第八話 男の意志
ドンッ!
俺が打ち込んだ弾は男に向かって真っすぐに向かってゆく。このまま行けば心臓に当たるだろう。
だが、そうはいかなかった。
男が横に振った手の風圧が弾の軌道をずらした。「なっ!」俺はその風圧に押され、体勢を崩す。
男は俺が大勢を崩した隙を見逃さず、距離を一気に詰める。
時間で言えば一秒も掛かっていないだろう。
俺の目からすればいきなり目の前にへと現れた男に頭は激しい混乱をする、だがそんな混乱をしている余裕はない。
俺に向かって振り降ろされる拳は先ほど三階で戦った男と似た気配を感じ、反射的に足を振り上げ男の拳の軌道をずらす。
ズドォンン!
ぎりぎりのところでずらすことが出来た拳は床を破壊する。
一個下の三階にへと俺の体と男は落ち、一瞬身が空中にへと投げ出される。
俺は空中に浮いている一瞬に男にへと弾を撃ち込む、それでもその弾は男にへと当たらない。
男は俺が撃ち込んだ弾を避けるわけでも無く掴んだ。
「化け物かよ」
「魔法と言うものは面白いもだよ」
背中に激しい痛みを感じる、地面に落ちたのだろう。
俺はすぐに起き上がり、銃を未だ砂埃で姿を確認できない男に向ける。
砂埃が晴れると同時に飛んできたのは、床の瓦礫だった。俺はとっさに弾を一発撃ち込み瓦礫に亀裂を入れる。亀裂部分に足を蹴り込み、瓦礫を細かく砕く。だが瓦礫の勢いはさほど落ちておらず、俺にへと細かい破片がぶつかる。
胸、左腕、右腿、足首。破片があたたった部分の服が切れ、俺の皮膚も切ってゆき血が流れる。
ようやく砂煙の中から出てきた男はどこか余裕そうな雰囲気を感じさせる。
「余裕そうだな」
「事実、余裕だよ。私が君に対して苦戦する要素はない」
「じゃあ、余裕そうなお前に聞きたいんだがお前の使う魔法はなんだ?」
「私が使うのは意志の魔法。自分の意志の強さに変動し力を上げる、そんな魔法だよ」
「だから床を破壊したり、弾を掴めるのかよ」
納得だ、そんな身体能力になるのなら俺の攻撃に苦戦する要素はない。
弾の残数は残り六発。
これでコイツを殺しきれるか。いや、殺す。
コイツをこのまま放置してもいいが、世界を混乱に導かれるくらいなら俺が殺す。
「俺は、お前の意志を叩き壊す」
「私は、私の意志を貫き通す」
俺たちは同時に足を動かす。足を動かすと同時に弾を撃ちだし、その弾を払いのけようと手を動かしたその死角を使い、もう一発弾を撃ち込む。
ドンッ! ドンッ!
二発目の弾がようやく男に当たる。左腿から血が噴き、男は体勢を大きく崩す。
だが、男は片手を地面に着けながらも被弾していない左足を俺に向かって振り回す。とっさに銃を持っていない左手をガードに使うが、その足に俺の体は巻き込まれ壁の方まで吹き飛ばされる。
俺の左腕から尋常ではないほどの痛みが襲ってくる。折れているだろうか、ただの蹴り一発で腕が折れるなんてなんつぅ威力だ。
俺は右手でカートリッジ内に残る薬莢を出し、痛みでまともに動かない左手を無理やり動かし弾を四発装填する。
この四発でどうにかしないといけない。作戦があればいいが悲しいことに作戦なんてない。
俺はこの男に自分ができる限りのことをするだけだ。
ハッ! フリームの時といい、俺は何で命の危機が身近なのだろう。
左足を引きずりながら俺と向かい合う男と銃を構えて左腕をだらんと垂らす俺。
この戦いは次の一手で決まるだろう。そんな雰囲気が俺と男の間に流れる。
一秒、二秒、三秒、短く長いそんな沈黙。
その沈黙を二人同時に破り、俺は男の超近距離にへと入り込む。男は驚いた顔をしながらも俺の顔面を殴る。
いてぇ、右側から殴られてからか右目がまともに開かない。
だが好機! 俺は右手に持つ銃を男の腹部にへと突きつけ四発の弾丸すべてを撃ち込む、男は悟ったような顔をしながら弾をすべて受ける。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
壊れた四階と三階の狭間から月明りが俺たちのことを照らす。
全身傷だらけの俺と男を照らし、この戦いの終焉を知らせるように。
先に体が倒れたのは男の方だった、俺が撃ち込んだ腹部には大きな穴が開いておりこの銃の威力を改めて実感させられる。
男はまだ死んではおらず少しだけ口を開く。
「負けてしまったか……」
「あぁ、お前の負けだ」
「私は……この世界の異常性を……変えたかった。でも、それはどうやら……無理なようだ」
「なぁ、お前の名前はなんだ?」
「わたし……かい」
「あぁお前のだ」
「わたしは……かわさき………とき……。意志の魔法を使う……男だよ」
「ありがとう、覚えておくよ」
男……かわさきの方に顔を向けるとその目は閉じており、幸せそうな顔をしている。
俺は床にぶっ倒れる。
「はぁ、疲れた」
戦闘なんて久しくやっていなかった。それこそここ数年は大した任務をしていなかったのだから当たり前だ。
さてこれからフリームのもとへと戻らないといけないが体が石のように動かない。
どうしようかなと迷っていると、部屋の壁は轟音を立てて崩れた。
「おいおい! こんなところに世界魔法執行機関の人間が転がってるぜ」
どうやら敵のようだ。俺は体を無理やりにでも起こす。
そうしなければただただ殺されるだけだ。
「あ? まだ動けるのか。なんだよ転がっててくれれば楽なのに」
「……」
口を開こうとするがそんな気力すらわいてこない。体はもうすでに限界を迎えいる、この状態で立てているのでさえ異常なのだ。
「まぁ関係ねぇか。俺はお前を殺す」
コイツは俺に向かって突進してくる、かわさきよりも全然遅い。避けようと思えば避けれなくもなさそうだが、体はそう単純ではないようだ。
コイツの拳が俺に当たろうとした瞬間、動きが急激に止まる。
「がっ! あっあっ!」
苦しそうに身を悶えさせ床にへと倒れる。
「大丈夫だったかい?」
部屋の端の方から聞こえてるくる、聞き覚えのある声。
「お前、何でここにいるんだよ」
「困っていそうだったからね、助けに来てあげたんだよ。まぁ一番原因はその怜君が首にぶら下げている指輪の影響だけどね」
駄目だ意識がはっきりとしない。
せっかく起こした体は膝をつきフリームの方にへと倒れる。
フリームは俺の体を包むように受け入れ、そのまま床にへと寝かせる。
「とりあえず、今は寝な。後のことは私が何とかしておこう」
「ばれる……なよ」
「そんなへまはしないよ怜君」
俺は体のすべてをフリームにへと預け意識を落とした。




