アンドロイド②
「こっちよ?」
振り返って声を掛ける。
地下から出てきたアンドロイドは窓の外で囀る小鳥を見つめたまま、一向にその場から動かないでいる。
「小鳥が気になるの?」
私の問いに、チラリとこちらを見つめコクンと頷く。
「あれはね、百舌鳥といって沢山の鳥の鳴き声を真似することが出来るそうよ」
「百舌鳥……」
少し考えるように黙って見つめていたアンドロイドは突然「チキチキ」と百舌鳥の鳴き声を真似し始めた。
「凄い……とても上手ね」
私が驚いて褒めると、アンドロイドは私をジッと見つめている。
「基本的なもの以外の言葉を……知らないのね?」
私はアンドロイドの手を掴みリビングへと向かった。
そしてソファに座らせて質問をしてみた。
「あなた、名前はあるの……? 私の名前は杏里」
「名前は奏多。そう父が呼んでいた」
「お父さんが?」
「杏里を守って欲しい」
突然、奏多の口から父の声が聞こえた。
驚いたと同時に、もう二度と聞くことは出来ないと思っていた父の優しい声に涙が溢れた。
「杏里?」
「ごめんね? 少し懐かしくて……」
涙を拭う私の手を優しく退かせた奏多が、私の目から溢れる涙に触れた。
奏多の前髪が窓から入る風に揺れて流れる。
その向こうにある茶色い瞳は、何とも言えない美しさを帯びていて視線を逸らすことが出来ない。
すると奏多は私の顔を覗き込み、唇と唇がグッと距離を縮める。
私は突然のことに奏多との距離を開けるように後ずさるが、追い詰めるように奏多が私の顎を掴み上げ唇が重なった。
その瞬間、頭の中に痺れるような電流が走り抜け、視界が段々ボンヤリと薄くなり、胸の辺りが温かくなった気がした。
心地いいのに怖いような……そんな不思議な感情が湧き上がる。
「や……奏多……!」
逃げるように奏多の傍から離れ、距離を取った私に奏多は質問をしてきた。
「杏里、薬は飲んだ?」
「え……?」
「薬だよ」
「え……えぇ、さっき飲んだよ…」
「そっか、それなら良いんだ」
穏やかに笑う奏多は、アンドロイドとは思えない程……いや、さっきまでとはまるで違うものかのように人間らしく感じた。
奏多は……アンドロイドなのよ?
人間じゃないのに……
「杏里?」
「な……何?」
「僕は君を守る為に作られたんだ」
「奏多……」
「これからは僕が父の代わりに傍に居る」
「うん……」
「ほら? おいで?」
奏多はそう言うと、まるで父のように両手を広げ、私はその手を取り奏多の腕に抱かれる。
冷たい肌の奏多の腕に抱かれ、私は遠く消えてしまった父を思い出す。
「杏里……君は僕の宝物」
耳元で聞こえる父とは違う甘い声に、また頭の奥が痺れる。
「宝物だよ……」
それは何だか魔法の言葉のように私の心を温かくさせた。




