第12話 地底からの脱出
ユキタカと女冒険者のイリスは、地底を一時間程進んでいた。
時折、強力な魔物に遭遇したが、ユキタカの傘が難なく迎撃して仕留めてしまうのだから、イリスは驚かずにはいられなかった。
わかってはいるが、ユキタカの動きはやはり、素人のそれだからだ。
その素人が、不思議な形をした『神器』と思われる聖剣(傘)を振るうと、魔物は為す術もなく衝撃波や強力な一撃のもと、絶命してしまうのだから、イリスの反応は当然のものだった。
「これも回収しておきますね」
ユキタカは、これも『神器』と思われる手提げ鞄に備わっている魔法収納であっという間に巨大な魔物を回収してしまう。
これも、見慣れてきたとはいえ、無限とも思える容量にイリスは呆然とするところだった。
「私は何のお役にも立てていないですね」
イリスは苦笑してしまう。
今のところイリスは、何もしていないからだ。
「いえ、この世界の情報を教えてくれるので、かなり僕は助かっていますよ。王都でも情報を集めていたつもりでしたが、知らない事が多いです」
ユキタカは、感謝するのだったが、本当の一番の感謝は、イリスの存在そのものだった。
一人だと寂しかったであろうこの地底で、イリスが傍にいる事により、ユキタカは安心できた。
それだけで十分役に立っているとユキタカは内心で思っていた。
「私はゴールド級冒険者なのに、助けられてばかりです。それに、あの状況から救ってもらい、今も一緒にいてくれているので安心している自分がいます」
イリスはユキタカが思っていた事も口にした。
「(あっ、先に言われた!)ぼ、僕も同じですよ! 一緒にいてもらえるだけで心強いです!」
ユキタカはパーティーを組む事を断られた後なので、グイグイ行かないように注意していたから、イリスの言葉に勇気づけられて便乗した。
「うふふっ。お世辞はいいですよ。それよりもこの崖を上がれそうな場所がないですね……」
「お世辞じゃ……。──そうですね、空でも飛べればいいんですけど……。──そう言えば、昔の映画に傘で空を飛ぶものがあったよなぁ」
ユキタカは映画を思い出すと傘を開き、地底に吹く風を捉えて浮かぶ素振りを見せた。
すると、その言葉に従うように、ユキタカの体が一気に浮き上がるではないか。
「「えーっ!?」」
ユキタカは浮いた事に驚き、イリスもユキタカの冗談が実現した事に驚く。
ユキタカは急激な上昇に怖がるどころか、体が何かに優しく包まれて浮き上がっている感覚に心地よさを感じる。
だがすぐに、イリスを置いてけぼりにしている事を思い出し、浮上する事を止め、下に下りていく。
小さく見えていたイリスが、徐々に大きくなっていく。
「こんなに一瞬で浮上していたのか……。この傘、凄いな……」
ユキタカは、ふわっと優しくイリスの傍に下りた。
「イリスさん、この柄に掴まってもらっていいですか?」
「(ゴクリッ……)わ、わかりました!」
イリスはユキタカが浮上してあっという間に小さくなったのを思い出し、自分もああなるのかと思うと緊張する。
ユキタカは、念の為、お互いの体を何か結ぶものは無いかなと、脳裏を過った。
すると、ネクタイがスルスルと延びて、イリスの腰に巻きつくではないか。
「「えっ?」」
二人はお互い目を合わせて驚く。
「イリスさんの安全を考えてお互いを結ぶものがあれば、と想像したらこんな事になりました……」
「なるほど……。それは助かります。──ゴトーさんそれでは、お願いします」
イリスは事情が分かると、勇気を出した。
「わ、わかりました!」
ユキタカも二人で飛べるかわからないので、緊張気味に頷く。
そして、先程同様、傘で地底に吹く風を捉えた。
すると、一気に二人は空に舞う。
急上昇し、見る見るうちに地底が見えなくなっていく。
それでも、地上までは時間がかかった。
しばらく浮上し続けていると、違う風を傘が掴んだ感覚があり、さらに上昇する。
ユキタカは段々傘の扱いになれていく。
その間、イリスは、ユキタカにしがみついていた。
別に、振り落とされそうとかではないが、足元に何もない状態で上昇し続ける感覚に怖さを感じてしまったのだ。
ユキタカはイリスの着痩せすると思われる柔らかい感覚にちょっと、顔を赤らめつつ、地上を目指して浮上していくのだった。
ユキタカとイリスは、永遠とも思えた高い崖を傘で飛び、遂に地上へと到達した。
優しく地面に着地すると、イリスの強張らせていた体が脱力する。
その為、ユキタカに体を預ける形になり、ユキタカがそれを抱き留めた。
お互い安堵の溜息と共に、視線が合ってハッとする。
「「す、すみません!」」
二人は赤面すると慌てて距離を取るのだった。
「ここはどの辺りでしょうか?」
ユキタカは、深呼吸して落ち着くと、周囲を見渡した。
だが、ここは森の中なので、確認のしようがない。
「舞い上がった時に、少し周囲を見渡せたので多分ですが……、ここはトールデイン王国の隣国、カールセン王国領内だと思います。近くにその国境の街と思われるものが一瞬見えたので」
イリスは過去に来た事がある街を覚えていたようだった。
「隣国!? という事は、もう狙われる事は無いという事か……」
ユキタカは思わず安堵する。
トールデイン王国には殺されそうになっていたのだから当然の反応だった。
イリスは事情を聞いていたので、黙って頷く。
「それでは、国境の街キョウガイに行きましょうか。あっ、でも、ゴトーさんのその格好は目立ちますね……。私が先に行って着替えを何か買ってきましょうか?」
「そうでした! ──でも、これは僕を守ってくれるかもしれないから困ったなぁ……」
ユキタカはそこでふと、この世界の一般的な服を想像し、スーツと比較した。
「えっ!? ゴトーさん、服が!」
イリスがユキタカの服を見て驚く。
「はい? ──って、えっ!?」
ユキタカは自分の服を見ると、先程まで想像したこの世界の一般的なものに変化している事に気づいた。
どうやら、スーツ一式には、身に着けているもの全てに変身効果があるようだ。
ネクタイも交差結びのネクタイに、ワイシャツも肌着に変化していた。
ビジネスリュックはこちらの世界のリュックに、手提げ鞄は手提げ袋になった。
「これは凄い! 服を買う必要が無いじゃん!」
ユキタカは手放しで喜ぶ。
「羨ましい性能ですね。私はこの半月近く装備はあまり手入れできていないですし、下着もゴトーさんの水筒の水のお陰で水洗いできるまでの数日間、同じものを着ていましたから……」
冒険者あるあるだが、女性にとっては深刻な悩みをイリスは漏らした。
ユキタカの身に着けている物全てが、一切汚れないらしい事は、この数日でわかっていたからである。
それに加えて、それらのデザインが自在に変化できるとなったら、本当に購入する必要が無い。
「でも、これで稀人だと気づかれずに、街に入ることができますね」
ユキタカは大いに安堵する。
良くも悪くも目立つ要素がない普通の容姿だから、服さえ溶け込めば、目立たないはずだ。
「あっ! マスクは外しておかないと」
イリスがユキタカから貰ったマスクを外して大事そうに自分の魔法収納に回収する。
ユキタカも気づいてマスクを外すと、手提げ袋(手提げ鞄が変化したもの)に収納し、それをさらにリュックに入れるのだった。




