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権力と猫  作者: 央美音


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18/25

年月を想う

 ドラゴンからの猫情報は結局、今必要なものだけを教えてもらうことで何とか解決した。今後は聖女を介して猫情報を仕入れることになった。なるべく早く、今いいところが終わるといいのだが。

 薬になる草木採集はサムディに任せて、俺は執務室で宰相と顔を突き合わせている。宰相は酷く疲れた顔をしているが俺も同じような顔をしているに違いない。


「ビヴァーライセ国、鎖国を各国に宣言しました。あちら側の門はすでに閉鎖されております。我が国への鎖国後の影響は多少出ますが、今のところ許容範囲内で収まる計算だそうです」


 鎖国な、何を考えているのやら。ビヴァーライセ国は流通で成り立っている国だったのではなかったか。民もだいぶ他国に流れているとはいえ、鎖国して困るのは自分達の国であろう。ビヴァーライセ国を経由地としている国には迷惑だろうが、別に他の国に変更しても問題はあまり起こりそうにないのがなんともいえない。

 それよりも、あの襲撃の真相がしょうもなくて泣けてくる。なんだ、俺の国側の協力者達。全員爵位も持たぬ若者ばかりで、本気で俺が恐怖で震え上がり退位の準備を進める筈の襲撃だったとかいう頭の心配をしたくなる計画を実行するとは、あんなもので退位すると思われるのは全くもって心外だ。


「ビヴァーライセ国側も、どうやらあの襲撃者の人数で成功すると本気で思っていたようだと報告が来ております。襲撃者もサムディ殿狙いが複数いたそうですが、今回は出てこないことを知るとあっさり離脱したそうです。残ったのはあの指揮者の指示といい勝負をする者達だったようで、この報告を聞いた時、質が落ちたと思った私は悪くないですよね」


 宰相お前は悪くない、俺が保証する。

 今回捕縛したのが下が十六、上が二十三の六人か。最年長は捨て駒指揮者の三十か、酷いな。全員成人済みの癖に、子供の喧嘩にも劣る計略。

 国が平和になった証拠だと言いたくなるが、ただの頭が可哀想な集団なだけじゃないか。襲撃の理由も俺の退位など生温い理由だし、本気の殺意なんぞ向けてこないな。真面目に考えて、ただの嫌がらせだと結論付けた俺は恥ずかしい。


「調べによりますと、捨て駒指揮者以外全員がビヴァーライセに留学又は長期滞在しており、きっかけは違いますが全員アレと接触していたようです。アレから陛下を退位させるように唆されたとの訴えもあるようですが、襲撃を考えた時点で自身の人生が終わったことを理解しておりません」


 宰相もアレ派か、アレを聖女と呼びたくはないよな。必ず報いを受けさせようとした途端の鎖国は、堂々と制裁しようと膨れ上がった俺の決意を萎ませてしまった。

 ビヴァーライセ国のアレは俺に何か恨みでもあるのか、しきりに俺を退位させようと動いているようだ。しかし、俺は他人からの指示を許諾するような国王ではないぞ。


「頭の痛い話ですが、陛下の退位後はアレ自らこの国の女王になるそうです。失敗しておりますが、それに協力した者がこの国にいるという事実が恐ろしいです」


 アレの身分は確か前世持ちの平民だったよな。教会の力のようなものが使えるとは聞いているが、他国の平民がこの国の女王になれると本気で思っているのか、頭が可哀想な集団は。え、本気で言っているのか。バーバラ国、強国だぞ。王族も貴族もくせ者揃いで生命狙われてる系国王がいる国だぞ。俺が素直に退位したとして、他の者達がアレに従う道理がなかろうに、アレがここに来るのなら入国即入獄だぞ。牢獄ではなく地獄の獄だ。

 この国で育った考えなしの集団か、平民の子供の方がまだ賢いのではないか。


「陛下、一応あの者達の親を調べましたが、関わりがあった者はいませんでした。今回捕縛した者達があの襲撃の協力者だと知ると、全員が爵位の返上と同時に家族を連れて国外に出奔しております。行方は追わせていますがどうなさいますか」


 そのまま、どの国に定住するのかを見極めるだけでいい。親世代はまともだったようだな、決断が早い。不要な者は置いていくのは基本だ。残った者達をどうするか、一応会議を開くか。処すにしても貴族達の意見を聞くのは大事だしな。


「返上された爵位はどうなされますか。醜聞にまみれた爵位を受け取る者がいるかどうか」


 それも会議だな、全員が領地を任せていた家でなくて助かった。余計な争いが起きるところだった。


「役職持ちはおりましたので、そこも調整いたしましょうか」


 そうだな、それにしても俺達も年を取ったな。この国に、俺を知らずに俺を狙う者が出てくるとは何とも面白いものだ。あんなお粗末な襲撃をされるほど俺が弱く見えたのか、俺の権力も衰えが見えたようだな。まるで小さい頃に戻ったようだ。


「ご冗談を、陛下が弱く見える者は陛下を見ておらぬ者だけでしょう。陛下の権力もいずれは衰えをみせますが、それは王太子殿下の権力が盛り上がりを見せるだけのこと」


 宰相、最後のは流石にもう口にするなよ。嫌味な奴はどこにでもいるからな。

 クロマルや、クロマル。いい加減に宰相から離れぬか、俺の膝においで、櫛を使わせておくれ。


「今は私の衣装に夢中なご様子。クロマル様は何ともお可愛らしい方ですな」


 宰相め、初めの頃はあんなに慌てふためいていたのに、なんだその余裕の表情は、いっそ衣装を変更してやろうか。


「おやめ下さい。この衣装は建国当初からの様式なのです。クロマル様が夢中になるのが嫌だから変更とは勝手がすぎますぞ」


 冗談だ。見てみろ、宰相が動いたせいでクロマルの動きが止まってしまった。しばらくは大人しくした方が良いぞ。


「元はと言えば陛下が、いえ、それにしてもあの襲撃がアレのせいで行われたのならば、鎖国は面倒が多くなりますね」


 もしや、鎖国もアレの指示なのか。


「そこまでの調べはまだですが、今までの動きからするとおそらくは」


 アレは何がしたいのやら、前世持ちの御法度破りに俺の襲撃、教会から国ごと破門されての今回の鎖国。これらの動機も、しょうもないものだったら聖女のように俺も笑っておこう。


「陛下、櫛でクロマル様を誘うのはおやめください。一度それで痛い目を見たことをお忘れですか」


 う、あれは確かにクロマルの跳躍力を見誤っていた俺が悪いが、今クロマルを誘えるものはこれだけしかなくてな。


「それならばこれをお使い下さい。どうもクロマル様は揺れる布がお好きな様子なので、この紐ならば陛下のお顔にクロマル様がしがみつきませんし、陛下も余裕を持ってクロマル様を誘えましょう」


 良いのか宰相、この紐は衣装の一部だろう。様式を大事にしているのではないのか。


「それは予備です。初めから陛下にお渡ししようと用意した物です」


 感謝するぞ宰相。

 よし、クロマルや、クロマル。これを見てみろ、ほれほれ、こちらへおいで。

 おお、本当に来たぞ。ほら、ここまで跳べるか。おっ、見たか宰相、この見事な跳躍を!

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