【掌編】東條家のお正月
元旦は兄も姉も仕事が忙しく、テレビの特番がやたら豪華なだけの1日で終わった。
2日もそうだ。姉はイベントにひっぱりだこだし、兄も仕事関連のパーティーに出ていってしまった。
東條家が家族揃って正月を迎えられたのは3日を過ぎてからだった。
「茅姉、由比、雑煮餅何個入れる?」
「私2個」
「あ、私も!」
「はいはい」
皆でお雑煮を食べたあと、皆でお寺に行き、住職さんに挨拶をして、両親の墓に手を合わせる。日付がずれても、毎年の恒例行事は欠かさない。それが東條家の正月だった。
「テオもゆいのおとうさんとおかあさんにあってみたかったなぁ」
ぽつりと言うテオに、私はやっと思い出した。テオはもうずっとこの家にいる気分になっていたけれど、まだこの家に来て1年も経っていないのだ。そんな違和感も抱かないほどに、テオは東條家に馴染んでいた。
それはエノシマも同じだったけれど、エノシマはきっと両親の顔を覚えている。
「ゆい、どんなひとだった? やさしかった?」
そう訊ねられて、私は自分の両親のことを思い出す。……今までなるべく考えなかったことだ。寂しさがこみ上げてくるから。けれど、この日は違った。大好きなテオに、自分の大切な両親のことを話すのだから。
「……うん、厳しいときもあったけど、優しかったよ。お父さんは私には魔術の才能がないなら、それなりの教養をつけてきちんとした家にお嫁に出さなきゃ、って言ってたし、お母さんは心配しなくても、私は東條の子なんだからいつか目覚めるって励ましてくれた。……二人とも、優しかったよ。テオの両親は? 家族、いたんでしょ?」
私がそう言うと、テオは嬉しそうに言う。
「テオのおとうさんとおかあさんは、テオに『かり』のしかたをおしえてくれたよ! それに、たべられるきのみとか。……でも、おとうさんがニンゲンにころされちゃってから、テオはおかあさんやきょうだいたちとにげてまわってた。あちこちたびして、そうしてるあいだにも、きょうだいたちはニンゲンにころされてどんどんへっていくし、ひどいしにかたしたきょうだいもいる。でも、おかあさんはしぬまえまで、いつもいってた。ニンゲンはよわいから、ワーウルフがこわいだけなのよって。だから、ニンゲンをにくいっておもったことはなかったなぁ」
さらりと言うが、テオの過去もなかなか重い。テオのいたシオドミアンではワーウルフが迫害され続けた種族だということを改めて実感し、テオの手をぎゅっと握る。
「……テオはもう、そんな思いしなくていいからね。テオは私達の家族なんだから」
私がそう言うと、テオは嬉しそうに尻尾を振る。
「うん。かやも、しょうも、エノシマも、おとぎりも、ゆいも、みんなかぞくだ。オショウガツ、はじめてだけど、テオはこれからまいとしこれにさんかできるのうれしい」
召喚獣だろうと、式神だろうと、私達は血の盟約を交わしている以上、家族だ。血を混ぜ、同じエーテルを分かち合い、共に生き、どちらかが死ぬその日まで。
「かぞくって、あったかいばしょなんだって、おもいだした。みんなのおかげだ。ありがとう、かや。ありがとう、しょう。ありがとう、おとぎり。ありがとう、エノシマ。……ありがとう、ゆい」
テオの言葉を聞いて、お姉ちゃんもお兄ちゃんも弟切さんもエノシマも笑顔になる。素直なテオの素直な言葉に嘘はない。それを今日までの生活でよく知っていたから。
「由比、テオくんを大事にするのよ? こんないい子、そうそういないんだから」
姉に言われ、私は顔が赤くなる。何故だか知らないが、やけに恥ずかしい。
「あっ、当たり前だい! 私の召喚獣は、テオだけなんだから!」
三が日を終えた町並みは徐々に年始の浮かれた空気から、日常に戻っていく。私達家族はそんな中で年始の浮かれた気分をやっと味わえる。
普通とは違う家だけど、普通のこともちゃんとしてくれる家族に恵まれた私は幸せ者だ。テオが言いたかったことも、きっとこういうことなのだろう。




