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元勇者の罪悪感

遅れて申しわけありません。

旅行が続きにきて更新する暇がありませんでした。

 

 今ユウキの前には、王都ラハノキア第一層城門が見えていた。


 王都ラハノキアは、第一層と呼ばれる一般層、第二層の富裕層、王族が暮らす第三層と、各階層を区切るように城門が建てられている。

 王都の第二層に居を構えられれば、人生の成功者として認められるため、王都に夢を抱いてやって来る商人や国民も多いという。


 アリシアにもらったポカンの実のおかげで、気持ち楽になったユウキが並んでいる馬車の列の最後尾に並ぼうとすると、


「ユウキ殿、我々は隣の貴族用の通行所になるので、その列の先頭の方に馬車を動かしてください」

「了解しました」


 エリックの言う通りに馬車を動かしながら、ユウキは馬車の荷台を振り返る。


 ユウキが乗物酔いを我慢して御者を買って出たのは、馬車の中にいる獣人や人を目立たず魔法で治療するためとういうのが、大きかった。

 聖属性の治癒魔法は、魔法が使える者の中でも扱える者は多くはない。そのため、面倒事に巻き込まれることも多々あることをユウキは、経験から知っているため、できるかぎり隠すようにしている。


 

 治癒のため馬車に入った時は、男女の獣人や小さな子供を合わせて十二人が身を寄せ合い、怯えながら固まっていた。

 ユウキは、湧き上がる感情を押し殺して、怯えている獣人の子供から順番に治癒魔法をかけていった。


 今の、自分らしくない行動に苦笑いしながらもユウキは城門に向けて馬車を動かした。



「通行許可書を確認させてもらって、よろしいか?」

「こちらが、通行許可書です」


 エリックが通行許可者を南城門の兵士に見せると、兵士は怪しむようにユウキが乗っている馬車に目を向けた。


「こちらには、馬車が一台と書いてあるが……」

「こちらの馬車は、王都に向かう道中で非許可の奴隷商人を捕えました。ですので、騎士団の方にこの馬車を引き渡したい」

「了解しました。どなたかここに残り騎士団に事の説明を頼めますか?」


 エリックと兵士の会話を聞いていたユウキは、きっと残って説明する役は、第一発見者の自分になるだろうと思いながら溜息をついた。



「それでは、私達は、先に屋敷に行ってユウキ君たちを待たせてもらうよ」

「ユウキさん、アリシアさん、こちらのバッジをギルドカードと一緒に見せれば

第二層の城門は通れるので無くさないでくださいね」

「わかりました」


 馬車の窓からユウキ達に小さく手を振るシャルロッテを見送りながら、ユウキは騎士団の到着をアリシアと待っていると、


「……ま……」


「十分ぐらいは、待つことになるだろうな」

「そうですね。 久しぶりの王都ですが、どうですか?」

「ここらで、釣れる魚はあんまり品質が良くなって、ハロさんが言ってたからあまり釣り欲求は解消されなそうだな」


 釣りをする仕草をしながら答えるユウキに、アリシアは笑顔を浮かべながら、何か含みがある言い方で返した。


「私の質問の答えになっていませんが、のんびり釣りができる程の余裕ができるのでしょうか」

「それは、どういうこと――」

「…みま…ん」


 アリシアの含みのある言い方を問い詰めようとすると、後ろからなにかか細い声がユウキの耳に聞こえた。

 何かと思い、後ろを振り向くと顔を半分ほど布から出した、女の子が身を縮めながらユウキを見ていた。


「どうかしたか?」

「……の………が…………」


 何かを言っているようだが、御者を務めるユウキの距離ですら、ところどころしか、女の子の声が聞こえない。

 

「悪い、ちょっと聞こえない」


 聞こえないので、ユウキが体を近づけた瞬間、女の子は小さな悲鳴をあげて馬車の中に入ってしまった。

 呆然と馬車の入り口を見ているユウキにふっという笑いが漏れ出したような声がアリシアがいる位置からした。


「今、笑わなかったか」

「いえ、そんなことはありません」


 振り向いた時には、完全に真顔作って、取り繕っていた。

 つかっかても自分が悲しい思いをするだけなのがわかることが、悔しい。


(俺が悪くないのはわかってるが、女の子にあんな怯え方をされると正直ショックだぞ)


「きっと、嫌なことがたくさんあったのでしょう」


 アリシアは、先ほどとは違い憂いを帯びた目で馬車を見ていた。

 そのアリシアの姿に見惚れている若い兵士や商人がいるがユウキからすれば、これは詐欺だ!っと叫びたい気持ちだった。


 アリシアもユウキが治癒魔法も使って馬車の人達を直していた姿を見ていたので、なかの人達がどのような状態だったか把握している。


「アリシア、女のお前が話を聞いてやってくれ」

「かしこまりました」


 アリシアはユウキに頭を下げたあと、馬車に入っていった。


 しばらくするとアリシアが、先ほどの女の子ではなく、獣人の子供と手を繋いで出てきた。


「どうやらこの子がおトイレに行きたかったそうです」

「そうか」


 獣人の子供は兎種、特有な白く大きな耳が頭にぴょこんと生えていて、ユウキと目が合うとアリシアの後ろに隠れてしまう。


「ならさっきお前に見惚れていた、あそこの兵士に場所を聞いたらどうだ?」


 アリシアは、わかりましたと言うと、獣人の子と一緒に若い兵士に近づいていった。

 何も、ユウキは嫌味でさっきのようなセリフを言ったわけではない、前よりは良くなっているが、以前として獣人の扱いはあまり良くはない。軍や騎士団の中には、獣人を毛嫌いするものも少なくない。だから、アリシアの容姿を気にいっているであろう若い兵士に声をかけさせたのだ。



「あの」


 小さい声がユウキの背中にかけられた。


「どうした?」


 怯えられないように振り向かないで声に答える。

 ユウキと言えど、女の子に無意味に怯えられないのだ。


「みんなの傷を治してくれてありがとうございました」


 一般の庶民では、巡回神父やシスターなど以外から治癒魔法を受けることなど滅多にない。それは、高位の治癒魔法になるほどお金が必要になるからである。


「まあ~成行きだから気にしなくていいよ」


 これは、勇者時代に染みついた習性と言っていい。

 日本人のユウキ達勇者は、傷ついている人を見過ごせる性格ではなかった。そのため、立ち寄った村では、余裕があれば治癒魔法を使って治療していた。


「それでも、ありがとうございました」


 ユウキには、このあと後ろの馬車の人達がどうなるか、だいたい予想がついていた。

 こういう身寄りが無く、故郷に帰れない子供たちは、大抵は教会の孤児院に預けられることになる。

 

「これを、やるよ」


 とユウキは女の子がちゃんとキャッチすることを願って魔法の袋から出した、小さな袋を後ろに投げた。


「えっ!!」


 ちゃんと取れたか後ろを見てやると先とは違い女の子の顔がはっきり見てとれた。

 見た目は、十六、十七ぐらいで髪と目の色は赤茶のような色合いをしており、体は少し痩せこけているが、しっかり栄養とって肉付きが良くなれば十分美人と言われる容姿をしていた。

 しかし、綺麗な目からは生きる気力をあまど感じることはできなかった。


「ちゃんと受け取れてよかったな」

「これは……」

「中見てみな」


 少し面白そうな顔をしながらユウキは彼女が袋を開けるのを待った。

 

 彼女は恐るおそる袋を開け中の物を取り出すと、手にした物を見て驚きのあまり手にしたものを落としそうになった。


「こ、これは、宝石ですか」


 彼女がて手にしている物は、この世界では、高値がつくであろうものだった。


「そんな高価なもんじゃない。それは、ただのガラス玉だ」


 そう彼女が手にしているのは、日本では一〇〇円出せば買えるガラス玉で、ユウキがこの世界に来る時に持っていた、数少ない所持品の一つでもある。


「こんなに綺麗で透き通っているがガラスなのですか」


 彼女は、珍しそうにガラス玉の一個を手に取り空に掲げていた。


「本当にもらっていいですか」

「ああ、まだいくつか持ってるから二、三個ぐらい大丈夫だ」


 彼女は自分が持っている三つ入っている袋から一つだけ取り出すと残りをユウキに返した。


「私だけ三つももらうのは、罰があたりそうで……だけど、せっかくなので一つだけ貰います。……大切にします」


 彼女貰ったガラス玉を胸に大事そうに抱え、悲しい顔をしながら馬車の中に戻っていった。

 きっと自分が彼女に同情していたことに気づかれていたなと思いつつ今日一番のため息を吐くのだった。



 その後、アリシアと騎士団の連中がちょうどいいタイミングで来たので騎士団の詰所まで行き、事の顛末てんまつをアリシアが丁寧に話した。

 最初は、ユウキが説明していたが、騎士が一つ一つ質問するので、ユウキの苛立ちを感じとって、途中からアリシアが質問に答えていた。


「以上で、質問は終わりです」

「わかりました。それでは、失礼します」

「……」

「ユウキ様、起きてください。行きますよ」

「お、おう、やっと終わったか」


 騎士団の兵士に睨まれるが、それを無視して扉を開けて出ていく。

 最後に、これだから冒険者はっという言葉が後ろから聞こえたがユウキからしたら、これだからボンボンばかり揃った騎士団は使えないと言い返してやりたい。


 詰所を出て、少し歩いたところでユウキが愚痴をこぼした。


「たく、騎士団のやる仕事をやってやったのにお礼の言葉もないとかやってられん」

「捕らわれていた方は奴隷にならなくてすんだのですから、良かったではないですか」

「これだから無駄に働きたくないんだ」


 相変わらず残念なユウキにアリシアは嘆息する。


「ところで、ユウキ様は最後まで兎種の獣人の子に怖がられていましたね」

「なんだ、その語尾に(笑)が付きそうな言い方は!」

「いえ、そんなことはありません」


 ユウキ達は仲良く? 会話をした後、屋台で昼食をすまし、南第二層城門に向けて足を進めていった。


 シャルロッテから渡せれたハンカチを見せ城門をくぐると、一層よりも綺麗に舗装された道とその奥にある王城がユウキ達の視界に入った。

 来年シャルロッテが通うことになる王立魔法学園もこの第二層に存在している。

 

「ユウキ様、マックイーン家の屋敷に参りましょう」

「分かった」


 ユウキは改めて王城を一瞥すると、マックイーン家の屋敷に向かって歩き始めた。


 貴族にとってどの場所にどの程度の規模の屋敷を立てるかは一種のステータスになっていることは、貴族世界に疎いユウキでも知っている。

 今ユウキの目の前にマックイーン家の屋敷は第二層西区の一等地に立っていて、ユウキの屋敷がすっぽり入るぐらいの庭の大きさ、屋敷も大きさもさることながらどこか気品を感じさせる佇まいしていた。


「さすが子爵閣下のお屋敷だな」

「はい」


 過去ユウキも貴族の屋敷をみたことがここまで綺麗な屋敷を見たのは初めてである。

 ハロルド達は立派な貴族なのだと再認識し、遠慮がちにドアノックをして一歩下がると、向こうからドアが開けられた。


「お待ちしてありました」


 丁寧に出迎えてくれたのは、執事服を身に(まと)っている男性と道中一緒だった侍女たちだった。


「昼食はおすみですか」

「はい、外ですませてしまいました」

「わかりました。荷物の方は先にお部屋に運ばせてもらったので、今からお部屋に案内します」


 こちらへっと促されるまま執事の後をついていく。


「こちらがユウキ様のお部屋になります」

「ありがとうございます」

「いえ、こちらがカギになります。夕食なりましたらお呼びするので、それまで御寛ぎください」


 執事は一礼したあとは、アリシアを案内していった。

 やっとゆっくりできると、部屋にある高級そうな椅子に腰を下ろし、窓から外の風景を眺める。

 ユウキは窓から入る陽のおかげで、コクリコクリと眠りに誘われていった。




『勇ちゃん、私達が勇者だって~』


『異世界ものキターーーーーー!』


『ゲーム部全員が勇者なるとはね』



 この頃は、勇者という自分たちが特別な存在になれたことにみんな浮かれていた。

 もちろんユウキだってその一人だった。


『剣って重いな。最初からチートってわけじゃないのか』


『ゆっきー、魔法覚えたぞ~』


 勇者と呼ばれているのに、自分の無力差を思い知った事のほうが多い。

 昼間も結果的には、奴隷になるところを助けたように見えるが、実際あれでは、誰も救っちゃいない。

 教会の孤児院は余裕があるわけではないので、衣食住が格段によくなるわけではない。あの女の子にガラス玉をあげたのも何もできない罪悪感や同情という最悪な感情からだ。

 そんな胸糞悪い自分に嫌悪していると、夢の世界はブレはじめ、ユウキを現実に引き戻す。



 今、アリシアはユウキの部屋に来て、眠るているユウキに時々目向けながら本を読んでいる。

 なぜ、ユウキの部屋にいるかについては、昼間の奴隷商の件をユウキが必要以上に気に病んでいたことが、少し気になったからだ。


「口ではよく元勇者なんて言っているのに、赤の他人を救えなかったことを気に病むなんてやはり、ユウキ様は変わりものですね」


 アリシアは小さな声で独り言を呟いたあと、もしこんな独り言をユウキに聞かれればまた、不要な口論になると指先で口を塞ぐ仕草をする。

 そして、温かくなってるとはいえ、窓際に眠るユウキが風を引かないようにブランケットをかけ、自分がこのダメな元勇者に使えることに慣れてきていることに苦笑いしながら再び本に視線を落としのだった。



 このあと、起きたユウキになぜ自分の部屋で読書をしてるかと聞かれ、適当にはぐらかすアリシアとそれにつかかるユウキとで、結局口論になるメイドと元勇者だった。



 今回、アリシアとユウキについて書こうと思ったのですが、思うようかけませんでした。

 次回は、現役の勇者が登場です。


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