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晩餐(主の帰還を祝う餐)

 久しぶりに主を迎え、屋敷の食堂は賑やかな活気に満ちていた。

 重厚な燭台に灯された幾十もの火が、磨き上げられた食卓を明るく照らし出している。上座には伯爵と夫人、その間に挟まれるようにして、両親の帰還を心待ちにしていたクララが席を占めていた。伯爵のすぐ隣には、客人であるイルムガルトの席も用意されている。


 宴の始まりを告げるのは、クローブやシナモンの香りが立ち上る、温かなスパイス入りの赤ワインだ。


「さあ、まずはこの地の恵みに感謝し、再会を祝おう」


 伯爵の力強い発声とともに、主の帰還を祝う杯が交わされた。

 卓に並ぶ料理は、どれも贅を尽くしたものだった。普段の黒パンではなく、精製された小麦で焼かれたふんわりと白いパンが供されると、クララは思わず「わあ、真っ白!」と歓声をあげてしまった。


「クララ、淑女は食卓で騒いではいけませんよ」


 母エリーザベトの穏やかな、けれど芯の通った叱責に、クララは慌てて口を噤んだが、その瞳はご馳走を前にして爛々と輝いている。


 運ばれてきたスープは、干した鹿肉からじっくりと出汁を取った、滋味深い琥珀色のものだった。添えられた硬質チーズの濃厚な香りが食欲をそそる。


 主菜は、この日のために料理長マルティンが自ら森へ入り、仕留めてきた獲物たちだ。滴る肉汁を閉じ込めた鹿の腿肉のローストと、香草とともにじっくりと煮込まれた猪肉。それを伯爵自身がナイフを握り、手際よく皆の皿へ切り分けてゆく。


「閣下の留守中も、領地はつつがなく、我らに豊かな恵みをもたらしてくれました」


 家令のベルナーさんが、皿を運ぶ合間に恭しく報告する。その言葉を裏打ちするように、肉の野趣溢れる旨みが口の中に広がった。


 食後の締めくくりには、じっくりと火を通した焼き林檎が供された。黄金色の蜂蜜がとろりと掛かったそれはクララの一番の好物で、彼女は今度こそ声を上げぬよう注意しながら、幸せそうに頬を緩めた。


 食事の間、伯爵はイルムガルトへ向けて、クララのお守りの件に深い感謝を述べ、同時にその負傷を案じる言葉をかけた。


「イルムガルト殿、その腕の傷、後で見せていただけないだろうか」


 伯爵の声音は優しかったが、その瞳の奥には、領主としての抜き差しならない厳しさが宿っていた。


「……火傷の痕に、妙な紋様が浮かんでいると聞いた。もし私の懸念が正しければ、それは古き伝承にある『招かれざるしるし』かもしれん」


 伯爵の脳裏には、先代から密かに語り継がれてきた、あの森の「封印」にまつわる不吉な図形が浮かんでいた。イルムガルトは静かに頷き、包帯に巻かれた右腕をそっと庇うように押さえた。


 華やかな晩餐の灯火のすぐ外側で、夜の闇が音もなく屋敷を取り囲んでいた。

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