第259話:【星空のキャンプファイヤー】
合宿最後の夜。
ログハウスの前には大きなキャンプファイヤーが組まれ、天に向かって真っ赤な火柱が上がっていました。
昼間の喧騒が嘘のように、周囲は深い静寂に包まれている。
サークルのメンバーたちは、思い思いに火を囲んで座っていました。
ジョージさんは珍しく静かにギターを爪弾き、チャイさんは火の粉が夜空へ消えていく様子を「形なきものの帰還……」と満足げに眺めています。
私はひまりと、そしてエカテリーナさんと肩を並べて、パチパチと爆ぜる薪の音に耳を傾けていました。
「……ねえ、みゆ。明日にはもう帰るなんて、信じられないわね。なんだか、一週間くらいここにいた気分」
ひまりが、膝を抱えながら少し寂しそうに笑いました。
「ええ。……毎日がカオスすぎて、一秒も退屈しなかったもの」
火の光に照らされて、私の指先のネイルがキラリと反射した。
それを見つめながら、私はずっと胸の中にあった言葉を、ゆっくりと紡ぎ出す。
「……ひまり、エカテリーナさん。私、ここに連れてきてもらって本当によかったわ」
二人が、不意を突かれたように私を見ました。
「私、ずっと怖かったの。配信を始めて、登録者が増えて……。画面の向こう側の『完璧なお嬢様』を演じるのに必死で、本当の自分がどこにいるのか分からなくなっちゃって。でも、この合宿で、二人と一緒に泥まみれになったり、変な言葉で笑い合ったりして……。あ、私、ただの『守乃みゆ』でいいんだって、やっと思えたの」
「みゆ……」
「……姐さん」
ひまりは少し目を潤ませ、エカテリーナさんは真剣な顔で私の言葉を一言も漏らさぬよう聞いていました。
「私を箱の中から連れ出してくれたのは、ひまり。そして、その不器用な優しさで私の足元を照らしてくれたのは、エカテリーナさん。……二人のおかげで、私、もっと自分と向き合える気がする。今の私は、まだ何者でもない『子ども』だけど……いつか、二人みたいに誰かの支えになれる大人になりたいわ」
少し恥ずかしくなって俯いた私に、ひまりが勢いよく抱きついてた。
「もうっ、みゆったら! そんなの、当たり前じゃない。あんたがどこまで行っても、私は一番のファンで、一番の親友なんだから!」
「……姐さん」
エカテリーナさんが、スッと立ち上がり、胸に手を当てて深々と頭を下げてくる。
その瞳は、いつになく穏やかで、けれど揺るぎない光を感じた
「私にとっても、姐さんとの日々は『死に場所』を探すような荒んだ心に差した一筋の光……。いえ、最高の『可愛い』の教科書でした。これからも姐さんの背後は、この私が死力を尽くして守護り抜きます」
「……ありがとう。でもエカテリーナさん、死に場所とか物騒なことは言わないでね」
私が苦笑いしながら言うと、エカテリーナさんもまた、火の光の中でふっと、本当に少女らしい柔らかな微笑みを浮かべました。
見上げれば、満天の星。
電波は届かないけれど、心は誰よりも強く繋がっている。
この夜の温度を、火の粉の輝きを、私は一生忘れない。
「さあ! しんみりするのはおしまい! 最後はみんなでマシュマロ焼きまくりましょう!」
ひまりの号令で、再び賑やかな笑い声が戻ってきました。
私は、隣で「……このマシュマロの弾力、防弾チョッキに応用できるのでは?」と真面目に考察を始めたエカテリーナさんと、それを全力で止めるひまりを見ながら、心から思いました。
——明日からの配信、きっと今までで一番、いい声で話せる気がする。




