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  作者: 柴原 椿
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第11話:竜の仕事

 「え〜と、まずですね。今回捕まえた奴の、尋問代はサービスしとくんで、次のステップの話をしますわ」

 「え!?ちょっと待って!」

 俺は、竜王の言葉を、右手で制した。

 「何スか?柊さん」

 「それって、この間、俺達を襲って来た奴の事?俺、何も聞いてないんだけど…」

 竜王は、怪訝な顔で、俺を見た。

 「蒼の旦那に、聞かなかったんスか?ったく、あの人は…」

 「確かに、知人に預けたって、蒼は言ったけど、詳しくは、教えてくれなかったし…」

 竜王は、溜め息をつきながら、こめかみを押さえた。

 「ん〜…めんどくせ。まぁ、簡潔に言うと…俺は、旦那から預かった輩を、尋問して、取れるだけの情報を取れって、命じられたんス…んで、情報に対する料金を頂きたく、代わりとはいえ、柊さんに来てもらったって感じっス」

 「でも、さっき、尋問代はサービスって言ったじゃん?て事は、情報は取れなかったの?」

 竜王は、貧乏揺すりをし始めた。

 「もう、質問の多い人っスね。今、話しますから、ちょっと黙って聞いててほしいっス」

 そうは言っても、分かんないんだから、しょうがなかろう。

 不満そうな顔の俺を、竜王は無視して、淡々と話始めた。

 「尋問した奴から、雇い主とかの情報は入んなかったっス。でも、調べて分かったのは、あの男は、佐山組って言う、指定暴力団の組員だって事っス。この佐山組ってのは、政治家とつるんで、あこぎな商売をしてるって、裏世界じゃ有名な奴等なんスよ」

 竜王は、一度、話を切って、真剣な眼差しで、俺を見た。

 「これは推測ですが、もしかしたら、今回の一件には、国会議員が絡んでいるのでは、ないでしょうか?それも、恐らく大臣クラスの人物が…じゃなきゃ、暴力団を動かす程の、力は無いでしょうし」

 俺は、愕然とした。まさか、身内に敵が居るなんて、考えもしなかった。

 「もう一つ言わせて貰えば、そこいらのヤクザ連中に、旦那を狙う理由なんて無い筈ですし、まして、旦那の私物が何なのかなんて、僕でも知らない事を、知っているとは考え難いっス」

 それも、そうだ。蒼は、最低でも50年は、隠居して居たんだし、それ以前でも、国民の前に、姿を晒した事は無いのだから…

 「柊さん。貴方の考えてる事は分かります。旦那が、国民の前に現れたのは、先日の記者会見が初めてっス。その前でも、旦那の存在を知っていたのは、極一部の人間…大袈裟に言っても、国民の99%は知らない筈です。もう、これは十中八九…以前から、旦那と、その私物を知ってた者の、差し金でしょう」

 そう考えると、かなり人数は絞られる。以前から、蒼の存在を知っていたのは、歴代の総理大臣、皇室。そして、今は前線を退いた、国会議員達…

 「犯人が分からない以上、迂闊に動く事は出来ないっス。そこで、次のステップの話です。今夜から、僕の持つ、全情報網を使って、犯人の手掛かりを探します。僕自身も、潜入捜査に加わるつもりです。それで、これには莫大な資金がかかりますので、料金が割高ですって、旦那に伝えてほしいっス」

 「因みに、いくら位なの?」

 竜王は、満面の笑みになり、さらっと言ってのけた。

 「ざっと、8億ってとこスかねぇ」

 「8億円っ!!!!」

 俺は、心底驚いた。8億円なんて、とても想像の及ぶ額ではない。

 「そんなに驚く事じゃないっスよ。一応、命の危険がある仕事なんでね。この位、貰わないと、割に合わないっスよ」

 「でも、そんな大金…」

 「あ、柊さんは、気にする必要はないっスよ。只、旦那に額を伝えてくれれば。どうせ、ポケットマネーから、払う筈ですから」

 確かに、蒼には何百億もの、資産があったのを思い出した。

 「旦那にしてみりゃ、はした金でしょ」

 竜王は、愉快に笑い声を上げてみせた。こう見ると、竜王は本当に普通の少年だ。とても、危ない橋を渡って、大金を稼いでいる様な人物には見えない。 『人を見かけで判断するな』

 以前、蒼が言った言葉を思い出した。なんだか、蒼と竜王には、何処か通じる所を感じた。

 「さて、僕の話は以上です。それじゃ、僕は仕事に移りますので、旦那にちゃんと伝えて下さいね。3日後に、また連絡しますんで」

 竜王が車から下り、入れ替わる様に、カラーが運転席へと乗った。

 「竜王」

 俺は、ドアを閉めようとしていた彼に声をかけた。

 「何スか?」

 「あんまり無理すんなよ…」 俺の心配をよそに、竜王は高らかに笑って見せた。

 「ハハハハハっ!!誰に向かって言ってんスか?僕は、竜王の名を冠する者ですよ。貴方こそ、せいぜい気を付けなさいな。国は更に荒れますよって…脆弱な覚悟じゃ、これから来る嵐の前に、耐える事は出来ませんよ」

 竜王は、静かにドアを閉め、車は走り始めた。

 「柊様、アイマスクをお忘れなく」

 「あ、はい」

 俺は、アイマスクを着けながら、竜王の言葉を思い出していた。

 国は更に荒れる、と竜王は言った。この国は、一体どうなってしまうのだろう…いや、この国だけではない。日本で生じた波紋は、いずれ世界中にも伝わる筈だ。

 『嵐』は、そこまで来ているのかも知れない…


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