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14 守りたいもの

  ミレイナが口を開こうとした。

 リナスも、何か言葉を探すようにアドルフを見つめていた。

 けれど、二人が声を発するよりも先に、ゆっくりとその視線を受け止めながら、アドルフは静かに話し始めた。

 

「……俺は、トラヴィスさんを助けたい。

 そのためなら、これくらいのリスクは負わせてください。

 お願いします……二人の息子として、わがままを言わせてください。

 この手で父さんと母さんを守りたいんです……」


 その言葉に、ミレイナは――こんな時なのに――嬉しさで涙が止まらなかった。

それは、アドルフから最も聞きたかった言葉だったのかもしれない。

 

 もう何年も前に亡くなった息子、カイランからしか聞けなかった言葉。

別に、そう呼ばれなければ家族じゃないなんて思ったことはない。

 

 けれど、言葉にされると、こんなにも嬉しいものなのだと、今さらながらに思い知らされた。

そして同時にミレイナはアドルフのことを止められないとも感じた。


 (トラヴィス……早く起きないと、もう言ってくれないかもしれないよ?)

 

 そして、”母”は”息子”を抱き寄せた。

 

「アド、無茶はだめよ? 私たちの大切な息子なんだから……必ず帰ってくるんだよ」


「はい……母さん、行ってきます」


「アド、私には……?」


 リナスがアドルフに向かって手を広げる。

 

「今回だけだからね?」


 そう言って、アドルフはリナスを抱きしめた。

 

「リナス、父さんと母さんをよろしくね……」

 

「お姉さんに任せて行ってきなさい……。ちゃんと帰ってくるのよ? 弓もまだ教えてないんだから……」


 リナスの腕の中で、アドルフはしっかりと頷いた。

そしてアドルフはダリオンのもとへと向かう。


 大切な人たちを守るために。

 

 

 ダリオンとアドルフは、ミレイナたちと離れた位置へと移動していた。

森の中でも少し開けた場所に出たところで、アドルフが声をかける。

 

「ダリオン、この辺でいいんじゃないかな?」


 ここなら奇襲にも備えられるし、追手が来たとしても先に目視できる。

ダリオンも頷いた。


「それじゃ、アド。やるよ……」


 ダリオンは右手のエーテルリムに左手を添え、手のひらを天に掲げる。

魔石から放たれる赤い光は、これまでに見たことのないほど強烈だった。

 

 手のひらに火の玉が形成されていく。

熱波が周囲に広がり、ダリオンの額には汗が滲む。

 

 (これが……ダリオンの本来の火の魔法……)

 

 エーテルリムは、通常一つの魔法しか使えない。

だが、希少なものには複数の魔法が込められている。ダリオンのエーテルリムは、まさにその類だ。

 

 そして今いる場所は、七支樹とは離れているため、魔法の充填はもちろん出来ない。

それでも、ダリオンには確信があるのだろう。


 この火球でヴァルクを呼ぶことが、最も確実な生還への道だと。

 

 火球は荷馬車ほどの大きさに膨れ上がり、熱波が二人を包む。

ダリオンは片目を瞑り、火球を上空へと放った。

 

 火の玉が音もなく打ち上がる――。

強烈な爆発音とともに、夜の暗闇が音と光で引き裂かれた。

 

  

 遠くで激しい爆発が起きたのを三人の人影が確認していた。

一人はヴァルク。その魔法が己が主君の魔法であるとすぐに分かる。

 

 夜の森で荷馬車の足跡が見えづらくなっていたからこそ、その光はあまりにも眩しい。

場所を知らせるためのものだとすぐに気づく。それは自分の為に行った合図と見てまず間違いないだろう。


 だが、その切り札のような魔法をわざわざ空中へ放つということは、同時によくないことが起こる、あるいは起きていると言えるということだ。

ヴァルクは大きな剣を背負っているとは思えない速さで夜の森を駆ける。

 

 そしてヴァルクとは別に、もう二人がその魔法を見ていた。

火球の残光を見上げながら、黒装束の男が静かに口を開く。

 

「……ナクトル様の話にあった魔法だ。ということは、あそこに王子がいるな」


 盾とガントレットが一体となった装備を両腕に装着した男――ザイラン。

華奢にも見えるが、無駄な筋肉が一切ない、研ぎ澄まされた体を持つ。

 

 隣に立つ女も黒を基調とした衣装を纏っているが、素肌の露出がやや目立つ。彼女の名は――シェルカ。

月明かりに照らされると、妖艶な雰囲気を纏いながら、指先を唇に運ぶ。

 

「ザイラン、ヴァルクがいたら私に殺らせてよ?  帝国兵なんて、退屈だったわ。ヴァルクくらいじゃないと、楽しめないもの」


 もう片方の手では、愛用の短剣をくるくると回している。

 

「シェルカ、今は王子の抹殺が優先だ。それが片付けば、ヴァルクだろうが何だろうが好きに殺し合って構わん。

 だが、ナクトル様の命令は最優先だ」


 その返答にシェルカは大袈裟にため息を吐きながら答える。

 

「はぁ~……。分かったわよ。じゃあ王子と護衛がいたら、王子はザイラン。護衛は私がやる……それでいいわよね?」


「あぁ、分かった。それでいい」

 

 満足げに笑ったシェルカは、火球のあった方へと跳びながら一言残す。

 

「じゃあ、早い者勝ちね」

 

 一瞬にして夜の森に消えていった。

  

「……なんでそうなるんだ」


 頭を抱えながら、ザイランも任務遂行のために夜の森へと消えていった。

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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