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落ちこぼれの底辺テイマー、最強の魔獣使いに拾われる。気付けばこっちが飼い主でした。  作者: あなたのはレヴィオサー
第二章

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025.「やっと見つけたんだ」


 でも結果として、少女の部屋を突き止めておいたのは正解だったと思う。


「私のことはもう本当に気にしなくて大丈夫ですから、あなたは自分のことだけを考えてください。食事も、キッチンにあるものを自由に使っていただいて構いません。とにかく私の体調が戻るまでは、もうなるべくお互いに近づかないようにしましょう」


 昼間に部屋に送り届けたときは、そんなことを言っていたけれど。やっぱり気にするとかしないの問題じゃなくて、気になってしまうもので、夕方ごろ。


(行ったら怒られるかな……?)


 こっそり様子を見に行くことにする。


「ゴンさーん……?」


 通路のところから小さく声掛けするが、返事はない。


(寝てる、のか……?)


 ベッドに身を横たえている少女を見つけ、忍び足で近づく。軽く様子を見て、問題なさそうならそれで引き返すつもりでいたが。


 そっと寝顔を覗けば、まったくそんなことなさそうなのは一目瞭然。少女の頬は熱を帯び、呼吸もかなり荒れ気味だった。


「あ、う……?」


 そこで少女も目を覚ましてしまって。


「ごめん、ゴンさん……でもやっぱり、気になっちゃって」


 バツが悪くて視線を逸らす。わざわざ測るまでもなく、触れば分かるくらいの高熱になってそうだが。


「とりあえず熱測ろう」


 からのピピピ。改めて測定した体温計の数値を見やれば、顔をしかめるしかない。


「思いっきりぶり返したな……」


 少なくとも微熱といえる範囲にはなかった。


「あの……もう大丈夫です。本当に移ってしまいますから、戻ってください」

「でも、今のゴンさんじゃ魔獣たちの助けもロクに借りれないんだろ? 看病とか細かいことができそうなのは、たぶんリップルくらいだろうけど」

「……自分でなんとかします」

「無理だって、その体じゃ」


 こうなったら自分が付きっきりで看るしかないだろう。提案すると。


「でも……」


 少女はどうしていいかわからなそうに瞳を惑わせて。きっと風邪が移る以上に、自分の体質のことを気にしているのだろう。でもその点について、シンヤはあまり心配していなかった。だって、そうだろう。


「まぁゴンさんが気にかけてくれるのは嬉しいし、心配もわかるんだけどさ。でも、もしそれで俺がおかしくなったとしても、何も問題なくないか?」

「……?」

「ゴンさんの体調がちゃんと戻ったあとで、俺を戻してくれればいいだけなんだから」


 少なくともこれまで一か月以上も一緒に過ごしていた限りでは、とくに何ともなかったのだから。仮にシンヤに何かあったとしても、少女の体調さえ戻ればすべては元通りになるはずだ。だったら実質的な影響は何も残らない。


「元に戻すって、そんな単純な話では……。あなたは何も」

「それに」


 たしなめるように少女は何か言いかけたが、シンヤは構わず話を続けた。


「それはそれで好都合だとも思うんだよな」

「好都合?」

「だって、そのあいだ俺が勝手にキリキリ勝手に働くってことだろ? 命令が無くても、ゴンさんのために。欲しいものがあれば取ってこさせられるし、水だってぬるくなったら替えさせられる。流石にそれくらいなら俺でもできるだろうからさ」

「…………」

「まぁスペックは保証できないっていうか。もしかしたら、かなりイマイチかもだけど……。そんな召使でも、いないよりはマシじゃないかなって」

「そんなの……認められるわけないじゃないですか。だってあなたは怪我人なんです。そんなこと、させられません」

「怪我人って言ってもな。もうほとんど治ってるよ」


 問題ないアピールのために、シンヤは軽く手を振ってみせた。本当を言えば、まだ痛む箇所はある。でも日常生活に支障を来たすほどではないし、なんとかなるだろう。


「あ……」


 そこで一瞬だけ「しまった」となったのは、振って見せていた手首――そこに刻まれた術式から、この装いが筒抜けとなっている可能性に気付いたからだ。


「?」


「いや、なんでも」


 でも幸い、今の彼女にはそこまで拾いきるだけの余力はなかったらしい。

 そして――。最終的には少女も、それしかないと判断に至ったのだろう。


「本当にごめんなさい……」


 とても申し訳なさそうに、彼女は言う。


「もしあなたに何かあったとしても、私の体調が戻ったら必ず元に戻します。お約束しますので」

「もし俺に何かあったらな。そうならないように俺もできる限り踏ん張るよ。それに丁度よかったんだ、ちょっと試してみたいこともあったからさ」

「試してみたいこと……?」

「それはまだ内緒。もしうまくいったら話すから、とにかく今日はもう休んで」


 ようやく看病の許しを得てからさっそく、シンヤは温(ぬる)くなった水桶から手に取る。


「水、替えてくるよ」


 どこか不思議そうな顔をしている少女を残し、いったん部屋を後にしたのだった。


 ――さて。それから三、四日ほどだろうか。シンヤは率先して少女の身の回りの世話を焼くようになる。水を替えたり、必要なものを取ってくることはもちろん。あとは濡れた布を絞って額に当てるとか、軽い食事を用意することも。


「料理できたんですね」

「本当に軽いやつならな。でもレパートリーは期待しないでくれよ」

「では無理のない範囲でお願いしますね、コックさん」


 薬草類についても困らなかった。幸い、まえにシンヤが風邪を引いたときのものが残っているし、シンヤもテイマーの端くれなのでそれを扱うくらいの知識はある。煎じた薬を手渡しつつ。


「すみません、本当に。ありがとうございます」


 お安い御用の気持ちを込めて首を横振りして応じた。ちなみにこのときシンヤが無言で応じたのは、直前にそうと取り決めが交わされていたからになる。


 人寄せの特性は相手と関係が深まるほどに危険だ。身体に触れることは勿論、言葉を交わすことや目を合わせることもできるだけ避けた方がいいとのこと。


『心配しすぎな気もするけどな』

『しすぎて困ることもありません。では今からお願いします』

『…………』

『私を見るのもダメですよ?』


 そうだったと言われてから気づき、すぐに顔を背ける。


『…………なぁこれ、さすがにやり辛くないか?』

『だからしゃべっちゃダメです!』


 そんなわけで今、こうなっている。不便さはあるものの、少女の方はいたって真剣だ。なのでシンヤも軽いゲームか何かだと思って付き合うことにして。


 そうして気づけばシンヤは黙々と部屋を掃除し、体調の戻りつつある少女はそんな彼に一切目を向けることもなく、静かに本に目を落とすような構図に。


「なんだかこれでは、私がとても意地悪な姑(しゅうとめ)みたいですね」


 思わず噴き出していた。




 ともあれ、シンヤにとっては何かと新鮮な日々となる。


「部屋に戻ってください、これは命令です」

「…………」

「まだ、ダメそうですね」


 ときおりこうして、シンヤを使って力の戻り具合を確かめつつ。またしても立場があべこべになっていることや、ようやく少しは恩を返せている実感もあって、どこかしみじみとしたものを覚えていた。その一方で。


(いや……)


 思い直しもする。もとはと言えば、少女が体調を崩したのは自分のためなのだ。だったらこれは、純粋な恩返しとは言えない。言ってはいけない。


 少女の言葉を借りるなら、あくまで「賠償の一環」だ。

 だからこそシンヤは、彼女のために裏である検証を進めて――。


(よし、この調子ならいけそうだぞ……!)


 日々、その成果や手応えを着実に確かめていた。そうしてついに、その日を迎える。


「――部屋に戻ってください、これは命令です」


 静かに、それでいて凛とした声音とともに、抗えない強制力が足元にかかる。そのままシンヤの体はひとりでに回れ右をして。


「おお……っ!」


 思わず声を出してしまったし、顔も見てしまったが。何も問題はないだろう。


「もういいです、命令を取り消します」


 その言葉とともに、今度は足元から強制力が消え去っていく。自由が戻ってくるその感覚こそ、少女が無事に回復した何よりの証なのだから。


「久しぶりだな、ゴンさん……!」


 少女からすればそんなことはないのだろうが「はい、お久しぶりです!」と元気に返してくれる。ワーイとなって、和気あいあいとして、今は懐かしい姑(しゅうとめ)の話題も持ち出されて「あれなぁ」となって。


「とにかく本当にお世話になりました。もう大丈夫です。それと、すみません。本来は私がお世話しなくちゃいけない側だったはずなのに。こんなご迷惑をおかけして」


「いいって。こっちだって、もう十分過ぎるくらいしてもらったよ。払われすぎたお釣りを返しただけさ。それでもまだ、こっちの方が貰いすぎだけどな」


 互いの健闘をたたえ合った。ひとしきり喜びは分かち合ったし、それはそれで少女は申し訳なさの方が先に立ってしまうようだから。ここいらで話題を変えるためにも、満を持してシンヤはその話題を切り出したのだ。


「それでなゴンさん、実は俺からひとつ提案があるんだ」

「え、提案……?」


 きょとんとした様子の少女に向き直り、改まって伝える。


「やっと見つけたんだ」


 ずっと探していた。こんな自分から彼女のためにしてやれるかもしれない、たったひとつでなけなしの恩返し。


「どうにかなるかもしれないんだよ」


 その方法をようやく見つけたのだと。

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