっとビクビクしてる。……なんかかわいい。あれ?俺に加虐趣味はないはずなんだがな。
「それじゃぁ……」少し溜めを作ってから告げる「ご主人様じゃなくて名前で呼ぶように。」
「へっ?」
予想していた内容との違いに頭が追いつかないのだろう。ポカーンとしたミームを苦笑いをしながら見やる。
「その……だな。ご主人様って柄じゃないんだよ。俺は」
そういうのは物語の中だけで十分だ。何より娘のように思っているミームにそういう風に呼ばれたくないというのもある。
「ほら、名前で呼んで。」と急かすと「シジ……様」と顔を赤らめながら呼んでくれた。様付はまぁ最初だからしょうがないか。
「シジ様……シジ様……シジ様……えへへぇ……」
噛みしめるように繰り返すミームがとろけるような笑顔をする。……うん呼び方を変えてもらってよかったな。
俺とミームの関係が少し変わったように俺自身も変われるよう努力しよう。心も体も今よりも強く。1月、2月では無理かもしれない。だが冒険者学校を卒業できるまでには……あの二人との約束を果たすまでには……変われるだろうか……
第一部完。キンクリ。活動報告にちょっとした事書いてあります。




