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元勇者VS講師候補


 アルダートン王国において闘技場で行われる戦いは主に決闘方式が主流。一対一もしくは同人数での団体戦で勝敗を決めるのが由緒ある貴族達に言わせれば華がある戦い。しかし、今回はその伝統的な決闘方式ではなくバトルロワイアル方式、つまり乱戦での戦いとなる。

 貴族達の中にはこのような戦闘方式に忌諱の感情を浮かばせるものが多いが、一部の貴族と豪商は面白そうな表情で観覧席から闘技場を見下ろす者や賭け事まで始めるもの達までいる。


 そんな中、王族用に拵えた観覧席から登場人物を待ちわびているソフィーア・アルダートンに一人の騎士装束を纏った兵士が跪いて頭を垂れた。


「失礼致します。あの者から返事を承っております」

「そうですか」

「返事をお聞きになられますか?」

「いや、聞かなくても大方予想はついているから結構です。つまらない仕事をごめんなさい、もう下がっていいわよ」

「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 満足そうにほくそ笑むソフィーアを隣に座っていたレニエは今まで聞いておきたかったことをソフィーアに質問した。


「ソフィーア様、今回の対戦形式ユウキ君には少し不利なのではないですか? 先程、対戦者の名前に目を通しましたが、予想外の人物が参加しているようです。それに八人中ガローニ伯爵派の者が五人、つまり半数以上がガローニ伯爵の息がかかております」


 レニエは書類上のこと以外ユウキの事を知らない。ソフィーアの事を信じてはいるが、ユウキがここまでの不利的状況を跳ね返せる人物なのかという部分には不安が残っていた。


「この程度の不利なら問題ないでしょう。それにこの対戦形式………ユウキを有利にする為のものですからね、あと少しで貴女もわかるわ」


 ソフィーアは本当に自身が有りそうな表情を浮かべて語るがレニエは未だ得心いかない様子で闘技場に視線を戻した。




 ユウキが闘技場に姿を見せた時には既に装備整えた七人全員の顔が出揃っていた。

 軽装騎士甲冑を身につけている男女が二人、武器の戦斧以外装備らしい装備してない傭兵風の男が一人、あと四人は如何にも冒険者ぽい装備に身に包んでいる。

 一番入場が遅かったにも拘わらずのんびりとした歩調で中央まで歩いていくユウキに傭兵風の男がまず最初に話しかけてきた。

 身長は2mを超えており、ガタイはユウキを二回りも上回っているかのように見える。自らの筋肉を誇示するように上着は魔獣のベストをのみを羽織り、伸びた無精ひげと合わさりこの男が粗野な傭兵ぽさが滲み出ている。


「おう、あんちゃんがこの面白い方式を提案したって聞いたが………なんか思ってたより普通のヤツだな。俺はてっきり戦闘狂みたいなヤツを想像してたぜ」

「それは侵害です。自分は平和と自由をこよなく愛する男ですよ」

「いやいや、そんな男がこんな対戦形式を提案するとは思えねぇな。余程の自身があるのか……それとも余程の馬鹿か」


 傭兵風の男は少し姿勢下げ無遠慮にユウキの格好をしげしげと確認してきた。

 深い紺色のコートにブーツ、腕にはガントレット、膝と肘にはプロテクター、コート以外は学園が戦闘訓練時に生徒に貸し出している装備を身につけていた。


「あんちゃんはその装備とそれは武器といっていいのか?」


 この場に居る者どころか観覧席で見守っている者たちもユウキの装備よりもその武器に注目が集まっていた。 

 ユウキが手にした武器はミスリル製の棒で長さは一五〇センチ程とアルダートン王国で使われる一般的の槍長さより短い。


「装備に関してはあなたも人のこと言えないと思うが、そういえばこの国では珍しい武器だったか。これは杖《じょう》という武器ですよ」


 肩を竦めながら答える。目の前の大男が見た目通りの傭兵ならば使うはずもない武器である。

 傭兵風の男がさらにユウキに話を聞こうと口を開いた時、


「無駄話はそこまでにして頂こう」


 如何にも生真面目そうな女騎士がユウキと傭兵風の男との会話を断ち切った。


「審判はソフィーア王女殿下、直轄騎士団の第三部隊所属フルーラ・デュサリオンが受け待たせて頂きます。先に来た皆様には説明しましたが、遅れてきた方の為にもう一度説明をします」


 誰の事を言っているの一目瞭然だか審判係の彼女は確認の意味を込めて真面目に説明を始めた。


「まず、・主武器・防具以外の魔法《マジック》アイテムは禁止。

    ・魔法は中級以上の攻撃魔法は禁止。

    ・相手を死なせてしまった場合はその場で失格。

    ・戦闘不能又は相手が敗北を宣言するまで戦闘を続行する事。

    ・バトルロワイアル方式の乱戦形式

    ・時間無制限


以上が今回の対戦のルールとなります。ご確認いただけましたでしょうか?」


「わざわざ、もう一度ご説明ありがとうございます」

「これが職務ですから」


 真面目に説明してくれたフルーフに頭をさげたが、抑揚のない声で冷たく返される。


「では、皆様のお名前と推薦者の名前をご確認させてください」


 それぞれ推薦者の身分が低い順に名乗りあげる。ここで改めてユウキは今回の参加メンバーをじっくり確認した。

 先程の傭兵風の男の名前はガズ=モーガン、推薦者はアルトラーン伯爵。なんと両方ともここ半年引きこもりだったユウキでも知っている程の有名人であった。

 海都と呼ばれている商業都市を有し、王国最強の海兵を率いる領主。そして、その海都で国からも認められた合法的な海賊が一団存在する。海賊を狩る海賊団。

 今この場にいる誰もが中級以上の実力を有しているとユウキは考えているが、キャプテン・ガズがもし噂通りの実力なら今のユウキで勝つことは限りなくゼロに近い。


「勘弁してほしいよ………ほんとに」

「まぁー楽しく殺《や》ろうぜ。ガハハハッ」


 ガズは気色の悪い笑みを浮かべバシバシとユウキの背中を叩く。

 背中を叩くカズからすぐに距離を取ると三人の冒険者と目が重なった。


「貴方がAランク冒険者のユウキか?」

「何か?」

「いや、一応確認しておきたくてな。やっぱ顔も名前も聞いたことない………因みにどこかのパーティーや団体《クラウン》に所属してたりするのか」


 三人の冒険者の中でも、一番戦闘経験が豊富そうな三十台半ばの男がユウキに質問をした。

 大方の上級冒険者は有名なパーティーや団体《クラウン》に所属している。初心者冒険者の育成、大型モンスター討伐、ダンジョンに出てくる武器や装備品の融通など団体《クラウン》に所属することで受ける恩恵は非常に大きい。

 そして、目の前の3人はそれぞれ何処かの団体《クラウン》に所属していることを象徴するエンブレムを装備品に刻んでいた。


「いや、パーティーもクラウンも所属していない」

「なら余計な心配はいらねーな。俺はドモン、【岩壁の砦】っていうクラウンに身をおいている。Bランク冒険者だ」


 ドモンと握手を交わすと、残り二人の冒険者も順番に所属クラウンと名前を名乗った。


「【飢狼の牙】のジュヘベ。同じくBランク」

「俺は【白銀の翼】のアラン・クワトス、今はBランクだが来年には必ずAランクになる男だ。依頼主の件とは別に今回あんたを踏み台にさせてもらうわ」


 ジュヘベの年齢はドモンと同じか少し上ぐらいで武器と装備は片手剣とカイトシールドも身につけていた。武器や装備品の質は三人の中で一番悪い。反対に挑発的な態度を取ってきた最後の男はユウキと同じくらいの年齢で装備の質はこの中で一番良く、背中に大槍を背負っていた。

ドモン以外の二人はユウキに何か含むところがあるのか、一瞥すると自分の所定の位置に戻っていく。


「まあ~あんたみたいな若さでAランクなんてそうそう居るもんじゃない。それを言えばあのアランってヤツもなかなかもんだが、無名なものだから気に食わないってヤツが居てもも無理はないだろ」

「まあ~確かにそうだな」


 ユウキにといては、とばっちりもいいところなのだが気にしてもしょうがないと割り切った。実際ユウキも逆の立場なら同じことを思ったかも知れないと考えたからだ。


「あんたは違うのか?その………気に食わないとか思わないのか」

「俺か?まぁ~俺もあと十年若ければ同じことを考えて居たかもな………でも、この年になって自分の実力や伸びしろについては理解しているつもりだ。確かにその年齢でAランクに上がれる実力は羨ましいが、そのランクに見合ったからこそ冒険者ギルドはお前さんにAランクを称号を与えてわけだからな」


 ドモンが言う通りAランク冒険者というのは冒険者ギルドの厳しい選定基準を満たした強者のことである。

高ランクの冒険者が依頼に失敗すればそれは冒険者ギルドの威信を傷つけることに他ならない。だからこそ高ランクになる程選定基準は厳しくなっている。

 だが、ユウキのような例外もまた存在している。別にユウキは冒険者ギルドの厳しい選定基準を合格してAランクになったわけではない。だからドモンの話を聞いて心に突き刺さるものを感じた。ユウキにとって今のランクも力も他からの授かりもの以外の何ものでもないのだから。


「まあ~お手柔らかに頼むよ」

 

 そう言ってから定位置に戻るドモンの背中を見送ってからユウキも気持ちを切り替えて定位置に着いた。ユウキにはそれ以外の選択しは存在しないし、今から相手をするもの者達は今のユウキが油断していい相手でもないと自分を引き締め(じょう)を強く握り締める。

 

 まもなく正午の鐘が鳴る。

 今回はその鐘が戦闘開始の合図となっており、観客席では正午の鐘の妨げにならないようにと貴族や豪商達も揃って口を閉ざしていた。

 闘技場全体が引き締まった緊張感に包まれ様々な思惑が錯綜する中、何拍かの静寂が過ぎ正午の鐘が闘技場になり響いた。

 


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