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最近、裏山がおかしいんだけど。 その6、エピソードエンド。

「ごちそうさまでした」

 自然とみんなでそう言っていた。無事? に食事を終えたぼくたちである。

 って言っても、変な食事方法させられたの、ぼくだけだけどね。

 

「さて、腹ごなしついでに紅葉狩りを再開するか。って言っても下りながらになるけど」

 荷物をカバンに詰め直し終えたところで、ぐるぐる両腕を回しながら

 そんなことを言うルカに、ぼく クスっとしちゃった。

 だって、普段こんなことする人じゃないんだもんルカって。

 

「いえルカさん。わたくしであればですが、下りながらでなく

更に上から、紅の広がった光景を眺めることができますわ」

「って、言うと?」

「飛行魔法を使って、です」

 

「オジョールさん、使えるの?」

 驚いたブクリエの言葉に、ええってこともなげに頷いた。

 

「さっすがフルールさん。ぼく、まだ一部に集めるぐらいしかできないよ。

湖の時、フルールさんがルカのシャープブレイドを受け止めてたみたいな感じで。

あそこまでの制度じゃないけどね」

 なんだかてれくさくって、ヘラって笑っちゃった。

 

 微笑一つ、フルールさんは言葉を紡ぐ。

「それで、わたくしといっしょに空から紅葉を眺めるのはシュバリちゃん。

あなたですわ」

「え? ぼく?」

「当然ですわ。だって、きっと素敵な景色でしょうから」

 

「理由になってないよ、それ」

 なんでか、みんなから溜息をつかれました。

「さ、やると決めたのですし、早速」

「え、あ、もうなの?」

 話の速度についていけないんですが……。

 

 あたふたしてるぼくを無視して、フルールさんは空を見上げて深呼吸一つ。

 どうやら、飛行魔法、使うつもりらしい。

 一つ頷くと詠唱を始めた。

 

 

「言霊、万事を以ってこれを魔としたり。

空渡る姿無き者。我、共に空行く翼を。

紡ぎし祝詞のりと、しかして法に至れり」

 世界に響き渡る声で紡がれた、柔らかな言葉。

 その響きが終わると、フルールさんの背中に大きな黄緑色の翼が一対生まれた。

 

「これが、飛行魔法か」

 生まれた翼を見て、ぼくは感激の溜息交じりの声が出た。

 

 精霊に語り掛けることと、その使う力の種類を示すこと。

 それが魔法詠唱における絶対に必要な部分で、後は違ってもいいんだって。

 今回フルールさんがした詠唱は、飛ぶ力を風の精霊に貸してもらう、

 それだけを示した物だね。

 

 始まりと終わりの言葉は共通。アリサーナ学園で教えてるのがこの詠唱。

 話によると、場所毎で違うみたいなんだよね。

 

 ちなみにだけど、最初と最後の部分だけ詠唱すると、

 無属性魔力を付与エンチャントできるんだ。

 これは詠唱によって精神を集中することで、

 魔力を集めやすくなってるんだ。

 最近実感したから、それがしっかり理解できた。

 

 ただ力の延長線みたいに、爆発することしかできなかったぼくの魔力を、

 さっき言ったように体の一部に集中させられるようになったのは、

 この詠唱を覚えてからだからね。

 

 

「シュバリちゃん」

「あ、はい」

「わたくしに背中、向けてくださいますか?」

「え? こ……こう?」

 なにをするのかわかんないけど、とりあえず言われたようにしてみた。

 

「では。参りましょう」

「わっ?」

 なんでびっくりしたかって言うとね。

 いきなりフルールさんが、わきの下に手を滑り込ませて来たんだよ。

 

「わわっ」

 しかもそのままギューって抱きしめて来たっ。せ……背中にふわふわふよふよした感触が……!

「それっ」

 楽しそうに言うのと同時に、フルールさんはぼくを抱えたまんま、垂直に飛び上がった。

 

「うわ~っ!」

 

 すごい速度で空に舞い上がったぼくたち。

 空へ向かうのとは反対に、風が下から吹き付けて来る。

 スカートじゃなくてよかったと思う、寒いし。

 

「あのっフルールさんっ、もうちょっと 力緩めてもらえない?」

「駄目ですわよ。力を緩めたら、シュバリちゃんが

落ちてしまうかもしれないじゃございませんの」

 

「そ、そっか……それにしたって、ちょっと強すぎない?」

「こんな風に飛ぶのは初めてですの。だから、加減がわからなくって。

落とすわけにはまいりませんから、

どうしても力が入ってしまって」

 我慢してくださいな、そう申し訳なさそうに続けた。

 

「わ……わかったよ」

 

 

「さて、そろそろいいかしら」

 そう言うと、下から吹きつけて来る風が急激に緩くなって、そして収まった。

 

「とまった……の?」

「ええ」

 頷いたみたいで、少し気配が動いて。

 その後に、「うん」って満足したような声がした。

 ちょっとフルールさんっぽくなくて意外。

 

 

「見て、シュバリちゃん」

 言われてぼくは下を見た。

 

「うわぁ~」

 思わず感激の声が漏れるのといっしょに、

 胸の前で両手をヒシっと組み合わせてた。

 世に言う乙女なポーズって奴を、ぼくはしてたんだ。

 

 

「思った通りですわね。この景色。まるで、紅の絨毯ですわ」

 うっとりした声が背後でする。

 ぼくも、「うんっ」っておっきく同意の頷き。

 

「素敵だなぁ」

 ぼくもうっとり声になっちゃったよ。だって、こんな景色。

 今まで見たことなかったんだもん。

 本当に、そうゆっくりと噛みしめるように柔らかく言ったフルールさん。

 

「飛行魔法が使えてよかったですわ。そうでなければ、こうして

シュバリちゃんと二人っきりで、この美しい景色を見ることなんて、

できませんでしたもの」

 続けて、同じ調子でしんみりと言った。

 

「そうだね。フルールさんありがとう」

 顔だけ後ろを向いて、そうお礼。

 自分でわかるくらいの、にっこり笑顔なぼくである。

 

「これが夕方でしたら、きっともっと素敵だったのでしょうね」

「見渡す限り真っ赤、か。そうだね、もっと素敵だったかも」

 想像してみた。

 

 夕方の茜色の空と、見下ろす景色は一面の紅の葉っぱたち。

 まるで、一枚の絵みたいだ。想像するだけでそう思うんだから、

 実際に見ることができたらもっとすごいんだろうなぁ。

 

「ねえシュバリちゃん?」

「なに?」

「今度、こっそりと二人で来ませんか? 夕方の紅の葉をこうして、

空から長めに」

 柔らかに告げられた言葉、それに答えるぼくは。

 

「いいね、それ。うん、こよう」

 また顔を後ろに向けて、にこっとしてた。

 声も自然と嬉しく鳴って。

 

「約束ですわよ」

 そう笑みを返された。なんだか色っぽい感じのする笑みを。

 

 

「さ、そろそろおりましょう。少し、腕も疲れてきましたし」

 言い終わると、ゆっくりとフルールさんは下降を始めた。

「今回はゆっくりなんだね」

「ええ。上昇した時、シュバリちゃんが緊張していたのがわかりましたから。

降りる時にはゆっくりと、と決めていましたの」

 

「そうだったんだ。ありがとう、気をつかってくれて」

「当然のことですわ」

 そう、聞くからに笑みな声色で答えてくれたフルールさん。

 それにぼく、フフフって思わず笑ってた。

 

「おかえり。どうだったんだ、空からの紅葉狩りは」

 なんかむっとしてるなぁルカ。これじゃ、素直に感想言えない。

 空気がそれを許してくれない。

 

「役得だよねぇシュバちゃん」

 はぁあ、って溜息付のブクリエ。

「見たかったですねぇわたしも。空から地上に広がる紅の海」

 いいなぁ、って小さく呟くジュルナルちゃん。

 

「流石にわたくし、これ以上はむりですわよ」

 頼まれるより前に、フルールさんはそう釘を刺した。

 

「そうか。それじゃ、下山しながらの紅葉狩りとしゃれこみますか」

 がっかりした様子でそう言うと、ルカはまた先頭を位置取るように

 サクサクっと歩いて行く。

 それに続くぼくたちは、自然と行きと同じ布陣になっていた。

 

 

「なにはともあれ。みんな紅葉狩りを気に入ってくれたようで、

提案したわたしとしてはよかったよ」

 歩き出してすぐ、この企画の発起人のルカは、そう満足げに発した。

「もっと不満が出ると思ってたんだ、特にバレンティーネ嬢から」

 

「ちょっと、なんであたち?」

 驚いた声で聞き返してる。

「ただただ山登りするだけだからだよ。

紅葉狩りなんだから葉っぱ狩らせろー、とか言って

せっかくの紅葉を切り落としかねないからな」

 

「失礼しちゃうなぁ」

 ルカの答えにむっと頬をふくらまして、不満を声にのっけたブクリエ。

 流石のブクリエでも、ここまで暴れん坊扱いされたら、失礼に思うんだなぁ。

 

 

「あたち、剣術は苦手なんだよ。そんなことやったら枝ごとバッサリしちゃう」

 

 

「「そこじゃないだろ!」」

 続いたブクリエの言葉が、あまりにも素っ頓狂で。

 ぼく……といっしょにルカも突っ込んだみたいで声が二人分した。

 しかもルカ、ガバっと体をこっちに向けてまで。

 顔見たら目を真ん丸くしてる、ってことはかなりびっくりしたみたいだね。

 

 で、そんなぼくたちを見て、楽しそうにフルールさんとジュルナルちゃんが笑っております。

 

 

 フルールさんの勘違いから始まった、予想外の紅葉狩りだったけど。

 なんだかんだでぼく、とっても楽しかった。

 

 きっと、他の四人も同じ気持ちだと思う。

 だって。

 今みんな笑顔なんだもん。楽しくないなんて、思ってるわけがない。

 

 

 

 満足と充実を心に持って、ぼくたちはアリサーナ学園の裏山を

 紅の葉っぱたちを見ながら降りて行くのでした。


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