表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
72/125

二十二話 冷やし魔質、はじめました

 法暦六十五年、ナトリウムが魔化した。色は青みがかった白で、硬度が高く、磨くと艶々になる。宝石っぽい。

 ナトリウムの魔質の性質はすぐに分かった。なにせ放置しているだけでどんどん冷えていく。ちょっと目を離した隙に魔質に霜が下り、空気中の水分が結露・凍結して真っ白にコーティングされていた。うほっ、いい冷却機能。俺はこの魔質を北欧神話の冷たい狼さんにちなんでフェンリウムと名づけた。

 フェンリウムは一秒に1.05℃という物凄いスピードで温度が下がっていく。現在の温度計では測れないからはっきりしないが、恐らく絶対零度まで下がる。空気が液体になってるし。周囲の空気とまざってすぐに気体に戻るが。フェンリウムを水中に放り込めばすぐにフェンリウムを中心に冷えて凍りつくし、霜が降りたフェンリウムに火を当てて加熱し、温度を上げても、加熱をやめればあっという間に氷点下まで下がる。というか比熱が大きいからなかなか温まらない。温まってもすぐに冷える。水と比べてみたが水よりも比熱が大きかった。その比熱は5000J/(g・K)だ(※)。

 例によって無魔力空間に置いてみたが、冷却機能は停止しなかった。冷却は別に魔力を消費して行っているわけではないらしい。まあ(魔力)エネルギーを得る事で(熱)エネルギーを失うなんて意味不明だし。魔力を消費しないのは理解できる。

 が、ひたすら熱を失っていくというその性質が理解できない。

 おかしくね? なんで熱を失い続けるんだ? 熱しても熱しても熱があればあるだけひたすら冷却。周囲の熱を奪うのではなく、自身の熱を放出する事も無く、どこかへ消失? 貯蓄? させ続けている。どういう事なの。熱エネルギーを熱以外の形に変換して貯蓄しているとしても、無限に貯蓄し続けるというのは考え辛い。

 消失というのはもっと考え辛い……かと言えば実はそうでもない。擬似物質という前例がある。擬似物質に与えたエネルギーは擬似物質の消失と共に消失する。物理的にはエネルギーがまるっと消えるのは有り得ないが、魔法的には有り得てしまう。

 なんだかなー。フェンリウムは保有する熱エネルギーを一定ペースで消失させる魔質、という事でファイナルアンサーなのかね。そこはかとなくモヤモヤを感じないではないが、まあこんなもんだろう。

 ちなみにチオチモリンにはタキオン>グブレイシアン>フェンリウム>メタトロンの優先順位で溶ける。









 基礎学習院の院長にはロザリーが就任している。なんだかんだで里ができた最初期から俺に付き従っていたロザリーは知識も経験も豊富だ。そこを買っての院長である。

 そのロザリーは温厚でのほほんとしていて生徒から慕われており、かつかなり仕事もできるため頼りにもされている。里人の要望は高貴で高慢なシルフィアよりはロザリーに寄せられる事が多い。特に子供は魔力覚醒しておらず、俺が見えないので、子供のあれがやりたい、これがやりたい、はロザリーに集中する。大人連中の要望はけっこう俺にも来るんだが。

 そのロザリーに寄せられた要望により、魔法・科学大学共通科目、「医学」を追加した。俺は生前薬草を使った治療を施す医者の家系でもあったため、薬草治療は得意だ。魔法があれば済む話ではあるが、出かけた先で魔力が尽きていた場合に薬草を使ったり、魔法+薬草で治りを早めたり、という事があるので、魔法に頼らない治療を覚えておくのも有用だ。

 魔法だけではできない治療もある。例えば折れた骨を魔法でくっつけようとすると、どのようにくっつけるかが曖昧なイメージによって為されるので、物凄く強引にくっつき、紫色に腫れ上がったり血管が押しつぶされたりする上に、ほぼ間違いなく曲がってくっつく。しかし切開し、しっかりとくっつけ、縫合し、それから自然治癒を早める通常の治療魔法を使えば、効率的に、しっかりと、しかも早く骨をくっつける事ができる。癌の摘出も魔法では無理だ。魔法で癌を摘出しようとすると、うっかり心臓を摘出しかねない。他にも色々。魔法科学治療の分野を開拓しておいて損はない。

 今の所大学進学率は80%ほどだ。親の鍛冶や大工仕事を継ぐような奴は大学行ってもあんまり意味がないから、基礎学習院を卒業したら早々に働きはじめる。卒業資格を得れば定期収入が入るものの、頭の程度によっては最初から俺にゃあ無理だと諦めてチャレンジすらしない。まあ好きにすればいい。

 大学に進学した里人の選択科目は、要望が出て新しく設置されただけあり、医学がそれなりに人気だ。科学大学に進学か魔法大学に進学かは大体半々で、選択科目はけっこうバラける。魔法が存在しなかった世界の価値観を引きずっている俺が里人の立場だったら魔法科目に飛びつくんだが、この世界では、というか里の中では魔法が当然の摂理として存在しているので、魔法科目に対する里人の印象は他の科目と同列のようだ。魔法も所詮単なる学問という事だ。

 科目選択は個人の資質や性格などによって分かれ、例えば魔力密度が2.0mpに届いていない者は大抵「魔術」を選ぶ。魔力操作の熟練度を上げ、一定以上の魔力圧縮ができるようになれば魔法は使えるようになるとは言え、魔法が使えないというのはやはりコンプレックスになるようだ。せいぜいカナヅチだとか背が低いとかその程度の感覚と同じようだが。まあコンプレックスには違いはなく、それをバネに低密度の魔力の運用法を学び、あわよくば新分野を開拓してやろうと魔術を選ぶ訳だ。

 逆に生来魔力密度が高い者は大抵「魔法」を選ぶ。こちらは自らの長所を更に伸ばそうという考え方だ。「魔法」を学び、研究するには魔力密度が高いに越した事はない。

 「錬金術」は魔力密度の高低に関係なく平均的に選択される。理論上元素の数だけ魔質があり、これからの発展が確約された分野だとも言えるので、ある意味安牌なのだ。

 農家連中はまず間違いなく「生物」を選択する。肥料や家畜の飼育・飼料の研究もこの分野だからだ。ちなみに里では小麦を中心に芋、砂糖人参が多く作られている。家畜は羊か鶏。

 「化学」「物理」はセットで取られる事が多い。単純に科学が好きな者はこれを選ぶ。農家に生まれたけど畑仕事は性に合わないとか、魔法ってなんだか危なっかしくてこわい、という者も化学や物理に流れ易い。

 「日本語」は魔法大学の進学者は絶対に取っている。何しろ魔法関係の文章は全て日本語で記述されているのだ。魔法を学ぶなら日本語が分からないと不便で仕方ない。実質的に魔法大学の必修科目と化している。

 「ナルガザン語」「イクシニア語」「フビッタ語」は冒険心に溢れた者が選択する。里にいる限りでは必要のない科目なので、将来的に里の外に出て諸国を回ってみたい、と考える者が熱心に学ぶ科目だ。里の外に出るためには機密保持の関係で性格審査が行われるため、外国語選択者は性格審査でマイナスをつけられないように在学中から品行方正を心がける傾向にある。

 「医学」は怪我や病気に自分で対応できるように、と選択する者が多い。医者(俺による治療)にかかると金がかかるので、自分で治せるようになっておこうと考えるようだ(※2)。あとは流行病で里人が全滅する可能性を基礎学習院の授業でサラッと触れるため、そういう恐怖も影響しているのかも知れない。

 「天文学」「地学」「経済」はマイナーな部類の科目だ。星々や宇宙に興味がある者は少なく、地学はそもそも俺の現代知識が少ないため学ぶ内容が薄っぺらで、里の経済は里で完結しているため経済を学んでも机上の空論になってしまうものが多くほとんど活かせない。

 学校教育の現状はそんな所だ。ますますの科学と魔法の発展を祈る。


なんでそんなに正確に分かるの? という突っ込みは無しで。フェンリウムの比熱は実際に5000J/(g・K)丁度です。ちなみに比熱が大きい=温度変化をしにくい、熱しにくく冷めにくい、という認識でOK


※2

里の法では他者の治療には免許が必要だが、自分で自分を治療するなら特に資格は要らない。自己責任。


二十二話まとめ:

・ナトリウムの魔質をフェンリウムという

・フェンリウムは自身が保有する熱エネルギーを一定ペースで消失させる魔質。一秒に1.05℃下がっていく

・大学の選択科目に「医学」を追加


ちょっとアンケート。

次の次の話で残りの魔質が一気に全て出るのですが、その解説について。 三択です

①一気に魔質を一種類一種類全て詳しく検証、研究する描写をする。

②とりあえず魔質を一種類ずつ全てサラッと解説しておき、後で詳しい解説が必要なシーンになったら詳しい解説をする。

③魔質を一種類ずつ全てサラッと解説して、詳しい解説は【既出設定集】に載せるのみにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔化炭素にルビでグブレイシアン みたいな表記が良いな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ