第124.5話(前編):【社交界の砂漠】仮面たちの晩餐会
真夜中の佐藤家。屋根裏部屋の窓を叩く冷たい風の音を聞きながら、みゆは週末の不燃ごみの日のためにごみの分別を丁寧に空にしていました。
ふと手元のスマホに目を落とすと、画面の中では一期生の一人が深夜の雑談配信をしており、絶え間なく流れるコメントが暗い部屋を微かに照らしています。
「ねえ、おばあ様。こんなに遅い時間なのに、数千人もの人が集まってるわ。『明日も仕事だ』とか『独りだと寂しい』とか……みんな、ここが唯一の居場所みたいに見えることがあるの」
咲子は温かいほうじ茶の湯呑みを両手で包み、立ち上る湯気をじっと見つめていました。
「……孤独、ですわね。それはどれほど時代が移ろい、便利な世の中になっても、人の心にこびりついて離れない影のようなものですわ」
咲子の瞳が、深い記憶の底へと向かいました。
「わたくしがまだ少女の頃、初めて煌びやかな社交界の晩餐会に出席した時のことです。そこは宝石のようなシャンデリアが輝き、極上の料理と数百人の人々が談笑する、まさに夢のような空間でした。けれど、わたくしが人生で最も深い孤独を感じたのは、皮肉にもその眩い渦の真ん中におりた時だったのですわ」
「えっ、あんなに人がたくさんいたのに?」
みゆが驚いて手を止めると、咲子は静かに頷きました。
「ええ。周囲の人々は皆、完璧な笑顔を貼り付け、外交用の『仮面』を被っていました。口から出るのは、誰かを傷つけないための社交辞令か、自分をより高く見せるための飾り言葉ばかり。本音を口にする者は一人もおらず、賑やかな笑い声が響けば響くほど、わたくしの中の空洞は広がり……自分が透明な壁の向こう側に置き去りにされたような、そんな『群衆の中の孤独』に、ただ震えておりましたのよ」
煌びやかなドレスに身を包みながらも、心は極寒の地に放り出されたような感覚。
少女だった咲子が、華やかな社交界の裏側で初めて目にしたのは、繋がりを装った絶望的な断絶でした。
「どんなに人がいても、心が通い合わなければ、そこは砂漠と同じですわ。……さて、みゆちゃん。そんな乾ききった夜に、わたくしを救ってくれたのは誰だったと思います?」




