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第128.5話(前編):【重すぎるチップ】画面越しの戦慄


佐藤家のリビング。窓の外では季節外れの強い風が吹き荒れ、ガタガタと古いサッシを鳴らしていました。


みゆは大学のレポートを広げてはいるものの、ペンは止まったまま。


その視線は、机の隅に置いたスマホに釘付けになっていました。


画面に映っているのは、数日前に配信され、今もなおネット上で語り草となっている『櫻守事務所、存続をかけた運命の勝負』のアーカイブ動画です。


「……ねえ、おばあ様。この時の華蓮さんの表情、何度見ても胸がギュッとなるわ」


動画の中では、かつて「ギャンブル狂の女王」と豪語していた華蓮が、震える指を抱え、泣きじゃくりながら蹲っています。


一期生たちの未来という、あまりに重すぎるチップを前にして、彼女の「直感」も「強運」も、完全に沈黙してしまった瞬間でした。


「おばあ様は……どうしてあんな残酷な真似をしたの? ギャンブルなんて、結局は人をこんなに苦しめて、壊してしまうものじゃない。おばあ様は、本当にギャンブルを肯定しているの?」


みゆの問いかけは、どこか責めるような響きを帯びていました。


平和な佐藤家のリビングで、あの「地獄のような二択」を突きつけた咲子の真意が、どうしても測りかねていたのです。


三郎のセンサー部分を、専用の柔らかいクロスで丁寧に拭き取っていた咲子は、手を止めるとゆっくりと顔を上げました。


「おほほ。みゆちゃん、あなたにはあの時の華蓮さんが、ただ追い詰められた弱者に見えましたの?」


「えっ……だって、あんなに震えてたじゃない。人生を賭けたハイ&ローなんて、悪趣味だよ」


「いいえ。わたくしには、彼女が人生で最も気高く輝き、そして『外交官』としての第一歩を踏み出した瞬間に見えましたわ」


咲子の瞳には、いつもの余裕ある微笑みとは違う、鋭くも温かい色が宿っていました。


「いいですか、みゆちゃん。破滅願望……つまり、負けることでしか自分の存在を証明できないような歪んだ執着さえなければ、ギャンブルは人間を磨く最高の砥石といしになりますのよ。わたくしが華蓮さんに教えたかったのは、ギャンブルの止め方ではなく、本物の勝負師が背負うべき『チップの正体』でしたの」


咲子は三郎をそっと床に置き、かつての激動の時代を思い返すように、遠い目をしました。

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