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権力と猫  作者: 央美音


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微笑みの聖女

 聖女が何故目の前にいるのだ。猫情報の為に夢で会う予定をドラゴンと勝手に立てたが、まさかそれが原因で直接俺の国に来るほど怒らせたのか。目の前の聖女は微笑んでいるが、あれは怒りを抑えている、俺には分かるぞ。夢で会った聖女とは別人だと言えるほど雰囲気が違う。


「こんにちは、こちらでは初めましてね。貴方にお願いがあって、夢ではなく直接来ました。別に、貴方がドラちゃんと勝手に予定を立てたことに怒っているのではないのよ。私が自分の仕事を優先したことで、ドラちゃんと貴方を困らせただけだもの」


 聖女の仕事。ではドラゴンに、今いいところだからと断っていたのは仕事の最中だったのか。それは失礼した、アレの語録を時々笑いながら作っているし、覗きすぎだと神に怒られるかもしれないと聞いていたので、てっきりドラゴンがクロマルを覗き見しているのと同じようにアレを覗き見しているのかと勘違いをしていた。いや、ドラゴンは怖いとも言っていたな、確かにこの聖女を見続けるのは怖い。


「観察はしていたわよ。ドラちゃんにはやり過ぎだと心配されていたようね。私は人間を慈しみ癒しを与え時に行き過ぎた人間を排除する為の存在だもの。人間の頂点は私、神から人間の管理を任されている、私。時折いるのよ、最初期につくられた人間の特徴が現れた者にね。自分は大陸を、世界を手に入れる力を持った人間だと、全てのものは自分の支配下にあるべきだと考える人間がね。先祖から受け継いだかけらで自分は万能だと思っちゃう人間。向こうの聖女は、ここまでの考えではないのよ。ただね、ドラちゃんのことを火を吹く大きなトカゲだの、人間から奪った莫大な財宝を寝床にして悦に浸っているだの、若い女性を生贄に要求して食べているだの、果てはドラちゃんを討伐して世界に平和をもたらすのが聖女の役目なのよなんて、本当に面白かったわ。私達、神の遣いのことを何故か得意げに話していたけど、話が長くなるわね。あ、新たな生物の猫は元気にしているのね。随分と大きくなって。クロマル、可愛らしい名前ね。ふふふ、ドラちゃんに、猫に直接会ったと自慢しましょう」


 聖女よ、頼む。クロマルもだがここにいる皆が怯えておる。それを向ける相手はここにはいない筈、どうか怒りを収めてくれないか。

 ほら、このクロマルを見てくれこんなに毛を膨らませておる。こんなに怯えていてはクロマルの健康によろしくないのだ。


「あら、猫を怯えさせたなんてドラちゃんに知られたら怒られちゃう。人間はいつも平伏だから、怯えているのに気づかなかったわ。教えてくれてありがとうね。貴方はこちらでも同じでよかった、こうやって返事があるっていいわね」


 夢の中でだが、初対面のドラゴンの威圧のおかげだな。あれに感謝する日がくるとは思わなかった。あれがなければ今ごろ俺も同じようになっていただろう。

 それで聖女よ。俺に頼みごとがあると言ったが、なんだろうか。やはりアレに関することだろうか。


「それ。私は行き過ぎた人間を排除するとは言ったけど、直接の排除は出来ないの。どうしても慈しみの部分が邪魔をしちゃうから、排除は最適な人間に任せているのよ」


 それが俺だと。聖女に選ばれたことは大変名誉なのだが、平民とはいえ他国の人間の殺害を国王がするわけにはいかない。聖女から託されたという大義名分があったとしても周辺諸国との軋轢が生まれてしまう。何より俺は生命を狙われている系国王だから、これを機に戦を仕掛けてくる国も出てくるだろう。


「もう、違うわよー。最適な人間だって言ったでしょ。向こうの聖女はこの国の女王になりたいの、なら誘い込めるでしょう? 侵略者を放置する国王なんていないでしょう? 入国即入獄だったかしら」


 ああ、なるほど。この国を餌にすれば、簡単に排除出来るのか。あっさりと餌に食いつかれるのも、それはそれで複雑だがな。アレを放置して国を明け渡す馬鹿はビヴァーライセ国だけで十分だろう。

 聖女、一つ聞きたいのだが何故アレはバーバラ国の女王になろうとしているのだ。強国ではあるが、教会本部があり他国からの信頼が厚いリリーメイア聖国や、軍事力で他国を圧倒するアニータ帝国のような国ではないのにな。

 あと、覗き見は教皇といる時くらいだと聞いていたのに、聖女とドラゴンは覗きすぎではないか。


「あら、猫の覗き見はきちんと許可を得たと聞いたわよ。あと、何故ここの女王になりたいかと言うと…………」


 聖女、如何したか。何故いきなり俯いて震えているのだ。

 あと、俺は許可していないがもしやクロマルが許可したということか。

 それならば仕方がないか、初めからクロマルを覗いている側に、俺がいるだけの話だ。くっ、ドラゴンは夢でクロマルと話が出来るのだな。羨ましい!


「ぐっふっ、ひ、ひっ、ひーぃひひはぁ、ふふふひひはぁ、ぷひゅっ、ひひひひひはーー、ふぁーーーあひゃぁひぃぅ、ひーいぅぁひひ、ふぁはぁーーひひ、ひひはひひひふぅぃぁぐっ、ふっ、ぁひはひひは、ひふふうぃー、ぶはははひひ、いいいいぅぷぃぁひはふ、はははははふふははは、ひひひぃー」


 聖女が狂った!!


「はぁーはぁーーちょっちょっと待ってね。ひひっ、もう、思い出し笑いしちゃったわ。恥ずかしいから、こんな笑い方をしたことは、内緒にしておいてね。あと、理由、っだけどちょっ、無理。本人から聞いて、私、言えない」


 聖女がこんなに笑うほどの理由か。これは本気でしょうもないことで間違いなさそうだな。

 ん、どうしたクロマルや。聖女の笑い声が気になったのか、あんなに怯えていたのにもう聖女に近付けるほど興味が沸いたのか。なんと逞しい猫に成長したのだ!


「あら、クロマルだったわよね。はじめまして、いつもドラちゃんとあなたを見守っているのよ。こんな事情で実物を見ちゃったのは複雑だけど、ドラちゃんに自慢出来るから触った後で帰ってもいいかしら?」


 それならばクロマルの遊びに付き合ってもらえないだろうか。あと、妻と息子達とその家族に挨拶の機会を与えてくれると嬉しいのだがどうだろうか。


「あら、いいわよ。では移動しましょうか。ここだと面倒が増えそうだし、向こうの聖女のことで、もう少し話もしておきたいわ」


 そういえば、聖女よ。アレは本当に向こうで聖女だったのか。どうしてもやっていることが聖女の行動だと思えなくてな。


「確かに聖女ではあったわよ。私とは存在が違うからそう思うだけよ。貴方も見れば分かるわ」


 存在が違うのか、見れば分かるとは一体どういうことやら。さて向こうでは聖女だったのだろうが、今は違うということをたっぷりと教えてやらんとな。地獄でアレを待つ者達も沢山いるだろう。


「あ、入国即入獄とは言ったけど、ちょっと地獄は無理ね。前世持ちって色々あるから」


 なるほど、罪深い前世持ちには地獄よりも辛い場所があるのか。

 さて、クロマルや。こちらにおいで、皆と遊ぼう。その後、お前には特製の干し肉をあげような。

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