「 」
「やあ、新たな生物は猫が生まれたそうだね。おめでとう。私もとても嬉しいよ。猫かわいい。こんなコが私の世界に来てくれるなんて、感激だな。君は、時々向こうの君を過去の君のように思っていたので心配していたけど、もう大丈夫そうだね。向こうは向こう、君は君。世界に猫の情報を書き加えるまでは君も長生きしてて。読み込みが終わるのは十年くらいかな。世界から猫が生まれるのはもっと先になるけど、きっとこの世界は新しい種族である猫を受け入れるよ。今までもそうだったからね。卵は無事に孵り、猫が生まれたのだし、ドラゴンも少しは落ち着くといいんだけどね。あの子、普段は穏やかだけど卵のことになると愚痴が酷くてね。他の世界から、生物の情報を引きだす力を持たせているのはドラゴンだけだから、負担をかけているのはわかる、だから付き合うんだけど結構話が長い。向こうの魂の協力なんているのかって毎回言うんだよ。向こうの魂が望むコを呼んで向こうのコが応えるのを条件にしているから無理ってこれも毎回言ってるんだ、笑えるでしょ。時には悲しいこともあるけど割り切るしかないよね。あ、あと猫を見るために、時々ドラゴン達が君たちを覗いちゃうのは許してやって。久々の新たな生物に皆が注目している。君達は覗かれていても分からないだろうけど一応言っておこうって思ってね。聖女に、卵の預け先が君だって聞いて、私は少し君を見てみようと覗いたら驚いたよ。まだ、人間の中に最初の情報を引き出す子がいるとは思わなかったよ。不思議だよね、ほんの一滴にもならないような情報が表に出てくる。本当に面白い」
「あたしの失態で、君には迷惑をかけちまってるようだね。初めの時は他の世界の生物を観察させてもらってね、試行錯誤でつくったもんだよ。あたしはね、生物の身体はちゃあんと動けていりゃあ良いと、根拠も理解しねえで好き勝手につくってたもんで、生物の色がおかしいと指摘されて驚いたっ。まさか眼の構造上の理由で瞳孔は黒いもんだってしらねえからよ。どんな色でも良いもんだって、あたしの目の色にしたんだよ。目の色ってのは沢山あるもんだからって瞳孔も好きにして良いと思ってたんだよ。だって、ちゃあんと動いてたもんだから大丈夫だって、あたしは安心してたもんだよ。指摘されてさ、慌てて今までつくった生物の身体の構造を一から教えて貰ったよ。情報を修正してこのまま使っても問題はないと判断してさ、それで世界の生物達に色々変わるよって伝えたさ、次に生まれる子達は自信を持って問題ないと言えると思っていたのさ」
「情報は修正したが、旧い情報は絶対に消せない。何故って、情報を受け継がせながら生物は進化する。自分の失態で、世界の生物を破棄して新しい情報からやり直すなんて、俺には無理だった。別に旧い情報が、身体に現れるのは悪くない。今も受け継いでいるとわかるからな。身体に異常はないはずだ、あれば初めからつくらない。俺は、こいつは上手く出来たという思いでつくっていたからな。だが、生物は自分とは違うものに敏感だ。排斥、排除、忌避、破棄、人間は敬いの対象にもした。それを利用しようと考えた人間が出てきた。この頃から、大陸中に国が出来た。お前の国もだが、ほぼ全ての国が旧いの情報を現した人間を、神の愛し子として初代国王にした。この世界の全てが俺の愛し子なんだがな。この時の聖女は、己だけが力を所持していても助ける人間の数が少ないと悩んでいた。俺が許して、聖女は力を正しく扱える人間達に分けた。力を分けた人間達からまた力を正しく扱える人間が生まれ、助ける人間は増えた。聖女は優しい子だろ。聖女の力を扱う人間達は教会を建て始めた。今は聖女の子孫と言われる人間達は、人間に心の安寧をあげたいと考えた。不健康だと心の安寧は持てないと力を使ってひたすら人間を治した。そうだ、面白い話を教えよう。今の人間は聖女の子孫と言うが、実際には聖女の思想と言う。何故そうなったかまでは教えない」
「問題が起きたのはここからだよ。僕はつくるのが上手く出来ないってやっと気づいたんだ。皆の分かってましたよって顔は解せなかったね。小さいものは何とかつくれてはいた。だけど凄く精密なものは駄目だったんだ。困って悩んでいたら、じゃあこちらの魂をそっちに渡そうって、あの方達はとっても親切なんだ。魂を僕の世界に渡して、その魂が望むコを呼んで、ドラゴンの力で新たな生物を呼んで、新しい種族を世界に広めたらいいって、魂も使った後は返してねって魂を呼び水のようにすればきっと僕の世界も豊かになるよって。でも、良いものと悪いものの区別は付けられないとは言われたよ。良いものが悪いものに、悪いものが良いものになるからって、君は分かるかな。僕はよく分からなくて、こういうところが、つくるのに向いてないのかな。向こうの魂が来るからこの世界も賑やかになるよって、みんなに教えたのに、何故か人間からは返事がなかったよ。まあ、いいかってしてたら、聖女が教会に文句言ってる人間が来ているって言われてびっくりしたよ。この時の教皇って子が人間を落ち着かせてくれたんだ、僕はとても安心したよ。それにしても、聖女から君との会話が楽しかったって聞いてたのに、僕を見た瞬間に見事な平伏をしたよね。今も微動だにしない姿はすごいよ、褒めてあげる。だから、発言を許すよ」
偉大なる神から直接御言葉を賜るありがたき幸せを頂戴いたしました事、生涯忘れずと誓いまする。御許し頂けるのならば一つだけお尋ねいたしたき事がございまする。
「なんだい、一つだけなら許すよ」
有り難うございまする。偉大なる神から賜る御言葉に一人称と口調の変化は何ゆえの事でございましょうか。
「どう思った、人間はどの言葉が耳に残りやすい。最近の人間はいつも私の言葉を忘れる。それどころか聞こえない人間までいる。お前も忘れる、気軽に選べ」
悲しき事実をこの耳に入れて私の誓いは偉大なる神の御言葉通りと仰るのであれば果たされぬ誓いでございまする。私の口からお出しする言葉で偉大なる神の御耳汚しを許されておりますならば今の御言葉が私の心揺さぶり忘れる事無きと心に刻みたく思える御言葉でございますれば。
「本音は」
やはりあたしが一番印象的でしたね。他の口調と比べても、発音が耳に残りましたから、不思議な節でもっと聞いていたいと思いました。
「正直でいいね。発言を許した途端ここまで話せるのは、今の時代だと君だけさ。良く持つね。瞳孔以外にも先祖返りしてそうだね」
おそらくは、そうだと言えます。私はこのような様ですから、生きているのが不思議だと言われたこともありました。
「君のことを調べたいけどやめておこう。そろそろ起きる時間だよ」
偉大なる神の御尊顔を拝謁いたしました事誠に有り難き誉でございました。
「そうかい、それは良い事だ」
いつもより清々しい朝の日差しが差し込む部屋で、俺はとてつもなく良い夢を見た。内容は忘れたがこれは絶対に吉兆があるな。




