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spiral  作者: 井伊 友野
3章
5/8

トモ[3]

あははははははは。

赤い、赤い、赤い。血が、血が、血が。

目の前から車がやってくる。危ない。僕のことを見えていないのか。

手元にあったフライパンを窓ガラスに投げつける。

ガチャン。

車は、突然の攻撃に、戸惑い、車は横転。僕は車に乗り込み、運転手を引きずり出す。

助かった、ありがとう、と安堵の笑みを浮かべている。

僕は思いっきり、顔を蹴飛ばす。ガンガンガン。

手元にあったバットで腹を叩きつける。ガシガシガシ。

嘔吐する運転手。汚いな。僕はバットを口の中に、押し付ける。グリグリ。

ぶりぶりぶり。口を抑えたら、今度は下から見たくないものが飛び出してきた。

ああ、汚いな。我慢ができなかったのか。

車の中から、包丁を取り出す。

顔を刺す、刺す、刺す。異臭が酷くなってくる。どうしようもない。

心臓を貫いた。グサグサグサ。

これで、大丈夫。良かった。二酸化炭素製造機が、役目を終了し、動かなくなったんだ。

そういえば、顔を見ていなかった。暗くて、よく見えなかった。誰だったんだろう。

財布を抜き取り、運転免許を取り出す。写っていたのは、パパ?パパ!?パパ!!

嘘だ、信じない、まやかしだ。

運転席の隣には、ママがいた。ママ?ママ!?ママ!!

青白い顔をしている。酸素が足りない。腹部から流血している。助けなくちゃ。

××のせいで、私たちは死んだのよ。

虚ろな目でギロリと威嚇している。そこに宿るは怒りの感情。

どうして、そんなことを言うの?ボクは、ママとパパのことが好きだったのに。

どうして、私の首を絞めているの?ああ。

プツリと意識が途絶える。

××なんて生まれな良かった。

そんな言葉をボクは聞きたくなかった。

僕が聞きたい言葉、だぶん――


**

とても静かだ。ふかふかのベッドの上にいるみたい。

「ここは…」

見渡すと、真っ白な空間にポツポツと家具が置いてある。味気がない部屋だと感じる。

「おーい、起きた……おぁ!目覚めたか?」

ぺちぺちと僕の頬をはたく。

「映画を観てて、いきなり倒れたときは、びびったぞ!怖いなら言ってくれればいいのに。ほら、ホラー系以外にも色々あるのに」

彼は棚を指し、次々と映画の説明をする。ホラーもいいけど、アクション映画はもっといい。この古い映画も味があって、楽しめると無邪気に説明している。

こいつはいったい誰だ?

「だれ?」

ぼそりと呟く。

「おいおい、お前の大親友のトモだぞ!何ふざけているんだ!あっ、映画だな?根に持つなよ」

肩をパンパンと叩きながら、僕に話す。

「僕は……誰?」

トモと名乗る少年は、急に心配そうに僕の顔を覗いてきた。

「えっ!?記憶喪失か?そんなにも……えっ……本当かよ」

「ここはどこ?」

「俺の部屋だよ。わりぃ、ちょっと部屋を空けるから待ってろよ」

部屋から出て行った。

記憶喪失って、なに?よく分からないよ。僕はどうしてここにいるんだろう。教えてよ、ママ。


**

僕は自分の母親(?)のおばさんに連れられて、自分の家(?)に戻ってきた。トモという少年が電話(?)をかけて、親(?)を呼んだらしい。

自分や周りのことがよく分からない。一般常識(?)は分かっているらしい。

病院(?)に行き、医者に「脳が誤作動を起こしているみたいですね。大丈夫です。一時的なものですから、すぐに治りますよ」と言われた。母親は、不安そうな表情を浮かべていた。

診察所から出ると、トモという子が僕のことを心配してくれていた。

「治るんですか?」

「ええ、ちょっとしたことで自分のことを思い出します。重度のものではありません。だから側にいて、ケアをしてあげてくださいね」

そして、家に戻った。僕は一体、誰なのだろうか?周りにいるおばさんやトモという少年は、僕とどんな関係があるのだろうか。何も思い出せずにいた。


**

僕は学校(?)という場所に向かおうとした。

「ここは何処だろう?」

知らない道にいた。当たり前かもしれない。全ての道を僕は知らないのだから。

そもそも学校という場所が、どんな建物かよく分からなかった。僕はなにをしているんだろう。目的もなく歩いていることになる。どうしようもない。

「どうしよう」

「どうかしましたか?」

僕と同じくらいの背丈の女の子が声をかけてきた。

「えーと学校という場所に行こうとしたら、どこにあるのか分からなくて……」

「なら、一緒に行きましょう」

髪の長い女の子は手を握り、歩き出した。

良かった。これで学校に行ける。学校に行き、なにをするのか分からないけど。

「どうしてこんなところにいたんですか?」

しばらくして女の子が訊ねてきた。

「迷子に……」

「あら?忘れてしまったというの?」

「はい……」

「いい子いい子」

僕の頭をなでなでしてくる。恥ずかしかったけど、心がぽっかりと温かかった。

そして、学校に着いた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

会釈をして来た道を戻っていった。

あれ、学校は?と思ったけれども、僕は遅刻していたことを思い出し、急いで教室へと向かった。

僕の教室ってどこなんだろう?靴は脱いできたけど、これでいいのかな。

「おーい」

前から声が聞こえた。トモがこちらに向かって走ってきた。

「まさか迷子になっているなんて思わなかったよ」

「そうだね」

迷子ってなんだろう。美味しいのかな。

「もう休み時間が終わるから、早く教室に行こうぜ!」

「うん」

教室に到着した頃には、4時間目となっていた。

学校へ来るとき、迷子(美味しいもの)になっていた僕だが、勉強のほうはしっかりとできた。先生(?)も事情が事情なだけに、しっかりと僕のことを伝えていてくれた。

授業が終わると、みんなが僕の机に来た。

「大丈夫か?」

「どうしたの?」

「あーちゃん、しんぱーい」

僕のことを気遣ってくれた。昔の僕は人に好かれていたみたい。下手なことをしないよう、注意しないと。

「大丈夫だよ……みんな心配しないでね?」

たどたどしくも答えた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

「分からないことは私たちが教えてあげるから」

「うわぁ、こいつ。マジで覚えてねえのか!?」

頼もしい人達だった。

「ありがとう……」

心からの感謝の気持ちを告げた。

「へへっ」

「べ、べつに、あんたのためじゃないんだからねっ!くそ、調子が悪いな……」

「どうして、記憶喪失になっちゃったの?」

記憶が失われた理由。僕は原因を知らない。どうして僕は、僕じゃなくなったんだろう。

「俺と……遊んでいたら……急に……」

トモが心苦しそうに言った。

「悪いことは何もしてないさ。映画を観たら急に倒れちまって、こうなったんだ」

僕の周りにいた生徒の表情が固まり、冷たくなった。

「トモが原因かよ」

「最低―。変なことしないでよね」

「エロビをお子様に見せるからいけねーんだよ。コイツ、迫ったら鼻血ぶーすっからな」

罵声を食らっていた。

悲しい顔を見た僕は、「トモを責めないでよ。原因はトモにあっても、トモは僕に色々と教えてくれているから」と擁護した。

「さすがだな」

「優しいー」

「天然で女を口説く女はこれだから、いけすかない。もー」

なぜか褒められていた。

トモは周りのクラスメイトに良い印象を持たれていないみたいだ。責任を感じ、お節介を焼いてくれる人間。悪い人じゃないんだ。

トモが乾いた笑いを浮かべていた。僕は心で泣いている。気の毒だな、と思ってしまった。

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