スタッカートの呼吸
「姫が、いない?」
「はい、今、手分けをして探しております。王妃殿下のお茶会でしたので、お供いたしませんでした。申し訳ありません。」
冷静な謝罪を述べるレティシアに、アルフォンソは苛立ちを覚えていた。
宮廷の中にいたとしても、リコリスを一人にすべきではない。リコリスは元次期女王、王位継承権を譲ったことは、いまだ公にされていない。
誰に狙われたっておかしくない。
なぜ、目を離した。アルフォンソは口まで出かかった言葉を止めた。
レティシアを責めたところでどうしようもないことはよくわかっている。
「どこまで消息が分かっている?」
「昨日、王妃様からのお茶会のお誘いを受け、今日、午後に華宮に向われました。王妃様は、そのあと、陛下に謁見にいかれてお茶会はお開きに。王妃様の侍女がリコリス様の帰り支度をお手伝いいたしました。お一人で、自室に戻られる姿を見送っています。その後、お部屋には戻られておりません。」
「謁見に、招いた人間を置いていくというのはおかしくないか。」
「随分、王妃様は急いでいらっしゃったようです。」
「消息を絶って、どれほどになる。」
「小一時間ほどです。」
団長席ではくるくると椅子を回しながら、鼻歌を歌っている上司がいる。アルフォンソは忌々し気にその男を見やって、立ち上がった。
「お聞きになっていたことと思いますが、私は妻を探してまいります。少しの間、仕事を離れるご許可をいただきたい。ついでにたまっているその山を何とかしておいてください。」
「アルフォンソ、いらいらしてどうした。」
お前、今、聞いてただろ?アルフォンソのイライラが最高潮である。
「俺も探しに行こうか?昔から、お姫のこと探すの得意なんだよ。だいたい行きそうなところ、見当つくけど?」
「結構です。団長は、たまった仕事をしてください。」
行きそうなところは見当がつく、という言葉は存外、嘘ではないが、テオドールの知っているところは、アルフォンソも大概知っている。テオドールにリコリスの居場所を教えていたのはほかでもないアルフォンソなのだから。
「冷静になれよ、アルフォンソ。」
おまえ、いま、滅茶苦茶、冷静さを欠いてるみたいだよ。
テオドールの鼻歌交じりの言葉はアルフォンソを苛立たせたが、確かにそうだ。アルフォンソは、今、内心でひどく冷静さに欠いている。どうしようもなく。
「わかっております。」
そう答えたのに、思考は上滑りした。
リコリスを手放したくない。アルフォンソの想いは日増しに強くなり、リコリスとの結婚を急ごうと、あちこちに手をまわしていた。
失いたくない。たとえ、帝国を敵に回したとしても。
その時間を取るために、リコリスとの時間を削る結果になってしまった。
もっと、リコリスとの時間を持てばよかったと思っても、もう遅い。リコリスが消えても、すぐに見つけ出してやることもできない自分に腹が立つ。
リコリスが良く一人で居たテティスの庭も、気に入っていた東屋も見た。昔、よく泣いていた図書館の薄暗い書架の間も。なのに、リコリスはいない。
「まさか、」
額に汗がにじむ中、アルフォンソは最後に思いついた場所に向かった。その景色の中に、溶けて消えてしまいそうな、姿に手を伸ばした。




