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五話

アリア監視任務が始まってから23日が経過した


休養期間中は毎朝の身体状況検査から始まる。

検査の様子は言わないでおこう、変態だと思われたくないしな。


……やっぱりこいつには恥じらいという感情がないのだろうな


「どう?」


「あぁ、正常だ」


アリアが来てから俺と俺の部屋にはいろんな変化が生まれた

毎朝、料理はアリアが作ってくれる。

アリアは要領がよく、味覚がない状態での料理にもすぐに慣れたようだ

俺の好きな料理も分かってきたらしい


普通においしい。


洗濯も掃除も、気づけばこいつがやっている。

頼んだ覚えはないが、止める理由もない。


おかげで忙しくて読めてずに溜まっていた本を読むことができるようになった

休養期間中はLHの監視が仕事扱いになるし、意外と悪くはない。


いや、正直結構いいな


週に一度、土曜日にある本社での検査以外は基本自由だ

夏の暑さも深まってきたが、家にいても暇なのでほとんど毎日外出する

このIBT本社がある街に引っ越してきてからは研究や仕事の毎日で休みの日は疲れてだらけてばかりだった。だから、この街にはいったことない場所がたくさんある。


平日、汗を垂らしながら通勤通学する人たちを横目に、遊びに行けるのはなかなか気持ちのいいものである


夏の熱気は、まだ街に居座っていた。


アスファルトの照り返し。

ビルの隙間にこもる熱。

風が吹いても、ぬるい。


「昨日より暑いね、サイン」


「今年は残暑が厳しいな」


コイツとはすでにいろんなところを回った



駅前の図書館。

素晴らしい施設だ。俺が本を読んでいる間、アリアは暇そうにしていた


地下街のカフェ。

「全部同じに見える」と言って、ほとんど飲まずに出た。


下町の古本屋。

埃の匂いを「変な感じ」と表現していた。


とにかく、この頃は暑すぎた。


屋外なんて論外だと思っていたが、

こいつは関係なさそうに歩き回る。


九月に入って、ようやく空気が少し軽くなった。


服屋では、勝手に派手な服を選んではカゴに入れてきた

公園では子どものボールをありえない距離まで投げ飛ばし、

少し遠出して行った海では、


「入らないの?」


と、平然と聞いてきた。


「入るか」


答えると、アリアは一人で波打ち際まで歩いていった。

水を蹴って、笑っていた。


その様子を、ただ見ていた。

……誰かが、ずっと隣にいる。


そんな生活は、久しぶりだった。


監視任務である以上離れられないというのもあるが、アリアが煩わしいと思ったことは一度もなかった



そして数日前。

「ねぇ、ここ行きたい」


アリアが端末をこちらに向ける。

表示されていたのは、郊外にある大型テーマパークの案内だった。


というわけで今日は某テーマパークに行く

……別に、日々家事をほとんどやってもらってるお礼だ



・・・・・・


人の波と、明るい音楽。


広場の中央には大きなモニュメント。

ゆっくり回るオブジェに、光が反射している。


母にかなり前に一度連れてきてもらったことがある。

今思えば相当無理をして連れてきてくれたのだろう


子どもたちの笑い声。

ポップコーンの甘い匂い。

風に揺れるカラフルな旗。


アリアは、完全に浮かれていた。


「なにこれ!すご!」

地図を片手に、あちこち見回している。


「全部回ろうよ、サイン!」


「無理だ、時間が足りん」


「じゃ、急ご!」

もう次の方向に歩き出している。

サインは、少し遅れてついていく。


・・・・・・

アリアは落ち着きなく周りを見ている。


前の子どもが風船を持っている。

じっと見ている。


「欲しいのか」


「別に」

即答。

でも目線は追っている。



・・・・・・


高いところに上った後に垂直に急降下するアトラクションに乗った後

「やばかったこれ!!」


無邪気に笑っている。


「もう一回!」


「……無理だ」


「なんで!」


「頼む、勘弁してくれ……こんなのだとは、知らなかった」


・・・・・・


昼過ぎ、暑い日差しがなくなっていき、時間の流れが少し寂しく感じられた。


人が増えてくる

音楽、足音、ざわめき

アリアが先を歩く

「おい、離れるな」

「大丈夫でしょ」

振り向かずに言う


その瞬間


人の流れがぶつかる


アリアの体が少しよろける


サイン、反射的に腕を掴む

一瞬、止まる


「……あ」


そのまま


……


少しだけ間



サインはつかんだ手を放そうとする

「待って!」


「……このままのほうがいいかも」


「……は?」



そのまま、手を離さない

自然に


指が絡むわけでもなく


ただ、掴む形

でも離れない

「……」


何も言わない


「……そろそろ離してもいいか?」

どうしても周りの目を考えてしまう

アリアがもう片方の手で持つ風船のひもをぎゅっと握る


「…………嫌だ」


驚いた。

彼女の口から否定の言葉を聞くのは初めてだった。

少し考える


「なんで?」


「なんか、安心するの」

そのまま歩く

人混みの中

少しだけ、世界が静かになる


「あ、あれ乗る!」

手を引く

「引っ張るな」

でも離さない

影が伸びる

「今日さ」

「なんだ」

「めちゃくちゃいい日じゃない?」


「……あぁ」

「でしょ!」

握られる力がぎゅっと強くなった



・・・・・・


角を曲がり、ゴミ捨て場の前を通り、マンションの階段を上る


……結局家に着くまで手はつないだままだった

「そろそろ離してくれ」


「……嫌だった?」


「カギを取りたいんだ」


……


ガチャ!


靴を脱ぐと

アリアが倒れこむように床の上に横になった

「疲れたー眠いー」

アリアの目は半分閉じている


「おい、待て」


「風呂だけは入れ」


アリアは服を脱ぎながらだるそうに風呂場に向かう。


荷物がたくさんだ

まぁ、荷物は明日でいいか……


いや、食べ物だけはしまっておこう……

冷蔵庫を開く

卵、牛乳、肉、いろんな調味料……


置ける場所がない

無心で整理を始める


……


疲れ切ってソファに腰掛ける

うつらうつらと眠りに入りかける


「出たよ、サイン」

アリアがかわいいクマのパジャマを着て出てくる


・・・・・・


アリアが俺の布団に潜り込んでくる

暑いからどけと言っても


「ダメ、どかない」

の1点張りだ


どうやらコイツは我儘を覚えたらしい

明日はどんなことが起こるだろうか、


そこには明日が楽しみに思えている自分がいた



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