↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

思いでの神社

腹の奥から声が出る。それ絶対、望だ!


「わ、びっくりした」



 驚いた表情に可愛いなどと、言う暇は無く千春に詰め寄る。


「ま、まままままままさか、もう、消しちゃったのか」


「除霊のことかなぁ?」


「多分それだ!」



 よく分からないが、雰囲気で合せておく。



「いや、今からだよぉ」


「……そうか」 



 ほっと一息つく。


 よかったまだ、消されたわけじゃない。



「その子が、望ちゃん?」



 こいつは時々、察しがいいときがある。俺の表情で分かったのだろう。



「……あぁ」


「じゃあ、まずいよ。このままだと悪霊になっちゃう」


「……悪霊? なんだそれ」



 新しい知識に、動揺を隠し切れない。


 なんだ悪霊って。



「僕もちょっと調べてたんだけどね。彼女一年前に事故に遭ったみたいなんだ」 



 それは姉から、聞いた話と同じだ。千春は神妙な表情で、言葉を続ける。



「人間ってね、覚悟が出来てるときと違ってさ。いきなり死んじゃうと魂だけ置いてかれちゃうんだ」


「置いてかれる?」



 情報が多く、ほぼ反芻するだけになってしまう。



「そう、それが幽霊の正体。そして、魂だけだとこの世界では劣化しちゃう」



 劣化。上手く想像が出来ない。



「一年。それが魂だけでいられる期限なんだ」



 そんなこといきなり言われて、はいそうですかと納得できない。


 脳が理解を拒み続ける。だが、一つ質問はできた。



「もし、魂が劣化したらどうなる」


「……」



 千春は、静かに目を逸らした。


 そのなんともいえない表情が、何故か怖かった。



「死後の世界はわからないよ。でも、劣化した魂は地獄に行く」



 頭の中が真っ白になった。


 説明が理解できていない、それもあるだろう。なにがなんだかわからない。



 でも、そんな俺でも理解できた事が一つだけあった。



「あいつは地獄に連れていかれるような人間じゃない」


「……文夜、どうしたの?」



 千春の両肩を掴む。



「ひ、ななな何、文夜! 急にっ、僕達はそういう関係じゃないよねっ!」


「千春、聞いてくれ」



 両目で千春の子犬のようにかわいい瞳を、見つめる。


 言うことを聞いてくれたのか、しゅんと静かになる。



「俺を望の所に連れてってくれ」


「……んと」



 千春の眉が少し垂れた。口を硬い一の字にする。


 無茶を言っているのは分かっている。だけど、ここで引けない。



「俺があいつを成仏させる。そうしたい」



 千春は口をぱくぱくさせて何か、言いたげだったが諦めたように大きく息を一つ。



「わかった。……僕は文夜を信じるよ」





「この先にいると思う」



 千春が視線を送った先は、古びた神社だった。


 そこは、三年前に首を絞められた場所。



 今は夜となっており、雰囲気があって怖い。


 後ろに控えている千春に



「ありがとう」



 と、小さく微笑み、鳥居の下を潜る。


 中は誰もいない。



「望!」



 と、叫んでみた。が返事はない、


 どうすればいいかわからない。ただ、声を出してみた。



 どうすればいい……何をすればあいつは出てきてくれるんだよ。


 ふと昔のことを思い出した。



 そうだ昔の話をしてみよう。望も気が変わるかもしれない。



「俺さ、アルバムを見てたんだよ」


「……」



 姿、形は見えない。だが、どこかで何かが息を飲んだような気がした。


 よし、手ごたえはある。



「俺が躓いてた時、止めてくれたのってお前だったんだよな……!」



 確信して、言葉を続ける。



「一緒に小説を書こうって言ってくれたのって……!」


「それ、私じゃ。ないっ!」



 目の前に銀色の髪を揺らした美少女がいた。


 その顔は怒っている。頬をとんでもないくらい膨らませて、涙を少し溜めている。



「やっと、出てきてくれた」



 姿が見えたことに、俺は安堵する。



「う、うるさい!」



 前に進むと、望は顔を隠し縮こまる。



「近寄らない、ないで!」



 怒り、ではないのだろう。強いて言うなら怯え。


 彼女の腕をゆっくりと握り、正面から顔を見る。



「……っ!」



 泣き腫らした後があった。


 目の下が赤くすれており痛々しい。ずっと泣いていたのかもしれない。



「やめてっ!」



 手を振り払われ、全力で押し出される。その力は、一般的な女性とは全く違う。


 悪い意味で、だ。



 まるで漫画のように体が、吹き飛ばされる。



「痛いっっっ!」



 トラックにはねられたような衝撃。


 神社は望の力が強いのかもしれない。



「文夜はもう私に関わらないで!」



 ボロボロになった体に鞭を打って立ち上がる。


 そんなわけにいかない。



「お前ってさ……いつも俺のこと手伝ってくれたよな」


「……何、急に」



 警戒するように構える望。



「宿題もそうだけどさ、バンドの時も、桜の時も文句一つ言わずに手伝ってくれたよな」


「……だから、何」


「あと、俺の作品のキャラクターを演じてくれた」



 弾かれたように、俺の顔を見つめる望。



「知ってたの」


「……姉貴のアルバムを見てさ。お前が事故に遭ったって聞いた」


「……」



 歯がゆそうに、悔しそうに、苦しそうに、そんな複雑な表情を見せる。



「来夏ちゃん、だよね」



 彼女は呟いた。



「……あぁ」



 二人は文芸部の部室で、写真を撮っていた。


 創部当初の二人なのだろう。



「何でそんな状態になって、俺を助けようとあんな事をしたのか知りたいんだ」



 望は静かになる。


 そして一つ小さくため息を吐いた。



「来夏ちゃんから、話は聞いてた」



 懐かしそうに、子供の頃の宝物を見つめるような瞳で彼女は語る。



「新しい弟が出来て、うれしいとか。受賞した、とか」



 お姉ちゃんは俺のことが、実は嫌いなのだと思っていた。


 でも、違う……のか?



「そして、文夜の最初の作品を読んだ」


「……ドキ共のことか」



 望は静かに頷く。


 そして、微笑んだ。



「とても、面白かった。文夜の好きが、全てが溢れている気がした」



 いつもその作品を褒められるたびにわからない。



「それは、俺の最悪な中学時代に書いたものだ。姉への気持ちを叩きつけただけのものだ」


「うん」



 彼女は、そういって俺を見つめる。その瞳はなぜか慈愛に満ちていて、包まれているかのような気分だった。



「俺の恥辱の全てを注ぎ込んで、全てさらけ出して……否定されたものだ」



 親父のあの時の目を思い出す。


 認めたくはない。だけどあの時、確実に心は折れてしまった。



 屋上で全てを捨てたくなってしまう程に。



「でも、認めた人間もいる。私も、かなちゃんも。そう」



 パチリと、目が合った。


 縋るような情けない目だったかもしれない。それでも望は微笑んだまま話を続ける。



「あの本を読んで、なんとなく作者の人柄が、分かった」


「人柄……?」


「うん。努力したことがあって、好きに正直な人」



 確かに、あの頃は夢や好きだけを見て書けたし、そう生きていた。



「でも、今は……」


「変わらない。今まで見てきて、そう思った」



 望の姿が、淡く光りだす。


 部室に現れたときと、同じような色、光。



「望……」


「本を読んだ時から、文夜の事が。好きだった」



 段々と光が強まっていく。



「待てよ! まだ、話してないことがいっぱい」


「体の無い私に出来るのは、文夜の力になる。それだけだって思った」



 必死に手を伸ばした。



「大丈夫。文夜はもう、文芸部にいてわかったはずだから」


「待てよ!」



 だが、触れる前に全て霧散していった。


 地面に倒れこむ。コンクリートが、無慈悲な程冷たかった。



「なんでっ……なんでだよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。