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原始人女子の巣立ち―魔境育ちの原始人女子は、お伴の獣人たちと都会を目指す―  作者: 裏律
一章 世界的危険地帯たる、魔境を旅立ち、原始人女子が成すこととは
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5.岩ミミズと、彼女の正体

 砂煙が晴れていくことで、地面に倒れ伏す魔獣と、その前に立つマルマの姿が、薄っすらと確認できるようになり始めたとき、その場に「な、何とかなったか?」という、若い男の声が響く。

 男の言葉に、マルマは「うーん、どうかなぁ」と独り言のように告げる。

 マルマの、その返答に、少し離れたところで、魔獣と、それに対峙するマルマの様子をうかがっていた、六人とリンが、晴れかけているが、まだ視認しづらい倒れた魔獣のシルエットを注視する。

 次第に、砂煙が晴れていき、やがて倒れた魔獣のシルエットが鮮明となる。そこには魔獣が纏っていた、細長い形の岩が、脱ぎ捨てられたかのように、空洞を作り残っていた。

 マルマと魔獣の動向をうかがっていた、六人の内の、一人が「なっ! 魔獣はっ!?」と声を上げる。

 その瞬間、マルマの、大きく露出した褐色の肌に、薄っすらとした光の模様が走り、やがて全身を巡る。それと同時に、地面が少し揺れる。

 全身を巡る薄青色の光と、地面の揺れに、マルマは「む。ホント、イヤな、ミミズ」と呟く。すると、すぐに、下ろすように片手で握っていた棒を、体を小さく揺らすような重心運動にて、最低限の力で、反時計方向に、縦に回す。体の重心を、少し後ろに倒し、次に素早く前に体を、少し倒す。その力だけで、片手に持った棒を、半時計方向に回し、回転力の付いた棒を、両手で握り直す。そしてそのまま身を引くことで、更に勢いを乗せ、マルマは、地面目掛け、棒を叩きつける。

 するとそこに図ったかのように、岩を纏うことで形作られた頭が、勢いよく飛び出す。

 岩で形作られた頭と、〈腐月一片(クレセント)〉の蠢くオーラを纏う棒が、激突する。頭を形作る岩に、マルマが握る棒が、めり込んでいく。やがて棒が、岩の下の、粘度のあるピンク色の、魔獣の肌を、深く凹ませたくらいで、静止する。

 そのまま、しばらく互いに、睨み合うかのように静止すると、やがて魔獣は、ゆっくりと地中に潜っていく。

 魔獣が潜っていった穴の中を、マルマは、いまだに警戒心を解かない、しかめっ面で、見下ろすように覗きながら、しばらく周りを警戒する。



「なんとも、〈(オート)〉に最適化され尽くした、見事な動きだな」

 マルマと魔獣の動向をうかがっていた六人の内の、眼鏡をかけた細身の、ボウガンを持った男性が言う。


 アーツ――〈(オート)〉。

 それは脅威に対し、反応を強制するアーツ。〈(オート)〉発動時には、その体に薄い色の光が形作る模様が、全身に張り巡らされる。

 魔獣迎撃時に、マルマの、その体に走った、薄っすらとした光の模様は、〈(オート)〉発動時の合図だ。

 〈(オート)〉は発動中、このアーツ所有者には、脅威への対応行動を強制するが、その際、向かってくる攻撃の、すべてを反応可能とする。それは不意打ちであっても、たとえ目で追えないほどの速度であっても、反応可能となる。

 この世界の、戦闘における必須アーツの一つだ。


 男性の眼鏡は、魔獣が作った大穴を覗き込む、大人びた顔立ちの、肩口くらいの髪の、長身の女性、マルマに向く。

「そうなのジェイル? ジルダンさんは、どう思われます?」

 ボウガンを持つ男を、ジェイルと呼んだ女性は、マルマが魔獣に仕掛ける際、最初に押し退けた人物である。長すぎないくらいの振りやすそうなロングソードと、逆の手には小型盾のバックラーを持つ。その女性は、ジルダンと呼んだガタイの良い大盾を持った、濃い顔の中年男性を見る。

 ジルダンは、その強い眼力を、ロングソードとバックラーの女性に向ける。

「おう、そうだなぁ、リサちゃん。確かに、あの嬢ちゃんは、スゲーと思うがよ。俺ゃ、〈(オート)〉に関しちゃ、ちょっと齧ったくれぇで、ジェイルくんほど、精通してねぇんよ。俺のは、そりゃ、あれよ、小技みてぇなもんよ」

 そう言うと、ジルダンは、リサと呼んだ女性から、目を逸らし、マルマに向ける。その眼力のある、大きい目を、細め「それより」と呟く。ジルダンの、その目は、マルマの、大胆に露出する、細く見えるが、しっかりと引き締まり、滑らかな硬質さを醸し出す筋肉の付いた、体を見る。

「俺としちゃ、あの娘のナイスバディのが恐ろしいね。胸は小せぇが、いいケツしてんぜ。年頃の娘が、なんつぅ恰好してやがる」

 そう言うジルダンに、リサが、ジットリとした視線で睨む。

 そんなリサに、ジルダンは、肩をすくめ「冗談、冗談、ってわけでもねぇんだがな」と言うと、目を、先程とは違う、鋭利さを持って、細め、マルマに向ける。

「カイルくん、エルナちゃん、分かんだろ? 細く見えるが、その実、暴力的なまでに鍛え抜かれた、あの肉体。まるで猛獣だぜ」

 ジルダンは、今度は自分と同じくらいにガタイの良い若い男と、彼とは真逆の存在のような、小柄な女性を見る。

「俺も、力自慢の方ではありますが。そうですね。悔しいですが、彼女には、力負けしますね。だから、あの魔獣を、どうにもできなかったわけですが」

 ジルダンに、カイルと呼ばれた、柄が長めの斧を持った若い男が、そう答える。

「うん、すっごい筋肉。これは、もう垂涎もの」

 エルナと呼ばれた女性は、血走り気味の目を、ガン開きにして、マルマを眺める。

 ジルダンとカイルは、そんなエルナに、嫌そうな視線を向けると、すぐに逸らす。そして二人は、最後に、もう一人の黙っている男を見る。

 エルナに対して同じく嫌そうな顔を向けていたリサとジェイルは、二人と同じく、もう一人の男を見る。

 そしてカイルが「ディンさんは、どうです」と、その男に声をかける。

 五人に視線を向けられる、ディンと呼ばれた、短かめだが、分厚い剣を背負っている男は「あぁ」と呟く。

「パワー型の獣人と見まがうほどの、恐ろしい身体能力だ。彼女の褐色の肌で見えずらいが、あれは黒い鱗だな」

 ディンは目の上に、手をかざしようにして、マルマを見る。

 他の五人も、ディンと同じように、目の上に手をかざし、マルマを見る。

「あら、ホント。ちょっと生えてる。なんか、カワイイわね」

「うん、眼福眼福」

 エルナ以外の五人全員が、まるでエルナを遠ざけるような沈黙をする。

 だが少しして、ディンが、また口を開く。

「あの鱗から、彼女は、トカゲ型の半獣人であり、それ由来の身体能力なのだろうが、しかし……。ん?」

 そこまで言うと、ディンは、何かに気が付いたかのように、隣を見る。するとそこには、ディンの腰くらいの大きさの、外骨格を持った小人、リンが、六人と同じような姿勢で、マルマを見ていた。

 そんなディンに気が付き、他の五人も、リンを見下ろす。

 五人から見つめられるリンも、目の上にかざした、かぎ爪の付いた手を下ろし、六人を見上げる。

「「「「「「……。」」」」」」

「……。」

 六人とリンの間に、しばらく微妙な沈黙が流れる。

「わたし、半獣人? じゃないよ」

 そんな言葉が、六人とリンの間に流れる、その沈黙を破る。

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