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手はかなり大きく、スカジャン男がすっぽりと収まる。彼の左腕だけが、はみ出ている。
勢いよくぶつけられたわけではなく、スカジャン男が叩き潰された様子はない。だからか、左手が、もがくように、なんとかこの手から這い出ようとするかのように動く。
しかし、そんな動きをしていたのは、ほんの数秒のことで。慌てたように、這い出ようとしていた手が、バタバタと激しく動き出す。なんとか出ようとしていた、という雰囲気から、なりふり構っていられない、という逼迫したものへと変化したのだ。
音はない。
男自体、顔も何もかも、左腕以外は全ておおわれてしまっているし、そもそも、僕は室内にいて、窓を隔てて見ているだけ。
彼の行動によって発するはずの音は、僕の元まで届かない。
僕は、体が固まって、指一本動かすことも、目線を逸らすこともできなかった。
何が行われているのか、理解が追いつかない。
状況を把握できず、頭が真っ白になった以上、今、何をすべきなのかすら、分からなくなっていた。
僕が出て行って、あの男たちを追い払うべきか、とか。
母さんの偽物にバレないためには、黙っていた方がいいのか、とか。
男たちを、助けに行かないといけないのでは、とか。
考えていたことが、全部、吹き飛ぶ。
「う、あぁぁ――ッ!」
しりもちをついていたパーカー男が、叫びだした。じっと、抑えつけられたスカジャン男の方を見ていたが、這うようにして、この場から逃げ出そうとしている。
僕よりも、あの男の方が、現実を受け入れるのが早かった。
しかし、もう一本出てきた大きな手によって、すぐに抑えられてしまう。
後は、先に押さえつけられたスカジャン男と同じ。
バタバタと激しく動いていたスカジャン男の左手が、ビク、と一際大きく跳ねたかと思うと、時折、不自然にピクリと動く以外、大人しくなってしまった。
――明らかに、意識を持っている動きではない。
一瞬遅れて、手の下から、黒い何かが広がった。それが、血液だと気が付くのに、僕は時間を要した。
真っ黒い何かのように見えるのに、街灯に照らされた部分だけが、派手に赤い。
「しん……、え、え?」
どう見ても、無事には見えない。今、手の下から、道路に広がるあの黒いものが全て血液なら、スカジャン男は、死んでしまったのではないだろうか。
人間が、どのくらい血液を失ったら死ぬかなんて、知らない。仮に知っていても、パッと見て、今、どのくらいの量失われたのか、何リットル体外に出てしまったのか、分かるわけがない。
でも、そんな知識がなくとも、彼らは助からない、と察してしまう程度には、アスファルトに、黒と赤が広がっている。




