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第004話 出発

村の広場では、アスースとエルウッドを村人が囲み、皆思い思いに別れの挨拶を交わしている。


「アスース、これを持っていきな。」

そういっていくつもの革製バッグを渡すナターシャ。母親の居ないアスースやエルウッドのみならず、女の少ないこの村では皆の母親代わりのような存在である老婆。手先が器用で、村人が狩った獲物は彼女が革を加工し、村では外貨を稼ぐ数少ない手段となっている。彼女の作る物はとても使いやすく、今日出発する二人も彼女に作ってもらったバッグを愛用している。


「ナタ婆、気持ちは嬉しいけどこんなにバッグ使わないぜ?」

「別に使わんでええ。街かどこかで売って、金にすりゃええて。」

「そりゃありがたいが、良いのか?」

「どうせ王都に着くまでギリギリの金しかもっておらんだろうしね。村からの餞別もそんなに渡せたわけじゃない。売ったお金でエルと美味いもんでも食えばええて。まぁ、餞別が少ないのはアーキビストを雇ったからだけどね。うひゃひゃ。」

「ナタ婆・・・」


正直アーキビストを近況報告用に雇うのはどうかと思うが、それでも厚意はありがたい。アスースは素直に受け取った。


エルウッドもそれに気付き、お礼を言う。

「ナターシャさん、ありがとう。」

「ええて。それよりもアスースが無駄遣いしないようにエルがしっかり注意しとくんだよ。」

「あはは、わかってます。」

「おい、俺は子供かっての。そんな無駄遣いしねぇよ!」


村の皆は別れが寂しくないわけではないが、そんなに湿っぽくもなっていない。別に今生の別れとなるわけでもなし、ましてやこれからはあのソフィというアーキビストの書く二人の物語を読めば元気かどうか分かる。順風満帆な未来を祈願して、笑顔で送り出そうと決めている。


「さぁ皆の者、そろそろ別れの挨拶は済んだか? 馬車も待たせてある。そろそろ二人には出発してもらうぞ。」

パンっと手を叩き、ラシェードが皆に呼び掛ける。


「父さん! 馬車まで用意してくれてるの?」

「マジかよ、おっちゃんにしては気が利いてるな!」

「二人とも馬車に乗ったことなかったじゃろ? ワシからの餞別じゃ。」


小さな村とはいえ、いや、小さな村だからこそ生活に必要な物は全て村にある。補充の必要な物に関しては行商人に売ってもらうので買い出しに行く必要は無く、アスースとエルウッドも馬に乗ることはあっても馬車には乗ったことが無かった。


「さぁ、二人とも荷物を馬車に積み込むのじゃ。そしてソフィさん。これからよろしくお願いします。」

ラシェードが、少し離れたところで別れの挨拶を見ていたソフィに頭を下げる。


「承知しました。」

丁寧に頭を下げてはいるが、明らかに表情は沈んでいる。厳しい試験を突破し、栄えあるアーキビストになったのにその仕事が田舎者の上京嫁探しの同行。気分が沈むのも仕方がないだろう。


「ソフィさんはまだお若いようじゃが、今回がアーキビストとしての初仕事ですかの?」

「はい。」

「初仕事がこんなんじゃ、気分が乗らん様じゃの。」

「いえ・・・」

口では否定しつつも、態度を隠し切れないソフィ。


「わっはっは。分かりやすい人じゃの。じゃがまあ心配しなさんな。王都に着けば多少は面白くなるじゃろうて。」

「それはどういうことでしょう?」

「そうじゃな、どこまでなら話しても良いかのう・・・」

顎に手をやり考え込むラシェード。しかし、ラシェードが答えるより先に馬車に乗り込んだアスースがソフィを呼んだ。


「お~い! こっちはもう出れるぞ~!」

 

「おっと、時間切れのようじゃな。ソフィさん、どうせ王都に着けば直ぐ分ることじゃ。謎はその時までのお楽しみということで。」

「・・ふふ。」

明らかに慣れていない不器用なウィンクで微笑むラシェードを見て、つられて笑ってしまったソフィ。


「分かりました。それでは、行って参ります。」

不満が消えたわけではないが、笑顔になれた分多少気分が軽くなったようだ。最後に小さく頭を下げ、ソフィも馬車に乗り込んだ。


三人を乗せた馬車はゆっくりと走りだし、村の皆が手を振って見送る。アスースとエルウッドも馬車から手を振り返していた。


もうお互いの声は届かない所まで馬車が離れてから、ナターシャがラシェードに問いかける。


「さて、これからどうなるのかねぇ。」

「そうじゃな、とりあえずハーグマンには手紙を出しておるでの。後は適当にやってくれるじゃろ。」

「おやおや、懐かしい名前だねぇ。元気でやってるのかい?」

「ああ、今は騎士団の副団長になっとるそうじゃ。」

「そりゃ良かった。あの子も頑張ったんだねぇ。」

「そういうことじゃな。」

「あのアーキビストの書で王都の皆の近況も知れるかねぇ?」

「それは書が出てからのお楽しみじゃな。」

「うひゃひゃ、違いないね。」


二人はそう笑いあって小さくなっていく馬車を見送った。

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