十八話 フノジ大陸
マホウ大陸から東に行くと、フの字型の大陸に辿りつく。俺はこの大陸をフノジ大陸と呼んだ。まんまだ。
フノジ大陸の陸地面積はマホウ大陸の約二倍。この星最大の大陸だ。広大な大陸なだけあって同じ大陸でも緯度に大きな差があり、「フ」の「一」地域は寒冷な気候で、冬になると川や湾が凍りつく。「ノ」部分の緯度はマホウ大陸と同程度で、南に行けば南国の気候になる。雨量も多く、動植物に溢れた豊かな地域だ。
そしてそこに住む主要な勢力を築いている生き物は人間とドレイクである。大体「一」の北地域に人間が住み、「ノ」の南地域にドレイクが住んでいる。
というか北地域に人間が追いやられている。
南地域に住むドレイクは二足歩行の恐竜だ。外観的には小型のティラノサウルス、もしくは手負いの襲撃者、もしくはガッチリしたランポス。現地住民はなんちゃらと呼んでいたが断固ドレイクと呼ぶ。俺が法だ。
ドレイクの体色は薄茶色で、強靭な足腰と分厚い筋肉、頑健な鱗、ズラリと並んだ鋭い牙を持つ。手と足の爪はさして発達していないが、人間程度なら顎で首を噛み付かれたら容易く喰い千切られる。肉食、食欲旺盛で、繁殖力が強い。知能もそれなりに高く、連携して狩りを行い、鳴き声で意思疎通を図る。
ぶっちゃけ半端に武装した人間より強い。
フノジ大陸の人間は普通のスペックだ。三日ほどウィスプ数十万体で捜査して分かったところによると、白髪碧眼の白人で、身体能力に優れるわけでもなければ、魔力覚醒もしていない。文明レベルは近代のはじめ程度で、最近発明された初歩的な火器を持つが、命中率が低い上に射程も短く実用性に欠ける。もっと言えばその火器もドレイクの鱗は破れない。ドレイクの鱗かってえ……まあマンボウはライフルを跳ね返すぐらいだから火縄銃レベルの火器を跳ね返す竜ぐらいいてもいいのかも知れないが。
人間様だろうがなんだろうがおかまいなしにもぐもぐしにくるドレイクに人間も対抗しているのだが、どうにも上手くいっていない。落とし穴は察知されて避けられる。石垣や塀は半端な高さでは跳び越えられる。ドレイクはニメートルもジャンプするのだ。槍で突いても致命傷を与えるのは難しく、接近されて押し倒され、捕食される。連中は火を警戒はするが恐れるほどではない。昔は恐れたらしいが学習してしまったとか。
そんな訳で南地域はドレイクの支配域だ。ドレイクは変温動物であり、寒さの厳しい北部では暮らせないため、人間は北地域で暮らしている。
フノジ大陸の人間はアングローク人といい、多数の国家を乱立させている。中でも大陸西部の湖から少し離れた場所にある「ソビシア」と、ドレイクの生息域から若干北上した位置にある「フフリカ」が代表的な国だ。
ソビシアは夏しか使えないとは言え湖を領土に持ち、商業で栄えている国だ。東西の交易の中継地点であり、瑪瑙の産地でもあり、蒸留酒発祥の地でもある。ドレイクの生息域から持ち帰ったジャガイモっぽいイモを栽培し、酒を造り、それを蒸留して作る蒸留酒は寒さの厳しい北地域で体を温めるのには欠かせないものとなっている。このへんはロシアと変わらない。封建制で、なんというか……なんだっけか、サマルカンド? のような感じだろうか。交易で大陸中の富が集まっていて、活気がある。寒さが厳しいからこそ助け合いの精神が根付いていて、民の心には健全な競争心が灯り、ドロドロした足の引っ張り合いや権力争いは薄い。自然の驚異を前にして人間同士で争っている余力が無いのだ。
フフリカはソビシアよりも若干暖かい気候に恵まれているのだが、あくまでもソビシアと比較して、であり、温暖だとは口が裂けても言えない。ドレイクとの勢力争いの最前線の国で、合衆国っぽい。国としてまとまってはいるが地域(部族)ごとの権力が強いのだ。男子には兵役の義務があり、成人してから五年は前線に出なければならない。フフリカの領土の南はドレイクの活動域と被っているので、そのあたりの土地を守るために従軍するのだ。おかげでこの国の男達はガタイが良い。ちなみにもう百年単位でドレイクとの争いを続けているらしい。
さて。
①変則的精霊システムの導入
②里との間接的な交易
俺はフノジ大陸に対してこの二つの対応をとる事にした。
今は全く脅威にならないが、初歩的なものとは言え火器が発明されており、緑豊かな南地域への進出を悲願とするフフリカはこの新たな武器を改良していき、ドレイクを駆逐しようとするだろう。流石に魔法をもってしてもICBMを雨あられと撃たれたら面倒な事になる。そうでなくてもライフルで狙撃というのも少々厄介だ。毒ガス流されて里人全滅もいやらしい。そこまで兵器の改良が進み、かつ防戦オンリーで戦う事になればの話だが。マホウ大陸で石橋を叩いて渡るような理由でマッチポンプをしている以上、フノジ大陸でやらない理由はない。
科学の発達を邪魔するためとは言え、魔法が無い文明に魔法を持ち込むのはいかがなものかという不安もあったが、どうせ魔力覚醒していなければ魔法の実在を知った所でどうにもならない。科学ジャマーを優先する事にする。
「変則的」精霊システム、というのは、魔王制を敷かないからだ。既にフノジ大陸にはドレイクという明確な敵がいてヒイヒイ言っているので、そこに追撃でアンデッドの脅威をぶちこんだら人間達の心をへし折りかねない。主に精霊魔法を導入するだけだ。ドレイク撃退への必要性から精霊魔法を導入すれば依存してくれるだろうから、魔王で苛める必要もない。
しかし精霊魔法と言っても現在適用しているLv2スペルまでではドレイクに致命傷を負わせられない。
基本的に精霊魔法はLv1スペル(近くに精霊がいれば使える)が生活にちょっと便利な効果となっている。畑を耕したり、水を冷やしたり、そよ風で涼んだり、灯り代わりに火を灯したり。これがLv2スペル(精霊に自分専属になってもらうと使える)だと戦闘用。氷の槍を飛ばしたり、土壁を出したり、火球を投げつけたり。人間やアンデッド相手ならこれで十分だが、人間よりも遥かにしぶといドレイク相手では少々不足だ。
そこでフノジ大陸の精霊魔法Lv2スペルは少し質を変える事にした。
例えば水属性Lv2スペル、フリーズランサーを例に挙げよう。従来のフリーズランサーは魔法で一時的に氷に酷似した物質の槍を創造し、それを対象に向けて撃ちだす、というスペルだ。材質は氷で、射出速度もかなりのものだが、ぶっちゃけ多少威力の高い投槍とそう変わらない。それではよほど当たり所が良くなければドレイクは殺せない。
フノジ大陸版のフリーズランサー改は、これに吸熱効果を付与する。
そもそも魔法で物理的現象を再現する必要は無い。魔法は威力や範囲、効果時間に制限はあるものの基本的になんでもありだ。ただ氷の槍を創って飛ばすに留めなければならない理由はない。よってフリーズランサーに吸熱効果を付加し、命中した対象から急激に熱を奪う効果をつけてみた。魔法によって強制的に熱を奪われた生物は内側から凍りつく。フリーズランサー、相手は死ぬ。凶悪だ。
他にもファイヤーボールは熱を無理やり与えて瞬時に血液を沸騰させ内臓を焼くエグイ性能になっているし、グランドアンガーは土で敵を飲み込んだ後瞬間的に超高圧をかけて圧死させる仕様になっている。
しかし確殺仕様のスペルでドレイクを蹂躙されてもそれはそれで困るので、ドレイクをちょいちょいゾンビ化して手を回したり、命中精度を甘くしたりしておく。
精霊魔法についてはそれぐらいだ。
②の里との間接的な交易はこちらの情報を隠すために行う。フノジ大陸の人間で生きている方が害になるような人間を選んで顔を変えた後ゾンビ化させ、そいつに交易させる。里から輸出した商品はそのゾンビに渡し、「独自のルートで仕入れた珍しい商品」として売り払う。売った金でフノジ大陸の商品を買い、里に持ち込む。こうする事でこちらの情報を隠したまま交易可能だ。情報は渡さないに越した事はない。表立って交易する利もないしさ。
見慣れない商品の出所を疑われても、転送魔法で大陸間を移動しているので絶対に足はつかない。商人ギルドあたりに目をつけられ商売がやりにくくなったら別のゾンビを用意すればいい。
やっぱり魔法が無い大陸は面倒が無くていい。ヌラァフ大陸とは比較にならない短期間でフノジ大陸の処遇は決まった。
急ぎ足でフノジ大陸終了。西方諸島とかヌラァフ大陸とかフノジ大陸とか、このあたりは四章の中盤まであんまり絡んでこないと思います。次話は里。多分これも一話で終わる。里が終わったら研究に戻ります。
半分ぐらい深夜のハイテンションで書いたので変なところや抜けてるところがある、かも。でも投稿。
ソビエト+ロシア=ソビシア
アフリカ→フフリカ