ありえない
「……とっても素敵な装飾品ね?」
「そうでしょう? うちの鉱山で採れた宝石なの! 大きくて綺麗で、今貴族たちの中でも人気で品薄なのよ?」
そんな高価なものをもらえて嬉しいでしょう?
と、裏の声が聞こえた気がした。
リリィはなるべく表情を動かさないように努めて、エラがテーブルに広げた装飾品の一つを手にとる。
桃色の花を宝石で表したものだろうけれど、とてもリリィに似合うとは思えない。
こんなところまで己の趣味を押し付けてくるのかと思うと吐き気がしてきた。
少なくともリリアナには似合わない装飾の数々を見て、ふと名案が浮かんだ。
「そんな貴重なものをもらっていいのかしら……?」
「もちろん! 大切なお友だちだもの!」
大切なお友だちに偽物をあげるのかと呆れそうになりつつも、なるべく表情に出さないよう努めた。
「ありがとう。……うれしいわ」
「これとかリリィに似合うと思うの!」
「――そうね」
そうは思えないが、喜んでいるフリをした。
エラを騙すためとはいえ、この演技派なかなかに堪える。
早く飽きて帰ってくれないだろうかと引き攣った笑みを浮かべていると、装飾品を眺めていたエラがふと口を開いた。
「そういえばマルクが変なの」
「……変?」
手に持っていたブレスレットをテーブルに置きながら、エラがこくりと頷いた。
「あのパーティーから……。やっぱりリリィのせいかしら?」
「――」
それは、どういう意味だろうか?
怪訝そうな顔をしてみせたリリィに、エラは慌てて両手を振って否定してきた。
「あ、違うのよ!? リリィじゃなくてマルクの前妻のリリィのことなの」
どちらにしろ私のことだ、とリリィは心の中だけで思う。
だがちょうどいい。
エラの口から妻であるリリィの話を聞けるとは思わず、親身になって聞くフリをすることにした。
「前妻って……?」
「ひどい女の人だったの。マルクをずーっと騙してたんだから!」
目元に涙を浮かべながらもぷんぷんと怒り出すエラ。
本当に素晴らしい演技力だ。
「結婚してからもマルクに対して冷たくて……ひどい言葉を使ったりして。本当にマルクがかわいそうだったわ」
家の中のことを他人が知ることはほとんどないだろう。
とくにエラを贔屓していた使用人たちは、口を揃えて彼女の発言を肯定するはずだ。
――屈辱だった。
死してなお、名誉は穢されるのかと。
「それにね! お腹の子……浮気相手の子どもだったのよ!? 相手は庭師で……マルクがそれを知って問い詰めたら……自分から池に飛び込んでしまったの」
反応しないよう努めていたのに。
リリィは知らずのうちにひゅっと息を飲み込んでいた。
この女はなにを言っているのだ?
お腹の子はマルクとの間にできた子で間違いない。
浮気なんてしていない。
そんな相手なんていなかった。
リリィはずっと、あれだけ苦しくてつらいだけの時間を我慢していたのだから……。
「わたしたち必死に止めたのよ? 思い悩む必要はないわって……。でもリリィは話を聞いてくれなくて……」
「……それで?」
低い声が出てしまう。
けれどエラは自分の話に夢中なのか、それに気づくことはなかった。
「わたしたちの静止を振り切ってどこかへ消えてしまって……次の日湖に遺体が上がっていたの」
「……残念だったわね」
「マルクがすごく落ち込んでね? ……それを慰めていたらお互いが特別な存在になったの。それで結婚したんだけれど」
嘘つき。
最初からマルクとエラは関係を持っていたはずだ。
結婚するための偽りの物語を作ったのかと、リリィは冷めた目を向ける。
「リリィって名前を聞いて、マルクはすごく落ち込んでいるみたい。やっぱり助けられなかったこと、悔やんでるようなの」
殺したのはお前たちのはずなのに、なにを落ち込むことがあるのだ。
都合のいいように話を作るエラがとても恐ろしいものに見えてくる。
彼女はそれをまるで真実であるかのように語るのだ。
嘘偽りがないかのようなその振る舞いに眩暈がした。
「同じ名前で気分を悪くしたらごめんなさいね? でも本当にひどい人だったのよ? 伯爵家の財産も使い果たそうとしていたんだから」
それはエラの方だろう。
エラに甘いマルクやその両親のおかげで、彼女はいつだって新しいドレスに豪華な装飾品を身につけていた。
それに比べてリリィは実家から持ってきたドレスを着回していたというのに。
「それに……実はわたし、リリィにいじめられていたの」
「――」
「マルクがわたしに優しくしてくれるから……。わたし昔から体が弱くてね? それを心配するマルクが気に入らなかったみたい……。なんども叩かれたり、物をとられたりたり、階段から突き落とされたこともあるの」
エラは涙ながらに語りつつも、そっとその目元を拭う。
「でもそんなリリィのこと、わたし好きだったのよ。義姉さまって呼んでたの。……だから亡くなった時、本当につらかったわ……」
この女はなにを言っているのだろうか?
あまりのことに呆然とするリリィは、涙に濡れるエラに手をとられた。
「だからリリィがお友だちになってくれて本当に嬉しいの! 義姉さまが帰ってきたみたいで……!」
「…………」
意味がわからない。
エラの言葉に呆然としたリリィは、その後なにを言われても空返事を返すしかできなかった――。




